グレゴリとプリムと会ってから数日が経ったある日のこと。
「結局、
コウイチは探索ギルドに併設されている食堂にて、溜息混じりに惚れ薬の小瓶を眺めていた。
「びびってないで早く使って本物かどうか確かめてくれよ」
「うっせーな、分かってるって。使える時があったら使うって言ってんだろ?」
横で軽口を叩いているのは、探索者仲間のシェイク。惚れ薬は、こいつの口車にいいように乗せられて買ってしまった訳だが…、あの日は『宵の手』の奴らに会ったせいでそれどころではなかったし。
まぁ、会ってようが会ってなかろうがこれをキーラに使える度胸が俺にあったかどうかは自分でも疑問に思うが…
「それより今日はクゥちゃんとキーラちゃんいないのかよ。女の子がいないと空気に華やかさが足りないんだよぅ」
こいゆほんと女好きだな。思ってること全部口にしちゃうタイプの人間だから嫌いじゃないが、
「じきに来ると思うけど。もうキーラを口説こうとするのやめろよ?」
「なんで?」
「なんでって、お前この間殺されかけてただろうが!?」
つい先日、シェイクはキーラに会うと流れるような動きで彼女の前に
「シェイクって顔はいいのに頭が残念だよな」
「いやー、美人を見ると体が勝手に動くんだよ」
反省の色が全く見えんな。黙ってじっとしとけばただのイケメンなのにもったいない。
「でもキーラちゃんって剣の扱い上手いよなー。俺一応、ゴールドランクの探索者なのに本当に斬られるかと思ったよ」
「
「マジで!?すげーじゃん」
キーラの剣術適正はAなので、なかなかの使い手であることは確かだ。一度鍛錬に付き合ってもらったが、ボコボコにされたのは嫌な思い出である。
なんでも、キーラは少し前まで騎士団長だった人物と幼い頃に出会い、その人に憧れて剣を独学で学び始めたんだとか。
俺は
「美人で強いなんてもう最高じゃん。結婚するしかないじゃん」
目を輝かせながら中空を眺めてバカなことを言うシェイク。
「……もう好きにしてくれ」
シェイクに呆れながら惚れ薬を腰のポーチにしまい、自分の食事に手を伸ばそうとした時、
「コウイチさーん。お客さんですよー」
後ろから受付嬢であるロゼルの声が聞こえたので振り返ると、ロゼルの横に男が一人立っていた。
男は30代ぐらいで、サラリーマンのようなキッチリとしたスーツを着てトランクケースまで持っていた。
誰?あの人?ていうかなんでスーツ?
頭にいくつもの疑問符が浮かび上がっている中、スーツの男はつかつかとこちらに近づいてくると。
「はじめましてツガヤマ君、僕は ヤクモ と言います」
「はぁ」
珍しく苗字で呼ばれた事にどこか新鮮さを覚えながら気のない返事をすると、温和な表情で笑うヤクモと名乗る男はちらとシェイクの方を
「一応、秘密結社『宵の手』のボスってことになってる者です。少し二人で話せますか?」
俺に顔を近づけて小声で呟いた後、にこりと笑ってみせる。
シェイクに一言謝ってから、ヤクモと周りに人がいないテーブルに移動する。
「こないだはプリムが迷惑かけたみたいで本当にすいません。『
話しながらも彼は終始にこにこと優しい笑みを浮かべている。
なんかすっげー胡散臭いと思うの俺だけ?
