「いってぇ、何だったんだ?今の…」
自分の出している声のはずなのに水の中にでもいるように曇って聞こえる。
激しい耳鳴りと舞う埃で、自分の身に何が起こったのかを理解する事ができたのは耳鳴りと埃がおさまりはじめた頃だった。
「コウイチ!大丈夫!?」
「ああ、なんとか…ってなんだこれ!?」
声をかけてきたプリムに起き上がりながら返事をして、自分が座り込んでいる横を見るとさっきまで俺が立っていた傍の壁はなくなっており家の前の通りと繋がって辺りには壁やドアであったと思われる煉瓦や木片が散乱していた。
爆発音の寸前、プリムに蹴飛ばされたおかげで目の前の壁の様に粉々にならずに済んだようだが、あんなの当たったらひとたまりもないぞ。
「おや、二人とも無事でしたか。殺す気で撃ったんですけど」
痩せ男はつまらなさそうに呟くと、こちらに向かって歩き始める。
「そこで止まりなさい。蹴り飛ばすわよ」
臨戦態勢は崩さず、痩せ男と俺の間に割って入って行く手を阻むプリム。
「おや、誰かと思えばプリムじゃないですか。今さら戻ってきても仕事はないですよ?」
「誰があなたみたいなクズの所に帰るのよ」
あれ、もしかして知り合い?
「おいプリム、そいつは?」
「こいつは『骸狩り』の幹部の一人 ゼルバートよ。私は『宵の手』に入る前、こいつの下で働いてたの」
「碌に役に立たずに逃げ出したのは君だけど、生きていたとは驚きだよ。今日は何しに来たのかな?」
「あなたに教える義理はないわ」
「『宵の手』に拾われたと聞きましたが、どうせ向こうでも役に立たずに仲間に迷惑ばかりかけてるんだろう?」
嘲笑混じりにプリムを挑発する様に話すゼルバートに、絶賛迷惑かけられ中の俺は激しく同意したい所だが、現状の物々しい雰囲気から口を開くのは憚られる。
「コウイチ、今日は引くわよ」
「俺は初めからそう言ってるんですけど」
「今はそんな毒吐いてる場合じゃないのよ!」
視線はゼルバートから外さず、背中を向けたまま話すプリムに苦言を呈すと怒られる。どうやらこの言い方からするに余程やばい相手らしい。
「僕が今から逃げると言ってる人をはいそうですかと逃がすような奴に見えますか?」
ゼルバートが話しながら、さっきのように右手を前に出そうとしたのとプリムが彼に蹴りかかったのはほぼ同時だった。
「あなたは先に逃げなさい!」
俺に指示しながらゼルバートの右手を蹴り上げると、彼の右手から出た
「あんなの飛んできてたのかよ!?」
立ち上がって通りに出ながら破壊力を目の当たりにしながら驚愕してしまう。
「おいプリム!お前も早くこっち来い!」
「分かってるわよ!」
家に舞う埃の中から声色に少し怒りを含みながらプリムが飛び出してくる。
「まさかこんな所にあいつがいるとは思わなかったわ」
「どうすんだよ、あんな攻撃まともにくらったら死ぬぞ」
しかも俺は狙われたら避けられないのだから余計に危ない。
「しょうがないわね。グレゴリを呼ぶからちょっと待ちなさい」
そう言うとプリムは腰につけたポーチに中からビー玉より一回り大きいぐらいの丸い結晶を取り出すとそれを地面に叩きつけた。
当然、結晶は粉々に砕け散り、飛び散った欠片は空気に溶けるようにスッと消えていく。
「何今の!?」
「はぁ?あなた仮にも探索者のなのに魔封晶も知らないの!?」
俺が自然と口をついて出た驚愕に、プリムも驚きを隠せないように反応する。
「簡単にいうと魔法を封じ込めた結晶よ。これでグレゴリに連絡がいったはずだから数分後にはここに来るはずよ」
「で、その来るまでの数分はどうすんの?」
「それは…」
当然の疑問ではあった。今は一分一秒一瞬が惜しい状況であるし、今にも目の前の家から俺達を殺そうとする奴が出てこようとしているのだから…それなのに目の前の無鉄砲で盲目的な狂信者は少し考えるように口をつぐんだ後、通りに響く程高らかに咆える。
「頑張るのよ!!」
「ふざけんな!」
「作戦会議は終わったかな?」
俺がやられる前にこいつだけでも先にやってしまおうかと考えた時、家の中から舞っている埃に穴を空けるようにゼルバートの声と共に何かが空間を裂いて飛んでくる。
「あっぶねぇ!」
地面に異変が生じるまで全く反応できなかった。あれが体に当たったらと考えるだけで背中に冷たい汗が滴れるのを感じる。
「コウイチ、よく聞きなさい。理屈は知らないけど、あなた攻撃が避けれない代わりに相手も攻撃を避けれなくできるでしょ?」
「お前、なんでそれ知って…」
「一回あなたとは戦ったことあるんだからなんとなく分かるわよそれぐらい」
何を当たり前のことを…とでもいった顔で話すプリム。そんなの分かるもんなんですか?
「そんなことより、私がなんとか
そんな事急に言われても…俺は変なスキル持ってる以外は等しくパンピーなんですけど。
「それと、殺しは無しよ。『宵の手』は困っている人を助けるだけなんだからね」
俺がどうしようかとふと腰の短剣に意識を向けた時、プリムは諭すように声をかけてきた。
それに関しては俺も賛成だ。人を殺したりなんかは御免被りたい。しかし、それこそ素手なんてあのヤバそうな奴に近づかなきゃいけないし、そんな事できるのか?
「行くわよ!」
俺の心の葛藤など露知らずといったようにゼルバートに向かって駆け出すプリム。
まずいぞこれ、本格的にどうしたもんか…。