絶対不可避の異世界更生   作:浅葱 沼

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お買い物

 

「ふぅ…」

 朝の鍛錬を終えて部屋で一息つくこの時間は落ち着く。王都に来てから大変な目に遭ってばかりで心休まらない日々が続いていたが、汗をかいた体を水で流して部屋に戻り、水を飲みながら朝日を感じるこの時間だけは心が休まる。

 

 我ながらジジくさいなと思いながら、コップを口に運び水を飲もうとすると…

 

「コウイチ大変よ!起きなさい!」

 

 俺の癒しの時間の終焉を告げる声が聞こえてきた。思わずため息をついてしまいながら、コップを机に置く。

 

「ちょっと聞いてるの?起きなさいって!」

「起きてるよ!今開けるから、ちょっと待て!」

 

 ドアを叩きながら、がなる声を制止して椅子から立ち上がる。

 

「なんだよ朝っぱらから、今日は依頼(クエスト)受けないから休みって昨日言ったろ?」

 

「休みなのは知ってるわよ。今から市場に行くから着いてきてよ」

 

 今、目の前で突拍子もないことを言ってる金髪の女の子はキーラ。先日、誘拐されたところを助けた後、なんやかんやあって新たなパーティーメンバーとして加わった。

 

 その誘拐事件からもう1週間経つ、この1週間も随分と慌ただしい日々が続いた。

 

 誘拐首謀者のパゴスはキーラからの頼みで騎士団に突き出すようなことはしなかったが、キーラは公的に行方不明ということになっており、そのせいでギルドで探索者登録する時にも一悶着あったのだが、ギルド長(ブラン)がどうやってか、うやむやにしてくれたらしく登録できた。そのせいで手数料とか言って金貨5枚の借金が新しくできたわけだが…

 

 他にも、初めてキーラを連れて薬草採取クエストを受けたのだが、近くにいた魔獣を狩ろうと勝手に暴走して3人まとめてボロボロになって帰ってきたり。

 

 キーラが俺とクゥが宿で隣同士で住んでいると話すと、「私も住む!」とか言い出して本当に住みだしたり。今ではコルト亭の2階の3部屋は、奥から俺、クゥ、キーラの順で満室である。

 

 そんな毎日で疲れが溜まっていたので、今日は休みにして各自ゆっくり休養を取ろうという事になっているのだが…

 

「市場なんかになんの用があるんだよ?」

「シャロットが食材が足りないって話してたから、買いに行ってあげるって言ったのよ。私、市場って行ったことなかったから行ってみたかったのよね」

 

 この世間知らずの元お嬢様は好奇心旺盛なのはいいのだが、人まで巻き込むのはどうにかしてほしいものだな。

 

「まぁ、買い物ぐらいなら付き合うか。俺この後行くとこあるからさっさと終わらせよう」

「コウイチこそなんの用があるのよ?」

 

 俺に用事があっちゃいかんか。

 

「短刀だよ短刀。キーラが誘拐された館に忘れたままだから取りに行くんだ」 

 

 1週間バタバタしてたせいですっかり存在を忘れてたが、ゴートに貰った大事な短刀だから取りに行かなければ。あんな幽霊屋敷なら誰かに取られる心配はないと思うが、手元にないと不安だからな。

 

「それなら買い物終わったら付き合ってあげるから、さっさと用意しなさい」

「分かった分かった。じゃあ用意するからクゥも呼んでこいよ」

「クゥは今日、王立図書館に行くって言ってたからいないわよ」

「なるほど。じゃあ二人か」

 

 手短に用意を済ませて、何も買う予定はないが財布を持って市場に行くことにした。

 

 

  ◇

 

「ここが市場ね!、ほんとに色々売ってるのねー、あ!あれ何かしら?あれも!見たことない物ばっかりね」

 

 初めて見るものばかりらしく、目を輝かせて落ち着きのないキーラ。

 

「必要なものだけ買うんだぞ。いらないものは買わないからな」

「分かってるわよ」

 

 俺も市場は初めて来たが、確かに出てる店は多種多様で目を引かれる。食材を売っている露店だけで数えきれないほどあるし、他にもアクセサリーを売っている露店、日用品を売っている露店、見ただけじゃ何か分からない怪しい物を売ってる露店、見て回るだけでも中々楽しめそうだ。

 

 人も多いしさっさとシャロットの買い物を済ませて帰るとするか。

 

「おいキーラ、早くメモの店に…」

 

 周りを見渡すとキーラの姿が消えていた。

 

「ちょっと目を離したらこれかよ!ったく」

 

 

 キーラは一旦置いておいて、渡されたメモの店で買い物をしてキーラを探していると、人混みの中に知った顔を見かけた。

 

 

「こんなとこで会うなんて珍しいな。シェイク」

「ぎゃっ!ってなんだよコウイチかよ」

 