「俺は気にしてないですけど、そんなことより聞きたいことが…」
「僕が日本人かどうかってことですか?そういうことならツガヤマ君の予想は正しいですよ。僕も日本から来た異世界更生者なので」
なんともあっさりとしたカミングアウトで、気が抜けてしまい言葉が出てこない。
「そんな事より、たこ焼きは美味しかったですか?あんまり異世界の知識を出すのは目立つからやりたくなかったんですが、プリムの事もあったし普通に働いて稼ぐやり方を教えてあげようと思いまして」
あまつさえ、たこ焼きの話をし始めたヤクモ。
「今はたこ焼きの話重要じゃないだろ!?」
「そうですか?お客さんの感想を聞くチャンスだと思ったんですが、残念」
この人なに考えてるかさっぱり分からん。
「ていうかヤクモさんも異世界更生者なら、こうして同じ日本人に会うなんて珍しい事でしょ?」
「確かにプリムの謝罪っていうのは建前で、異世界更生者である君に会いに来た、というのが本当の狙いです」
だったらなおのこと、たこ焼きの話などしている場合ではないだろ。と考えているとヤクモは続けて、
「私達の他にもいますよ。異世界更生者」
「マジですか!?例えば?」
ヤクモは俺の質問に少し考えるそぶりを見せて。
「教えてもいいですが、ツガヤマ君が『宵の手』に入ってくれるのが条件ですね」
「意味が分からないです」
この人ほんとになに考えてんだろう。
「俺、おたくのプリムに殺されかけたんですけど…」
「その件は色々行き違いがあったんですよ」
「行き違いで殺されかけてたまるか!」
「じゃあ入ってくれませんか?」
「入らないですよ。大体、秘密結社って怪しすぎるでしょ。『宵の手』って何やってるんですか?」
「うちは秘密結社って言ってますが、中身はただの慈善団体ですよ。騎士団とかじゃ助けられない困ってる人を助けるのが僕達の目的です」
かわらず、ニコニコとそんな事を話すヤクモ。
いや怪しすぎるだろ!秘密結社で慈善団体ってなんだよ!
「きっと今、君は僕の事すっごく怪しい人間に見えてると思うんですが」
「はい。めちゃくちゃ見えてます」
「わぁ、とっても正直で助かります。でもその感情は僕の
スキルの呪いと聞いて、はっとする。俺にもあるじゃないか、異世界に来る時にもらったの呪いのようなスキルが…
「それって異世界に来る時に貰ったスキルの事ですか?」
「やっぱり同じ異世界更生者だと話が早い。つまりそういう事です」
やっぱりこの人も貰ったのか、一体どんなスキルなのか気になったので、率直に聞いてみる事にした。
「それってどんなスキルなんですか?」
「ああ、それはですね…」
「失礼します!クエス王国騎士ですが、」
ヤクモが話そうとした時、ギルドの入り口からよく通る声がして遮られる。
声の方を見ると、俺と同じ年頃の青年が後ろに何人かの騎士を連れて立っていた。
青年は端正な顔立ちをしており、後ろにいる騎士は重そうな装備をしているのに対し、彼は動きやすさを重視したような軽装のアーマーを着ている。
騎士団がギルドに来るなんて珍しいな、何かあったのかと思い見ていると、ギルド内を睨み付けるように見回している青年がこちらの方に目をやると、
「そこにいたかヤクモ!」
「噂をすればですね…」
青年に名指しで呼ばれたにも関わらず、ヤクモはやれやれといった感じに首を振っているところを見るに、どうやら二人は知り合いらしい。
「今日という今日は捕まえさせてもらうぞ!」
前言撤回、剣を抜きながら近づいてくる彼を見るにどうやら知り合いみたいな優しい関係ではないらしい。
「ツガヤマ君。彼は スメラギ 君と言って、僕達と同じ異世界更生で現クエス王国騎士団長だよ」
「はい!?」
呑気な調子で重大な情報を話すヤクモ。同じ異世界更生者で、しかも騎士団長!?なんだそのもりもり設定は…
「何をこそこそ話してる!」
スメラギの剣先はヤクモの喉元に付くか付かないかといった所でぴたりと止められる。
一方で表情ひとつ変えず椅子に座ったまま動かないヤクモ。
なんだかやばい空気、これが修羅場ってやつですか?