絶対不可避の異世界更生   作:浅葱 沼

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夜明け

 

 目の前に剣が突きつけられたまま、この間もこの人ヤクモさんにも剣を突き立ててたななどと思い出しながらも反論してみる。

「そんなことより今はこの人を医者かなんかに連れてかないと…」

「だからその必要はないと言ったんだ」

 

『ヒール』

 

 俺から目を離さずにスメラギが小さく呟くと、痛みに苦しんでいた騎士は段々と呼吸が落ち着いていき、自分で立ち上がった。

 

「ありがとう、ございます」

「大丈夫か?二人共今日はもう帰って他の人を呼んできてくれ。ここは俺一人で十分だ」

 

 少しふらつきながら立ち上がった騎士に、優しい口調で話しかけると、騎士達は一礼して夜の街へと消えていった。

 

「ぐっ、うぅ!」

 

 首を手で押さえられたままのプリムが苦しそうにしながらスメラギにむかってパンチやキックを闇雲に放つも、スメラギは一切効いていないようで微動だにしない。

 

「離してやってくれ!俺達は別にあんたの敵じゃねーよ!」

「それを決めるのは俺だが、まぁいい、女性を苦しめるのは胸が痛いしな」

 

 そう言ってプリムから手を離すと、解放されたプリムはすぐさま、スメラギの顔へハイキックを繰り出す…が、その足も片手であっさりと止められてしまう。

 

「おいおい、随分足癖の悪いお嬢さんだな。これじゃ話もできないぞ」

 

 プリムの足から手を離しながら呆れたように話すスメラギ。

 

 プリムのキックを片手で止めるって、こいつどんだけ力強いんだよ。流石に騎士団長やってるだけはあるな。しかも、さっきサラッと回復魔法使ってなかったか?俺は魔法使えないのに。

 

「それで?君達はここで何をしてたんだ?」

 

 『骸狩り』のアジトで盗み聞きしてて、バレちゃったんで戦ってましたなんて馬鹿正直には流石に言えないので、ほどよく誤魔化して喋ることにする。

 

「俺達、この辺を散歩しててさ」

「こんな人気の少ない通りを男女二人で?」

 

 いきなりめちゃくちゃ怪しまれてるな、これ。

 

「それで、偶然『骸狩り』って奴らに襲われて、戦ってただけで、俺達は被害者なんだよ」

 

 スメラギはまだ訝しむような目をしたまま話を聞いていると、

 

「プリム!コウイチ!大丈夫か!」

 

 その時、さっきまで俺とプリムがいた場所に『転移(テレポート)』で現れたグレゴリが、俺達を探すように声を上げていた。

 

「お、そこにいたか。無事みたいだな」 

 グレゴリはこちらに気付いて、安堵の表情を浮かべながら小走りで駆けてきたかと思うと、スメラギの姿を見た途端その顔は一変して険しくなる。

 

「何で騎士団長サマなんぞと一緒にいる?」

「色々あったのよ。そんなことより来るのが遅いわよ!」

 

 返事をしたのはプリムで、彼女は口では怒りつつもグレゴリの姿を見て安心したのか少し表情が緩んだように感じる。

 

 

「せっかくヤクモを釈放してやったのに、部下が早速怪しい事をしてるようじゃあ、また捕まえなくちゃならないか?」

 おもむろに腰の剣に手を伸ばすスメラギ。

 

「悪いがお前さんと話してる場合ではないんでな。それにボスが釈放されたのはお前さんら騎士が証拠を持ってないからだろう?今日は帰らせてもらうぞ」

 

 グレゴリは冷たく言い放つと、両手を俺とプリムのそれぞれの肩に置いてから、短く呟く。

転移(テレポート)

 

 

 次の瞬間、一瞬視界が暗闇に覆われたと思ったら、いつのまにか俺達はコルト亭の前に立っていた。

 

 

「おい!今の感じだと、俺がお前らの仲間と思われる逃げ方しちゃってるんですけど!?」

「だからもう仲間でしょ?何言ってんのよ」

 

 プリムは眉をひそめながら話す。

 無理矢理連れて行ったやつがよく言うな。

 

「そんな事よりコウイチ、お前さんその手は大丈夫なのか?」

 グレゴリが心配そうに俺の左手を指して言う。

「痛いよ!さっきからずっとめちゃくちゃ痛いよ!」

「じゃあ今日はさっさと帰って、あの小さい嬢ちゃんに治してもらうといい。じゃあまた連絡する」

 

 それだけ言って、プリムの肩に手を置くと、『転移』で消えてしまった。言いたいことだけ言って逃げやがった。こんな目に合うなら二度と来ないでほしい!

 

 などと誰も聞いていないのに言っても仕方がないので、大人しくコルト亭に入ってクゥの部屋へと向かう。

 

 夜中に起こされたクゥは、眠そうに瞼を擦りながら扉を開けて顔を出したが、俺の手を見るなり目を丸くして驚いていた。

 

 それからは何故こうなったかをあらかた説明しながら、治癒魔法をかけてもらうことにした。

 

 

 

「さっき部屋に行って話したと思ったら、いきなりこんな怪我して帰ってきたからビックリしましたよぅ」

「それに関しては、本人の俺も驚いてるから安心してくれ」

「全然安心できませんよ!」

 

 治癒魔法のおかげで痛みは徐々に薄れていき、手首が動かせるようになる。

 

「コウイチさんが、そういうのに巻き込まれるのは知ってますけど…そういう時は、私やキーラちゃんも頼って下さいね?」

 クゥは上目遣いで心配そうに話しかけてくる。

 

「クゥだけだよ。俺を心配してくれるの」

 すっかり元通りになった左手でクゥの頭を撫でながら、感謝の言葉を伝えていると、窓から朝日が差し込んでくる。

 

「もう朝か。悪いけど今日は仕事休んで寝るとするよ」

「ゆっくりして下さいね」

 優しくそう言ってくれるクゥに癒されながら部屋を出て、自室に戻ろうとすると、後ろから階段を上がる音が聞こえる。

 

「ツガヤマ コウイチさんですか?」

 

 呼ばれたので振り返ると、そこには茶色の髪を額が出るほど短く切り揃えた、美男子の騎士が立っていた。

 

「私はクエス王国騎士団の シャバラ と申します。昨晩の『骸狩り』アジト襲撃の件で話をお聞かせ願いたいのですが、付いてきていただけますか?」

 

 さっきの今で、もうこんなとこまで来たの?騎士団って優秀だなぁ、と頭の片隅で思いながら口からは全く別の言葉を紡ぐ。

 

「今から寝るので、おやすみなさい」

 できうる限りの笑顔でそう言って自室の扉をそっと閉めることにした。

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