絶対不可避の異世界更生   作:浅葱 沼

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違和感

 

 ここは、クエス王都から少し離れたクイン山の麓にある廃れた館。かつては人が生活したであろう館の中は壁にヒビが入り、窓も割れている箇所の方が目立つ。外壁は野放図に伸びた植物が覆っており、最早かつての栄華は感じられない。

 

 そんな館の中に、長い黒髪を後ろで束ね、暗い室内で妖しく光る琥珀色の目を持つ女性。秘密結社『宵の手』のメンバーであるプリム・ロッシュはいた。

 彼女は貴族の娘、キーラ・セルンを誘拐した犯人である。

 

 プリムは気絶したキーラを横目で見ながら椅子に座り肘をつき、ため息をつく。

 「まったく、さっさとこんなこと終わらせて帰って酒でも飲みたいわね。しっかし、随分変わったお嬢様だね」

 

 床に寝かされている彼女はお嬢様らしいドレスを着てはいるが、明らかにその服に似合わない剣を腰に差していた。誘拐する時、剣を抜こうとしたので咄嗟に攻撃して気絶させてしまったわけだが。

 

 ま、こんな子に負ける程、やわな鍛え方してないから放置でいいけど。

 

 プリムは割れた窓から夜の空を見ながら、まだ届かない身代金を待つ。彼女の目は、月の光のせいか、より一層輝きを増したように見える。

 

 遠くで館のドアが開く音が聞こえる。身代金を持ってきたのだろうか、そうでなければ人質を奪還しにきたか、どちらにせよ痛い目にはあってもらうが…

 プリムは椅子から立ち上がり、客を迎える事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 窓から目元に差す陽の光と鳥のさえずりで目を覚ます。少し頭が痛い。机に置いておいた水を一杯飲み、出かける用意をして部屋を出る。まったく、昨日は酷い目にあった。

 

 ポケットからサルビアに貰った紙を出しながらクゥの部屋をノックする。

「おーいクゥ、起きてるかー?」

「は、はひ!今出ますね」

 部屋の中から慌てた声が聞こえる。

 

 少し待つと、フードを深くかぶったクゥが出てきた。

「お待たせしました」

「どうした?体調でも悪いのか?」

「あ、いえ、あのですね」

 もじもじとフードをいじりながら、

「昨日は、大変お見苦しいところを見せてしまい、すみません」

 

 なんだそんなことか。昨日、場の空気に酔ったクゥにも絡まれたのだが、それはそれで心を開いてくれたように感じて嬉しかったぐらいである。

 

「サルビアさんなんかもっと酷かったんだぜ?それに、クゥと仲良くなれたみたいで俺は嬉しかったよ」

「は、はい!私もです!」

 顔を明るくしてフードを外すクゥ。

 

「そんなことより、サルビアさんに依頼主の住所を教えてもらったから、飯食って行くとしよう」

 

 俺とクゥは食堂で朝食を済まし、サルビアさんに貰った紙に書かれている住所に向かうことにした。

 コルト亭を出る時ふと思ったのだが、貴族の娘が誘拐されてるのに昨日の晩に宴会まがいのことなんてしててよかったのか?

 俺の疑問は娘が誘拐されたはずの貴族、セルン家の前で更に深まることになる。

 

 

 

 

「誘拐?なんのことだ?」

 門の前に立っている門番に「何のことを言ってるのか分からないぞ」と胡乱な目で睨まれる。

 ここは紙に書かれた住所で合ってるよな?何度も確認してみるが、やっぱりここで合っているはずだが…。

 

「ここは貴様らのような平民が来ていい所じゃないぞ。帰った帰った」

 飛んでいた虫でも払うように手であっちに行けと仕草で語る門番。

 

 貴族様がそんなに偉いってのかよ。身分制度のことはよく分からないけど同じ人間だろうが。

 

 どうしたものかと業を煮やしていると横からクゥが門番に話しかける。

 

「あの、私達、キーラさんって方が誘拐されたって聞いたんですが、誘拐されてないなら別にいいんです。確認していただけませんか?」

 

 門番の返答はさっきと変わらず、

「だからキーラお嬢様なら誘拐されてないんだって、今朝見たばかりだ。それにあの方を誘拐したところで…」

 門番はなにやら含みのある笑みを浮かべて話す。

 

「そのキーラって子、なんかあんの?」

 

(わたし)がどうかしたの?」

 

 俺が門番に質問しようとした時、突然どこからか女の子の声が聞こえた。

 

 門番含め三人で周囲をキョロキョロと見回す。

「ここよここ!」

 上から聞こえた声に顔を上げると、門の向こう側に植えられた木の樹冠の隙間から顔を覗かせている女の子と目が合う。

 

「よっと」

 掛け声と同時に木の上から飛び降りてきた女の子は俺とクゥの前にすたりと降り立つ。

 

