「出口はこちらなんで、どうぞ」
「うちの扱い酷すぎひん!?仮にも女神なんですけど!」
クレナはたこ焼きの船皿を机に叩きつけるように置きながら
「でかいでかい、声がでけーよ!」
口の前で指を立てながら声を抑えるように注意する。
「大丈夫やって、今日はちゃんと部屋に結界張ってるから中からの音は外に聞こえへんから」
食べる?と言いながらたこ焼きを前に出して勧めてくるのせで一つもらう事にする。
「これ美味しいよな。かわいいねーちゃんとでっかいおっさんが売ってる店で買ってきてん」
たこ焼き売っててその見た目の二人が定員の店なら十中八九『宵の手』の連中の店だろうな。確かにこの店のたこ焼き、美味いんだよな。
いや、ちょっと待てよ?
「お前コレ自分で買ってきたのか!?」
「せやで?」
何を呑気な顔して「せやで?」だよ。
「お前、下界の人に見られたら駄目なんだろ?」
「ちゃんと変装したから大丈夫やって」
困るのは俺なんだけど、ほんとに危機感ないなこの女神。
「で、何しにきたんだよ?」
「途中経過を見に来たに決まってるやろ」
クレナはたこ焼きを一つひょいと口に入れて続ける。
「最近頑張ってるみたいやん?かわいい仲間もできたし、別の異世界更生者とも会ったみたいやし」
「そうだよ、異世界更生者が他にもいるなら前もって言っといてくれよ!」
「あんたが会ったのは私の担当の子じゃないから知らんし、言ったところでどうにもならんやろ」
クレナはまた一つたこ焼きを食べる。
「担当じゃない?」
「そ、更生者には各自に担当の神がついてるからな。それに他の更生者に会ったところで何にもならんやろ。結局個人個人の天命を遂げるだけやねんから」
それはお前の決める事じゃないだろ。異世界の情報を聞けるかも知れないのに。こいつどうしてやろうかと考えていると。
「それに、教えたら分からないまま異世界生活に困惑するあんたを見られへんやん」
あ、結局困ってる俺を見たいだけだなこいつ。
俺が頭にチョップでもかましてやろうと手を上げたその時だった。
「コウイチ、いる?入るわよ?」
ドアのノックと共にキーラの声が聞こえてきた。やばい、なんつータイミングで来るんだこのお嬢様は。今入られるとまずい。下界の人にクレナを見られると、内容不明のペナルティーが科せられるらしいので、この場を見られるわけにはいかない。
ドアのノブが音を立てて回り、今にもキーラが入ってこようとしている。どうする、どうする。
「クレナ、俺の声が外に聞こえるようにしてくれ」
「なんで!?」
いいからと俺が急かすと、クレナはパチンと指を鳴らすと喋らずに手を差し出して話すようにとジェスチャーをする。
「クレナ、今は入らないでくれ」
ドアを抑えながらドア越しに話しかける。
「お、起きてたの?なら早く返事しなさいよ」
「ごめんごめん。今ちょっと考え事しててさ」
「どないするつもりやねん」
クレナが小声で聞いてくる。
「誰か中にいるの?」
「いや!?誰もいないけど?」
ちょっと黙ってろ小声でクレナに釘を刺す。
「今日の事で、ちょっと話があるんだけど」
「あー、それなら気にしてないから大丈夫だよ」
「ほんとに?」
「ほんとほんと」
なんだか焦りすぎて今なんの話してるか頭に入ってこない。しかもクレナが話を聞こうとこちらに近づいてくる。
「なんてなんて?」
「お前ちょっとマジであっち行ってろ」
こいつほんとに何考えてんだよ。
「ありがとうコウイチ、そ、それとなんだけど」
「なんだ?」
話している最中だというのにクレナはたこ焼きを口に頬張りながらにやにやと俺に食べるよう勧めてくる。どう考えても今じゃねーだろ!
「今までちゃんと言ってこなかったけど、誘拐犯から助けてくれた事や、お父様と話すときに怒ってくれた事、すっごく嬉しかった」
「全然いいよー」
「あと、えっと、ほんとに感謝してるから!それだけ!じゃあおやすみ!」
キーラはなんだか照れていそうな口ぶりで、言うだけ言ってトタトタと音を立てて部屋へと戻っていく。
あんまりちゃんと聞いてなかったけど、今結構大事なイベント軽く流しちゃわなかった?
「あーん、青春してるやんかコウイチ!」
クレナが酒でも飲んだ後の顔のように眉を寄せて俺を叩いてくる。
「お前のせいで、まったく頭に入ってこなかったんだが何の話してた?」
「今のちゃんと聞いてなかったん!?どうしようもない男やな」
「なんだよ、じゃあ教えてくれよ!」
「あ、もうこんな時間やん」
クレナは腕時計もつけていないのに手首を見て話す。
「途中経過は良好って事でいいから、引き続き頑張ってなー」
「おい、マジで何の話してたか教えてくれないのかよ!?」
「他の異世界更生者ともよろしくやるんやで」
クレナがまた指を一つ鳴らすと、彼女は霞のように消えてしまった。
キーラに今日何の話したっけとか聞いたら怒られそうだし、どうしたものか…。
「もう、考えるの疲れた」
俺は思考を放棄して、布団に入った。