絶対不可避の異世界更生   作:浅葱 沼

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騎士団長

 

 クエス王国に住んでいれば、騎士団長の話はいやでも耳に入ってくる。彼は騎士団に入った時はいい人で皆に好かれてはいたが特に目立つ存在ではなかったらしい、しかし時間が経つにつれ剣士としての頭角を表してきたらしい。

 そして数年前、今まで一度も負けたことがないという無敗伝説を持った前任の騎士団長と対決、それに見事勝利。前任者は彼に騎士団長の座を譲った後、長期の休暇をとり消息不明。

 

 それからは名実ともに歴代最高の騎士団長として、大型魔獣の討伐から犯罪者を捕らえるなど、活躍は多岐にわたる。民に優しく、皆に好かれる彼はいつしか畏敬の念を込められてこう呼ばれるようになる。

 

 『全ての者のための剣(ソード・フォー・オール)

 

 そんな大層な二つ名を持ち、俺と同じ異世界更生者でもある騎士団長が今、目の前にいるわけだが…

 

 

「さぁ、付いてきてもらうぞ ヤクモ」

「僕、ただ人と話してただけですよ?」

 

 ギルドの食堂はピリついた空気が漂っていた。

 

「『宵の手』には今窃盗、強盗、誘拐等々、さまざまな嫌疑がかけられている。リーダーのお前には聞きたいことが山ほどある」

 

 淡々と話すスメラギの持つ剣は、ヤクモの喉元に突きつけられたまま微動だにせず、光を反射させてゆらりと濡れたように光る。

 

「君もこいつの仲間か?」

 

 目の前の出来事をただ見ているだけしかできなかった俺に、スメラギは目も向けず質問してくるが、なんと返していいか戸惑っていると、

 

「まだですよ、今勧誘してましたけど」

「違う!違います!ちょっと話してただけの一般人です!」

 

 ヤクモが勝手に返事をするので全力で否定する。もう変な事に巻き込まれるのはごめんだ。

 

「一般人ではないでしょう?スメラギ君、この子も僕達と同じ更生者ですよ」

 

 スメラギは更生者という言葉に反応してこちらを見る。

 

「そうなのか?」

「えぇ、まぁ日本出身ですけど…」

「名前は?」

「ツガヤマ コウイチです」

「そうか、ならツガヤマ、同じ更生者のよしみで教えてやるがヤクモ(こいつ)とはあまり関わらない方がいいぞ」

「ええー、ひどい言い方だなぁスメラギ君」

 

 剣を突きつけられているのに呑気に話に混ざってくるヤクモ。

 

「本当なら少し君とも話をしたいが、今はヤクモ(こいつ)を連れて行くのが優先なんでな。またいつかゆっくり話そう」

 

 スメラギはそれだけ言うと突きつけていた剣を納剣し、ヤクモに椅子から立つよう促す。

 

「コウイチ君、スメラギ君のスキルと呪いも面白いんですよ。聞きます?」

 

 ヤクモは立ち上がりながらそんな事を話すと、

「勝手に人の秘密をバラすな!」

 

 スメラギはさっき納めた剣を目にも止まらぬ速さでヤクモの首に振り抜く。

 

 

 あ、これ人死ぬやつでは?

 

 

 しかし、俺の思いとは反し、振り抜いたように見えた剣はヤクモの首を飛ばさずに首の皮に触れた所でぴたりと止まった、というより()()()()()ように見えた。

 

「相変わらず厄介なスキルだな」

 吐き捨てるように言ってまた剣をしまうスメラギに、

「冗談だよ。人の個人情報は勝手に漏らさないから」

 笑いながら頭を掻いて

 

 

 今何が起こったのか分からず口を開けたまま呆然としていると、

「コウイチさん、どうしたんですか!?」

 ギルドの入り口からクゥが駆け寄ってくる。

 

「なんといえばいいか…」

 俺がどう説明すればいいか悩んでいると、

「コウイチさんを困らせないであげて下さい!」

 クゥはキッと眉を寄せてスメラギ達を見据える。

 その姿たるや、小動物の精一杯の威嚇を見ているようで、かわいいという感想しか出てこない。

 

「この子達は君の仲間かい?」

 小動物のようなクゥを見て尋ねてくるスメラギ。

「はい、そうですけど」

 

「君がうらやま…」

「はい?」

「いや、なんでもない。それでは失礼するよ。行くぞヤクモ」

 

 何か小さい声で呟いた気がするけどよく聞こえなかった。そのままヤクモを連れて歩き出すスメラギ。

 

「じゃあツガヤマ君。邪魔が入ったけど実は君にはちょっとした頼み事があるんです、また追って伝えますね」

 

 ヤクモはすれ違いざまにスメラギに聞こえないような小さな声で俺に囁いてその場を後にする。

 

 俺、またなんか変な事に巻き込まれそうになってないか?これも全部『絶対不可避』のせいだとするなら、ヤクモの言う通りまさに呪いだな。

 

 ヤクモとスメラギが出ていくのをぼんやりと見送った後、キーラが来るのを待ってパーティーで仕事を受けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

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