「私がキーラ・セルンよ。何か用かしら?」

 髪を手でなびかせながらそう話す彼女は、綺麗なブロンドの髪によく似合う高そうなドレスを着ているが、そのどこかしこに木の葉や木の枝が付いていた。

 

 それに、特に気になるのは彼女がドレスにあまりにも似合わない剣を腰に携えている事だ。とりあえず、お嬢様イコールお淑やかという俺の勝手な思い込みは改めることにしよう。

 

「キーラお嬢様!危ない事はおやめ下さい!」

 門番が青い顔をしながらキーラに注意する。

 

「大丈夫よ、どこも怪我してないから。それよりさっきの話の続きをしてみなさいよ。私を誘拐したところで…の続きを」

「それは、その」

 キーラの強い口調に門番はもごもごと口ごもり後ろに下がっていく。

 

「それで?さっき私が誘拐されたって話してたけど、あれどういうことなの?」

 俺とクゥの方に向き直り質問してくるキーラ。

「あ、いや、そういう情報を聞いたんですけど。本人がここにいるみたいですし、勘違いみたいですね。それじゃあ」

 

 

「なんだ騒がしい。人の家の前で何をやっている。」

 俺は状況がさっぱり分からないので帰ってサルビアに問いただそうと思いその場を後にしようとすると、門の中から男の声が聞こえた。次から次へと今度は誰だよ。

 

「これはパゴス様!大変失礼しました!」

 門番が頭を下げる先には小太りで髭を蓄え、見るからに高そうな服を着た男が両脇に使用人と思われる女性を二人連れて立っていた。

 

「あらお父様、おはようございます」

 ぺこりと挨拶するキーラ。

「キーラ!またお前は服も髪もそんなに汚してどういうつもりだ!」

「…ごめんなさい」

 パゴスが叱ると、肩をすくませて謝る。

 

「まぁいい、で?そいつらはなんだ?」

 俺とクゥを怪しむように見ながら門番に問うパゴス。

「はっ!この者どもがキーラお嬢様が誘拐されたと聞いたなどと話しておりまして…」

 パゴスはキーラの方をちらと見てから、

「キーラならここにいるではないか」と言う。

 

 どうしたものか、横ではクゥが俺の方を見ながら、「どうしましょう?」と小声で囁く。どうするもなにも誘拐がないんじゃどうしようもないしな。適当に誤魔化して帰るとするか。

 

 少し気になることもできたし。

 

 俺は一歩前に出てパゴスの目を見て話し始める。

「大変失礼しました。私は探索者をやっているツガヤマ コウイチという者です。貴族であられるパゴス様のご息女が誘拐されたという情報を耳にしまして、クエス王国に住む者として、いても立ってもいられず何かお役に立てればと思い来たのですが、どうやら私達の勘違いだったようです。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 それではと一礼をしてクゥを引き連れて今度こそその場を後にする。

 

 

「コウイチさん凄いですね。よく咄嗟にあんなに喋れましたね」

 コルト亭に帰りながらクゥが誉めてくれた。

「まぁ咄嗟の言い訳は俺の唯一の特技みたいなもんだからな。誉められたことじゃないけど」

 こんなことで誉められたことに少しむず痒く、頬を掻く。

 

「しかし、なーんかあのパゴスっておっさん怪しくなかったか?」

「え?どうかしたんですか?」

 思いもよらぬ発言だったらしく首を傾げるクゥ。

 

「だってあの人、門番が『誘拐』って単語話した時明らかに反応がおかしかった気がするんだよな」

「そうだったんですか?私、人がいっぱいで怖くてそれどころじゃなかったです」

 

 確かに誘拐されたって突拍子もないこと言われたにしても、目の前にキーラがいるのは分かってたことだし、なんか引っかかるんだよな。まぁ俺の考えすぎな気もするし、とりあえずサルビアさんに聞いてみることにしよう。

 

 

「それにしてもあのメイドさん達すっげー美人だったよな?メイドってみんなあんな人ばっかなのか?」

 俺が独り言を呟くと、

「コウイチさんはああいう大人の女性が好きなんですか?」

 とクゥが俺の方を何故か睨むようにして聞いてくる。

 

「いやいや、俺の好みかどうかなんて話じゃなくてだな、一般論だよ一般論。クゥだって美人だと思ったろ?」

「まぁ、確かに美人だと思いますが…私だっていつかは…」

 聞こえないほど小さい声でぶつぶつと何か呟いている。

 

 でも実際美人だったしなぁ。特にあの黒髪のメイドさん。長くて綺麗な黒髪で目は琥珀っぽい色してて映えてたな。あんな黒髪美人はなかなかお目にかかれんだろうし、眼福眼福。

 俺は手を合わせて天に感謝しておく。

 

 

 そんなことをしているうちにコルト亭に着いた。とにかくまずはサルビアに確認だな。俺はドアを開けて店の中に入っていった。

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