「うわー、映画なら幽霊でも出てきそうな見た目だな…」
俺とクゥは今、誘拐犯がいるという館を少し離れた茂みに身を潜めながら様子を伺っている。
「エイガってなんです?」
クゥは少女らしい可愛らしい顔を傾けて、初めて聞く言葉を不思議そうに聞き返してきたが、すぐに我に返り頭を振りながら、
「今はそんなことより。呑気な事言わないでください。今から私達、あそこに行くんですからね!」
「行くのは分かってるけど、作戦ぐらい立てとかないと駄目だろ?無策で行って全滅は洒落にならんぞ」
声を殺しながらも、鼻息を荒くして今にも館に突入しそうなクゥを抑える。しかし、なんでこんなにやる気なんだろうか。キーラになにか思うところでもあるのか?
「そうですね、コウイチさんは、なにかいい作戦ありますか?」
クゥは冷静さを取り戻して聞いてくる。
「……それを今から考える。とりあえず敵の数だ。クゥは探知系のスキル持ってたりするか?」
「魔力感知で館の中の人数ぐらいなら分かると思います」
「よし。じゃあ調べてみてくれ」
クゥは少しの間、館をじっと見つめながら、
「館の中には二人、いるみたいですね。二人とも二階にいるみたいです」
「多分片方はキーラだろうから、相手は一人みたいだな」
相手が一人なら…なんとかなるか?
「クゥ、お互いにスキルや出来ることの確認しとこう」
俺はステータスカードをクゥに見せることにした。
「コウイチさん、武術適正Sってすごいですね!」
「あー、それは…無いものと思っててくれ」
俺の言葉の詰まった返答にクゥは顔をしかめる。
「クエス王国に武術を学べる場所がないんだよ」
そう、ここクエス王国は、王国騎士団があるだけのことはあり、剣術がとても発展している国である。俺も自分のステータスに武術Sがある事を見た時、すぐに武術を学ぼうと思いギルドで聞いてみたのだが…結果は前述の通りである。
「だから、この適正は宝の持ち腐れってわけ」
「でもこの【正拳突き】って武術スキルじゃないですか?」
クゥは俺のスキルの欄を指差しながら聞いてくる。
「あぁ、それは偶然身についたスキルだな」
実は少し前の朝、鍛錬の時に見様見真似で空手の正拳突きをやっていたら、いつの間にかスキルの欄に追加されていたのだが。
「普通のパンチよりちょっと威力が出る程度のパンチだと思ってくれ」
「そうですか…、でもこの【絶対不可避】ってユニークスキ…」
「そっちはもっと話にならないから期待しないでくれ」
クゥの言葉を遮るように否定し、そのまま【絶対不可避】について説明することにした。
「それは…なんというか、大変ですね…でもでも、ユニークスキルは持ってるだけで凄いことですし、きっといつかコウイチさんの役に立ちますよ!」
俺の説明を聞いたクゥは、険しい顔をしながらも必死に慰めようとしているのが伝わってくる。まぁ普通はそういう反応になるよね。適正といいスキルといい、なんか絶妙に噛み合ってないよな。
「ありがとう、じゃあ次はクゥが使える魔法を教えてくれ」
一瞬、自分の不甲斐なさに泣きたくなったが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
その後クゥの使える魔法を一通り教えてもらい、それを元に作戦を立てて館に入ることにした。
「よし。じゃあ頼む」
館の玄関前でクゥの方を向き頷く。
「はい」
両手を俺の方に向けて支援魔法を唱え始めるクゥ。
「これで一通りの支援魔法はかけ終わりました。効果は5分程で消えるので注意してくださいね」
今度は互いに頷いて館のドアを開ける。
館の中は異様なほど静かだった。壁や柱には所々ヒビが入っており、全体的に少し埃っぽい。当然明かりは無いが、クゥの支援魔法のおかげで少し明るく見える。支援魔法は自分にかけられない為、クゥは暗さに怖がってか、俺の服の裾を掴みながら付いてくる。
これが誘拐犯に会いに行くためでなければ、妹とお化け屋敷にでも行ってる楽しいイベントなのだが。
館を探索し始めてから程なくして階段を見つけることができた。音を立てないようゆっくりと登り、クゥにもう一度、魔力感知で誘拐犯の詳しい位置を探ってもらう。
二階は階段を登って右に一本道になっており、左側に窓があり右側に等間隔でドアが付いているが、廊下の突き当たりにもドアがある。
「そこの突き当たりの部屋みたいです」
クゥの指差す廊下の先には、他の部屋より一回り大きい両開きのドアが付けられている。
俺とクゥは向かい合う形でドアの影に隠れ、少しだけ開けて覗き込む。中は随分広いようで隙間からでは全体は見渡せないが、床に横になっているキーラと思われる人影は見えた。顔は見えないが昼間に見た、ドレスに剣という目印のおかげで一目見てキーラだと分かる。
「キーラがいるのは分かったけど誘拐犯がどこにいるか分からないな。そっちからは見えるか?」
クゥに聞いてみるが、かぶりを振って返される。
それならともう少し隙間を広げようとドアに手をかけた瞬間ー
「コソコソしないで出てきたら?」
声が聞こえた。しかもとても近くから…、そう、まるで俺の目の前の扉を隔てたすぐそこといったところの…
「クゥ!逃げ…」
俺が退避を告げようとした瞬間、衝撃音と共にドアごと後ろに吹き飛ばされる。
「コウイチさん!」
「いってぇ…」
攻撃をもらった肩を庇いながら、粉々になりただの木片になった元ドアを払って立ち上がる。さっきまで俺がいた場所を見ると、そこには人影が一つ立っていた。
「あんたが誘拐犯か?」
俺が問いかけると同時に、窓から廊下に月明かりが差し、俺と人影が照らされる。
「あんたは…」
「あら?誰かと思えばあなた達、昼間の…」
そこにいたのは、服装もそのままの昼間パゴスの隣にいた、琥珀色の目が輝いて見える黒髪美人の使用人だった。
「どうやら、身代金を持ってきたわけじゃないみたいね。まぁどのみち痛い目にはあってもらうけど…」
俺を見てひどくつまらなそうに呟くと、クゥの方に目をやる。
「クゥ!」
「遅いよ」
クゥは俺の声に反応して、何か唱えようとした瞬間、誘拐犯に素早い当て身で意識を奪われ、床に倒れ込む。
「宣伝の為に自己紹介しておかなくちゃね、私の名前はプリム・ロッシュ。秘密結社『宵の手』のメンバーよ。以後はないかもだけど、よろしくね」
そう言いながら笑う彼女は、いやというほど美人である。