時間は少し遡り、俺とクゥがコルト亭に帰ってきた時。
「やぁやぁ、コウイチ君。おかえり」
食堂には髪が長いせいで目元が隠れている怪しい男、サルビアが座っていた。
「あー、サルビアさん。元気してた?」
俺はサルビアの情報でジャック山にシズク草を取りに行って。報酬を山分けする約束をしていたわけだが、肝心のシズク草はクゥに使ってしまったため、報酬は入ってきていない。
どう説明したものか。とりあえずしばらくタダで酒を奢らなければならないのは確定だろうな。
「僕はいつも通りさ。ところでどうだった?シズク草は」
「えーっと、そのことなんだけど、ちょっと色々あってさ」
報酬がないことを報告しようと思い席につき、シャロットにサルビアに酒を持ってくるよう頼む。
「おや?その子はどうしたんだい?コウイチ君」
俺の後ろに隠れているクゥの方を見て聞いてきたサルビア。
「あぁ、この子がジャック山にいるって言ってた例の魔獣でさ」
俺はクゥに視線をやり、挨拶するよう促す。
「どうも、クゥと申します」
小さくお辞儀をして、人見知りなのか俺の服を掴んでいるクゥ。
「あー、なるほどなるほど」
何かに納得したように頷くサルビア。
「つまりシズク草はその子に使っちゃったわけだね?」
「なんで分かんの?ちょっと怖いんだけど」
「やだなぁ〜、ちょっと予想しただけさ。ようはその子が困ってたから助けてあげたんだろう?良いことじゃないか。そして探索者ギルドのマスターに上手いこと丸め込まれて金に困ってるって所だろう?」
どこから情報を手に入れてるんだこの人は。
「まぁ知ってるなら話が早いや、稼ぎのいい仕事とかないかな、もちろんシズク草の分の報酬は俺が払うからさ」
サルビアは届いた酒を一気に飲み干して、
「あるよ、そんな都合のいい仕事。しかも君達二人でやるのにぴったりな仕事がね」
「ほんと!?助かるよサルビアさん。お酒おかわりお願い!」
金が手に入る目処さえ立てばクゥは探索者をやらなくてすむし、ちょうどいい。
「で?どういう内容の仕事なんだ?」
「誘拐犯を捕まえるって依頼だよ」
誘拐犯ときたか、相手が人ならまだ危なくないかな。
俺はサルビアの話を聞いてみることにした。
誘拐犯の捕獲依頼は以下の通りだ。
誘拐されたのは貴族の娘でカミラという子で、誘拐犯はこの前サルビアさんが話したクエス王国の裏で暗躍していると噂の秘密結社の一員らしいのだが、相当腕が立つらしい。貴族の家の警備を担当していた衛兵をあっという間に蹴散らしてカミラを攫って行き、身代金を要求。王国騎士団や探索者ギルドに通報すれば即刻娘は殺すとのこと。
前言撤回。めちゃくちゃやばそうな事件じゃん。
「そんな誘拐犯に俺らで太刀打ちできるの?」
「前にも言ったけど、僕はその人ができると思った仕事しか勧めないよ」
二杯目の酒を飲みながらあっけらかんとした態度で話すサルビア。
どうしたものか、危ない事にクゥを巻き込むわけには…
「私はやれます。コウイチさんには助けられてばかりですし、早く借金も返して、お役に立ちたいです!」
俺が悩んでいると横のクゥは依頼に乗り気らしい。
「ほんとに大丈夫か?相手は衛兵だって倒したって話だし、危険かもしれないぞ?」
「大丈夫です!危なかったら逃げますし、コウイチさんのことも守って見せます!」
こんな小さな女の子に守るって言われるとなんだか男として情けない気もするが…
俺の慎重過ぎる態度を見かねてか、サルビアが俺に後押しをするように、
「シズク草を取る時も彼女のおかげで魔獣と戦わずに済んだろ?」
「なんのことだ?シズク草を取るときはスライムがいたぞ?」
俺の返事にサルビアは不思議そうに顔を傾げて、
「彼女は呪いのせいで魔獣を寄せ付けないから、一緒にいれば戦闘になることはないだろう?」
俺はクゥの方に振り返って、
「………そうだったの?」
「えっと、あの、……はい」
クゥは気まずそうに目を逸らして答える。
「コウイチさん、とっても張り切ってたので、言いづらくて…」
「俺ってカッコつけようとすると失敗する呪いでもかかってんのかな」
「私は、そんなところも素敵だと思いますよ?」
「クゥ、それフォローになってないよ?」
気を遣われて少し泣きそうになった所で、サルビアが咳払いをして話を続ける。
「コウイチ君の失敗談は置いておいて、どうだい?やる気になったかな?彼女の支援魔法があればコウイチ君でも誘拐犯にも対抗できると僕は思うんだが…」
ここまできたらしょうがないか。
「分かった。やるよ。でも危険だと思ったらすぐ逃げるし、身の安全を優先するぞ。失敗しても文句言わないでくれよ?」
俺の答えにサルビア満足そうに頷き、
「あぁもちろんだとも。いつも通り成功したら分け前をくれる契約でいいとも。さぁ契約成立祝いだ!酒を頼もう!」
その後はベロベロに酔っ払ったサルビアと店にいた連中に絡まれたり、場の空気に酔ったのかテンションが上がったクゥに絡まれたりで気付けば日が沈もうかという時間になっていた。
コルト亭の裏で酔い潰れたサルビアを介抱しながら、自分は何をしてるんだろうと思いながら井戸の水を汲む。
「悪いねぇコウイチ君。うっぷ、今日は楽しい日だ」
吐きそうになりながらも喋り続けるサルビア。
「分かったからじっとしてなって。ほら、水飲みな」
桶から水を飲むサルビアを見ながら、俺の隣の部屋に連れて行って寝かしたクゥを心配していると。
「はいこれ」
サルビアがポケットから出した紙を渡してきた。
「これは?」
「依頼者の貴族の家の場所と紹介状だよ。明日行くといい」
「分かった。でも上手くいくとは思わないけど…」
俺が紙を受け取りながらぼやくと、サルビアは俺の肩に手を置いて、
「大丈夫だって言ってるだろ?コウイチ君。僕は君にとっても期待してるんだ。君は面白いし、将来きっと……」
急に黙り込むサルビア。
「どうした?」
俺が顔を覗いた瞬間。
「おろろろろろろろ」
「うぎゃあああ!!」
大リバースで大惨事である。
その日は、潰れたサルビアの為の部屋をコルト亭で借りて、そこにサルビアを放り込んでから眠りについた。