絶対不可避の異世界更生   作:浅葱 沼

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帰路

 

 クゥと二人で岩壁に沿って洞窟を探すと案外あっさり見つけることができた。

 

「ここっぽいな」

「結構奥まで続いてそうですけど、入るんですか?」

 外の明るさと対照的にどこまで続いているか分からない暗く湿っている洞窟を二人で覗き込む。

 

「クゥはここで待ってていいぞ。俺が中に入って取ってくるよ」

 身の回りの装備を確認しながら大きい荷物を置いてクゥに待つように言う。

「え?…はい」

 

 クゥは一瞬驚いたような顔をした。そんなに驚かなくてもわざわざ危ない洞窟の中にこんな小さな女の子連れて行く訳には行かないからな。

 

「じゃあ行ってくるよ」

「ちょっと待って下さい」

 洞窟に足を踏み入れようとするとすぐに呼び止められた。

 

「どうした?心配しなくてもすぐ帰ってくるから安心しなよ」

「そうじゃなくてですね」

 顔を赤らめながら否定された。大人ぶりたい年頃なのかな、などと思いつつクゥの顔を見ていると、クゥは暖を取るような形で両手を前に出し、なにやら呟いている。

 

『筋力強化』

『敏捷強化』

『持久力強化』

『視力強化』

 

 このような事を呟くと、クゥの周りがほのかに光りだしたと同時に俺の体がみるみる軽くなり、力が漲ってくる感覚を感じた。

 

「これで少しは戦いやすくなると思います」

「これって支援魔法ってやつか?」

「はい。私、支援魔法だけは得意なので」

 にっこりと笑いながら照れ臭そうに頬を掻く。

 

「ありがとう。なんかすげー調子いい感じがするよ」

「気をつけて下さいね。危なかったら逃げて下さいね。私なんかの為にここまでしていただいて、本当にすみません」

 また申し訳なさそうに頭を下げられる。

 

「気にしなくていいって、じゃあ行ってくるよ」

 そう言いながら笑ってみせて、俺は洞窟へと足を踏み入れていった。

 

 

 

 洞窟内は暗い……はずなのだが、クゥの『視力強化』のおかげか全体的にほんのりと光が差しているような明るさに感じる。

 

 慎重に奥に進んでいると、視界の端の岩陰で何かが動いた。短剣を構えてそこを覗き込むと何かが飛びかかってきた。

 

 普段より軽い体は飛びかかってきたモノに瞬時に反応し、上半身を捻って身を躱しながら短剣を横薙ぎに振るう。何かを切りつけた感覚が短剣を伝って腕に感じる。

 

 切りつけた何かは、べちゃりという音と共に地面の落ちる。振り向きながら正体を確かめようと目を凝らす。

 

 そこにいたのは半透明で全身がゲル状の液体で構成されている スライム だった。

 

「うわー、話には聞いてたけど本物は初めて見るな」

 

 ギルドで聞いた話によると、こいつは中心にある核を破壊しない限り再生し続けるらしい。強くはないが素早く、攻撃を受けるたびに全身にスライムのゲルが付き汚れるしで初心者探索者泣かせの魔獣だそうだ。洗濯代も馬鹿にならないのでスライムのいそうな所には近づかないようにしていたが、今はそんな事を言ってる場合ではない。

 

 すぐさま俺は短剣を構え直して剣先をスライムの核に狙いを定める。足を擦りながらじりじりとスライムに近づき、射程圏内に入った瞬間、鋭く突き刺す。狙い通り、短剣は核を貫き、スライムは形を保てなくなりドロドロと崩れていく。

 

「うげぇ、噂通りベトベトだな」

 腕に付いたスライムの粘液を振り払いながら奥へと進む。

 

 その後すぐに洞窟の終点に突き当たった。周りを見渡すと壁の下に植物が生えているのを見つけた。それは、その辺にあるような花と同じような形をしているが、一つだけ明らかに違う場所がある。それは茎から伸びた花の部分が雫の形をした透明な実をつけている所だ。十中八九これがシズク草で間違い無いだろうが、

 

「スライム見た後に見たくなかったな」

 

 シズク草を根本から優しく摘み取り、それを持って洞窟の入り口へと急いで戻る。

 

 外に出ると、クゥが膝を抱えて小さく座っていた。

「コウイチさん!おかえりなさい。大丈夫でしたか?」

「なんてことないさ、スライムが一匹出ただけだよ」

 

 粘液で汚れた服のそでを振りながら茶化してみせる。

 

「そんなことより、ほらこれ」

 俺は手に持っているシズク草をクゥに見せる。

 

「ほんとに見つかったんですね!すごいですコウイチさん!」

 顔を輝かせて喜ぶクゥ。こんな匂い喜んでくれるなら頑張った甲斐があるというものだ。

 