 どこから声を出したのか分からない目の前の男は、シェイクという探索者だ。ギルドで何度か話すうちに仲が良くなった数少ない同年代の男友達である。

 

「そんなにびっくりすることないだろ。何見てたんだ?」

 

 シェイクが覗いていた店を見てみると、なんだがよく分からない小瓶やら、何かの動物の干物だったりが置かれており、不思議な匂いを漂わせていた。

 

「なんの店だ?ここ」

「女の子に囲まれてるお前には必要のない店だよ」

 

 頭ごなしに否定し、どこかへ行けと目で語るシェイク。そんな風にされると余計に知りたくなるのが人間というものだ。

 

 シェイクの肩に腕を回し、

「そう言わずになんなのか言えよ」

 

 シェイクは観念したのか溜息をついてから話し出す。

「誰にも言うなよ?」

「言わない言わない」

 

 

「……惚れ薬だよ」

 

 

「惚れ薬!?」

「しー!、声がでかい声が!」

 

 俺の口を手で抑えながら小声で怒るシェイク。

 

「惚れ薬って、あの惚れ薬か?」

「そうだよ。飲ませた相手を虜にできるあの惚れ薬だ」

 

 そう話すシェイクは絵に描いたような悪い顔をしている。

 

「お前にはキーラちゃんやクゥちゃんがいるからいらないだろ?」

「待て待て、あの二人はそんなんじゃねーよ」

「信じられるか!ただでさえ貴重な女探索者を二人もパーティーに入れておいて何もないわけないだろ!」

 

 そんなすごい剣幕で言われてもほんとに何もないんですが…

 

「クゥは俺が犯罪者になるし、キーラに関しては美人かもしれないけど、一回殺されかけたんだぞ?何かあるわけないだろ」

「怪しいところだな」

 

 どうやらまだ疑惑は晴れていないらしく、じっとりとした目線を感じるが、話を変えよう。

 

「で?それ買うのかよシェイク」

「うーん。欲しい所だが、値段がなぁ」

 

 どれどれと惚れ薬の値札を見てみると、

「金貨1枚!?たっか!」

「だろ?こんなの買ったらしばらく生活がままならないぜ」

 

 肩をすくめて残念そうに話すシェイク。

 

 効くかも分からないこんな値段のものを買う物好きが世の中にいるんだな。などと考えていると、

「コウイチ、お前買えよ」

「俺が?」 

 さっきまでと打って変わって、急に薬を勧めてくるシェイク。

 

「お前、なんだかんだで金持ってるだろ?金貨1枚ぐらい安いもんだろ」

 

 確かに買っても生活には困らないが…

「効くか分かんないだろ?…これ」

「だから試してみてくれよ。値段の3割払うからテストしてきてくれ。効くと分かったら俺も買うから」

 

 俺で試そうとするなよ。

 

 けど、気になることは気になるな。

 

「親友を助けると思ってさ。な?」

 シェイクは祈るように上目遣いで懇願してくる。

 

 まぁ、そこまで言うなら?

 

「しょ、しょうがねえなぁ。俺は興味ないけど?そんなに気になるなら試してやってもいいけど?」

「さすがコウイチだぜ。それでこそ男だ」

 

 

 気がつくと、惚れ薬を買ってしまっていた。

 これは不可抗力というもの。友達の為に仕方なく買っただけだから。別にやましい気持ちとか一切ないから!

 

 惚れ薬の使い方は、惚れさせたい相手の飲み物に数滴垂らすだけらしいが…

 

 

「ちょっとコウイチ!どこ行ってたのよ?」

 どこか浮足立ったまま、市場をふらふらしていると後ろからキーラに声をかけられる。

 

「はい!ってなんだキーラか」

「なんだって何よ。探したんだからね?買い物済ませたの?」

「ああ、ほらこれ」

 

 シャロットのおつかいの品が入っている紙袋を見せる。

 

「そっちはなに?」

 キーラは惚れ薬の入った紙袋を指差して聞いてくる。

 

「これは、あれだ、俺の個人的な買い物だ」

「なんであんただけ欲しいもの買ってるのよ!ずるい!」

 明らかに動揺を隠せなかったが、キーラにとっては俺が個人的に買い物をしてる方が許せなかったらしい。

 

 そんなこと言われたって、俺のお金なんですけど。しかし、機嫌を損ねて紙袋の中身を詮索されるとまずいし、ここはご機嫌取っとくか。

 

「分かったよ。なんか好きなの一個買ってやるからそれで許してくれ」

「ほんと?じゃあまずは喉乾いたからどこかで飲み物買いましょ」

 

 ()()()って言葉が気になるが、惚れ薬がバレるよりましか。

 

 

 

 

 ちょっと待てよ?今飲み物って言った?

 これは惚れ薬の効果を確かめるチャンスってことなのでは?

 

 

 

 

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