「ほら、早く行くわよ」
コウイチはキーラが照れながらも手を引いている事など全く気付かず私利私欲の思考を深めていく。
問題は、どうやってバレずに飲み物に惚れ薬を混入させるかである。買ったその場で入れるなどまず不可能。愚策以外のなにものでもあるまい。どこかで気を逸らし、その隙に入れるとかか?いやしかし、こんなことをするのはさすがに罪悪感が…でもこれはシェイクの為にちょっと試してみるだけだし…
そんな事がぐるぐると頭の中で堂々巡りをしていると、
「あそこの屋台、なんだか人だかりができてるわね、人気なのかしら?」
キーラの言葉でふと我にかえり、彼女の目線の先を見てみると、確かに屋台の前でちょっとした人だかりができていた。
その屋台は店の前にいくつかのテーブルとイスが並べられており、テラス席のように買ったものをすぐその場で座って飲み食いできるようになっている。
「あそこなら少し休めるかも、行ってみましょ!」
キーラに手を引かれるがまま屋台の近くに行くと香ばしい良い匂いが鼻をくすぐる。こんな匂いがするなら確かに客が寄ってくるだろうなと思いつつ、近くの看板に目をやると『おいしい!タコヤキ』と書かれていた。
「タコヤキ!?」
「何?コウイチこのいい匂いの食べ物知ってるの?」
キーラがこちらを見て興味津々で聞いてくる。知ってるも何も、この匂いとこの名前なら間違いなくあの『たこ焼き』で間違い無いだろうが…
ここって異世界だよな?しかも西洋っぽい文化の国だし、なんでこんなとこにたこ焼きがあるんだ?
「?まぁとりあえず買ってみましょうよ」
キーラは俺が困惑しているのを見て不思議そうにしながらも、俺の手を引いて屋台の列に並び始める。
もう何が何やらと考えている内に列は進み、注文の番が回ってきた。
「えっと、このタコヤキっていうの一つと、ジュースを二つ下さい」
「はーい、かしこまりまし…げ!」
キーラがメニューを見ながら注文した後に店員が急に声を上げたので、ふと顔を上げると、これまた知った顔がそこにいた。
「こんなとこでなにしてんすか?」
「それはこっちのセリフよ!」
そこには、キーラを誘拐して殺そうとした張本人で秘密結社『宵の手』のメンバーである、プリム・ロッシュが、バンダナを頭に巻いた定員の姿で屋台の中に立っていた。
「おや、また会ったなコウイチ」
「げっ、あんたもかよ!」
屋台の奥から顔を出したのは、これまた『宵の手』のメンバー、グレゴリだった。
「なに?コウイチこの人達と知り合いなの?」
気の抜けた顔で首を傾げて聞いてくるキーラ。
「知ってるも何も、こいつらお前を誘拐した張本人だよ」
「え!?そうなの!?」
そういえば誘拐された時は気を失ってたから顔を見てないんだったな。キーラが驚きながらプリム達の顔と俺とを行ったり来たりさせていると、
「おい!早く注文しろよ!」
後ろに並んでいる人達から声が上がる。やばいなかなかの長蛇の列ができ始めてるぞ。
「みんなすまないが食材が切れたから今日はもう店じまいだ!また来てくれ!」
グレゴリが、屋台から出て列の人に大声で呼びかける。店じまいと聞いて文句を言う人もいたが、次第に人が散らばっていく。
「まぁそこに座ってくれ。少し話したい事があったんだ」
グレゴリが近くのテーブルを指差すので、キーラと二人で座る。
「これはサービスだ。もらってくれ」
グレゴリがプリムとたこ焼きを持って来ると、俺達と同じテーブルに着き四人でたこ焼きをつつく。
なんだこの空間は…気まずいぞ。
「キーラさん。その節は、本当にうちのキーラが迷惑をかけてしまい申し訳なかった」
「ちょっと痛いわよグレゴリ!」
しばし黙々とたこ焼きを食べていると、最初に口を開いたグレゴリは、そう言ってプリムの頭を掴んで一緒に下げる。
「それならもう終わった事だし、気にしてないわ」
「え!?いいのか?」
「まぁ、あれはお父様と私の問題だし、今はコウイチ達と毎日楽しく過ごしてるから満足よ」
案外あっさりと許したキーラに驚いて口を挟んでしまった。優しいというかお人好しというか、まぁ俺が口を出すことでもないし黙っておくか。
「話というのは、近々ボスがどうしても直接謝りに来たいと言っているんだが、その時に改めて謝罪の機会が欲しいという事を伝えたかったんだ」
「別に気にしてないってば、でもどうしてもって言ってるならいつでもいいわよ」
「本来なら我々は今ここで斬られても文句は言えない立場だが…キーラさんの優しさに感謝する」
もう一度深く頭を下げながらプリムを睨みつけると横のプリムも「すいませんでした」と言って頭を下げる。
随分と律儀な秘密結社だな。と思っていると、顔を上げたグレゴリは今度は俺の方に向き直り、
「コウイチにも先日の謝罪と、後これを」
そう話しながらどこからか短刀を取り出して俺の前に置く。
「これってまさか!?」
それは、間違いなく俺が館に忘れて来たゴートにもらった短刀だった。
「ああ、あの後また館に行った時に見つけたんだが、プリムが君の物だと言っていたので取っておいたんだ」
「サンキュー!今から取りに行こうと思ってたとこなんだよ」
久しぶりに手に持った短刀を眺めながら感謝の言葉を伝える。
「そういえば、どこでたこ焼きなんて知ったんだよ」
嬉しい気持ちそのままに疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
「粉もんは材料費が安くすんで儲けがいいんだ。いい商売だろう?『宵の手』は万年金欠の組織なもんでな」
グレゴリはどこか自慢げに粉もんがいかに儲けがいいかという話をし始める。
「いや、そうじゃなくて。たこ焼きなんてこの辺じゃ見ない食べ物だし、どこで知ったのかなって」
「うちのボスが教えてくれたんだ。なんでもかつていた国じゃよく食べてたらしい」
かつていた国?この異世界には粉もん文化がある国でもあったりするのか?それか、もしかすると、
「そのボスがいた国の名前って聞いたりしたか?」
淡い期待を胸に聞いてみる。
「ああ、確か、
俺が口に運ぼうと持っていたたこ焼きはべちゃりと音を立ててテーブルに落ちる。聞き間違いじゃなければ、今日本って言ったか?
いるのか?俺以外にこの異世界に来てる日本人が…