「お礼は呪いが解けてからでいいよ」

 シズク草を渡して、使うように勧める。

 

「では、いただきます」

 クゥは、ぱくりと一口で雫の部分を口に含む。すると…

 

「ゔっ」

 クゥは突然、苦しそうにその場にしゃがみ込む。

「大丈夫か!?」

 

 うずくまりながら大丈夫だと言わんばかりに頷くクゥ。

 

「苦いです」

 少し舌を出しながら顔を歪ませたクゥ。

 

「それって苦いんだ。で、どう?呪いは消えた?」

「あ、はい。確認してみます」

 

 そう言うとクゥは目を閉じて黙り込む。

 

「完全に消えてはない、みたいですけど…大分弱まってます。これなら他の人達にはちょっと変な感じのする人ぐらいに見えると思います!」

「じゃあそれなら街に出ても大丈夫か?」

「はい!大丈夫だと思います!」

「やったな!」

 俺達二人は手を繋いで飛び跳ねながら喜びを分かち合う。

 

「じゃあ俺が今住んでる王都に行こうぜ。そこで完全に呪いを消す方法を探そう。俺も手伝うからさ」

 俺が明るく話しかけると、クゥは押し黙ってしまった。

 

「どうした?さっきのシズク草で具合でも悪くなったのか?」

「いえ、そうじゃないんですけど…」

 なんだか歯切れの悪い返事だ。

 

「じゃあ、どうしたんだ?」

「自分から頼んでおいてなんですが、どうしてそこまでしてくれるのかなって。見ず知らずの私なんかに…」

 

 あー、そういえば理由を言ってなかったっけ。

 

「クゥ、実は俺も2年ぐらい前に自分の田舎からこの辺に出てきたんだよ」

 俺はゴートに助けてもらったことや、生きる術を教えてもらったことをクゥに説明した。

 

「だから俺はその人みたいになりたいから困ってる人がいたら助けてあげようって決めたんだよ。だからクゥを助けるのも俺の自己満足みたいなもんさ」

「でも、コウイチさんの自己満足だとしても私はとっても助かりましたし、すごく…嬉しかったです!」

 

 クゥは俺の目を真っ直ぐに見据えて感謝の言葉を伝えてくれた。

 

「そう言ってくれると俺も嬉しいよ。じゃあ王都に行こうか」

「はい!」

 

 こうして俺達は王都への帰路についた。王都に着いたのは、もう日が沈もうかといった時分だった。

 

 

 

 

 ――王都探索者ギルドにて

「あ、お疲れ様コウイチ君」

 いつものようにロゼルさんはにこやかに笑いながら労いの言葉をかけてくれる。

 

「お疲れ様です。これお願いします」

 俺は袋に入れた薬草と魔獣の素材を受付に出す。

「はい、じゃあ査定させていただきますね。…あれ?」

 ロゼルさんは俺の後ろのフードを被ったクゥに目を向ける。

「コウイチ君、そちらは?」

「ああ、この子は最近ジャック山で噂になってた魔獣の正体です」

「どうも、クゥと申します。ご迷惑をおかけしてすいません」

 俺の背中から顔を覗かせ、ぺこりとお辞儀する。

 

「はい!?こんな小さな子がですか?いや、でも確かにこの子から漠然とですが不穏な雰囲気が伝わってくる気がしますけど」

 ロゼルさんは眉をひそめながらクゥをじっと見つめる。

 

「この子呪いをかけられちゃってたみたいで、他の人には魔獣に見えてたらしいんですよね。偶然ジャック山にシズク草があったんで、使ったら呪いは大分弱まったらしいんですけど、完全に呪いを解く方法とか分かります?」

「シズク草!?…ちょっと情報量が多すぎてついていけないです」

 ロゼルは頭に手を押さえて困惑しているが、すぐに気を取り直し、

「まぁ今日はもう遅いですし、明日また来てもらえますか?報酬も明日には用意しておきますので」

「了解です。じゃあまた明日」

 ロゼルさんに挨拶をして、俺とクゥはギルドの外に出る。

 

「さて、クゥ今日泊まるところのあてはある?」

 クゥはかぶりを振って、

「いえ、ここには初めて来たので」

「じゃあ俺が泊まってるコルト亭に来なよ。部屋も空いてたはずだし」

「本当ですか!助かります」

 こうして、クゥと二人でコルト亭に泊まることになった。

 

 コルト亭に着くとシャロットに俺がクゥをどこからか誘拐してきたと勘違いされたりしたが、なんとか誤解を解くことができ、クゥは俺の隣の部屋に泊まることになった。

 

 明日はギルドに行ってクゥの呪いを解く方法を詳しく聞かなければと考えながら、その日は眠りについた。

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