──コウイチ達がゼルバートと戦った後すぐ、『骸狩り』のアジトの一つにて、
「ゼルバート、お前鼠を殺し損ねたんだって?情けねぇなぁ」
いたるところが破れたボロボロの服を着た大柄の男がその体躯に似合う豪快な笑い方と共に嫌味を言い放つ。彼の名は カリム、『骸狩り』の幹部である。
「えー、ゼルちゃんが獲物を殺し損ねるなんて珍しいねー、そんなに強かったの?」
今度は、腰から大胆にスリットが入った体のラインがはっきりと分かるローブをを着た妖艶な女性が質問を投げかける。彼女は カシューム、こちらも『骸狩り』の幹部の一人。
「強いも何も、こいつの元部下とその辺のガキ一人らしいぜ」
カリムが勝手に返事を返すとカシュームは「えー、そうなのー?」とわざとらしく驚いて口に手を当てる。
「勝手な事を言わないで下さい。あの時は騎士団の邪魔が入ったので、騎士団長が来ると思い撤退したまでです」
「そんなこと言って、実はかつての部下に情が湧いちゃったとかじゃないのー?」
「そんなものは湧きません。次は見かけ次第始末するつもりなので。特にあの少年は…」
「ガキがどうかしたのか?そっちに情が湧いたか?」
「ゼルちゃんのことだから、その子虐めるのが楽しみなだけじゃないの?」
次から次へと湧いてくる二人からのからかいの言葉を冷たくあしらい「では」と一言だけ挨拶してその場を後にする。
あの少年、私に何を飲ませたんだ?毒、ではないようだったが…。いかん、近頃あの少年の事ばかり考えてしまうな。いくら苛ついたからといっても、これでは仕事に支障が出てしまう。次会った時にゆっくりと痛ぶればいいだけだ…
また会うのが楽しみになってきてしまうな。
ゼルバートは邪悪な笑みを浮かべながら夜の街へと消えていく。
◇
──ゼルバートと戦った後、夜が明けてすぐのコルト亭にて、
俺は今、突然押しかけてきた騎士 シャバラ が俺を連行しようとしてきたので、絶賛拒否中である。
「ツガヤマさん!?起きてください!騎士団に来て少しお話を聞くだけですから!」
「うっせー!今から寝るっつってんだろが!明日来い明日ぁ!」
「明日やろうは馬鹿野郎とも言いますし、そこをなんとかお願いしたいんです!」
どこで知ったんだよそんな言葉。
「じゃあ俺、馬鹿野郎でいいから明日頼むわー」
「ちょちょ、困ります。来ていただかないと私が団長に怒られますから!」
「それこそ知ったこっちゃねーよ」
「ちょっと!朝からうるさい!」
来てくれ、行かない、の押し問答が繰り広げられている所にキーラの声が割り込んでくる。
「なんでここに騎士がいるのよ?」
「お騒がせしてすいません、こちらの部屋の方に用がありまして…」
寝起きであからさまに機嫌が悪いキーラに対して、おどおどとした様子で話すシャバラ。
「コウイチがどうかしたの?」
「いえ、昨晩起きた犯罪組織のアジト襲撃事件の重要参考人として、お話をお伺いしたくてですね」
「昨夜?」
「はい。騎士団長からツガヤマさんに会ったと聞いたので間違いありません。そこからここに住んでいると分かったので来た次第ですから」
「コウイチ、あんた何したの?」
当然そういう反応になるよな。昨日はキーラと話したばっかりだし、よく考えてみれば昨日の夜は色んな事が起きすぎている気がする。
クゥに諭された後、クレナが来て話してる最中にキーラが来て、そのせいで話の内容は全く頭に入ってこなかったし…、それから寝ようとしたらプリムに連れ出されてあんな事に巻き込まれた訳で、そりゃ疲れるわな。
「お二人はご友人ですか?でしたら一緒に来ていただいても構いませんよ?」
「だから行かねぇって言ってんだよ!」
「ちょっとコウイチ、あんた悪さしたなら謝りに行ったほうがいいわよ?なんなら私も一緒にいくし…」
なんで俺が悪い事が前提なのかツッコミたい所だが、これ以上体力使うのも面倒になってきた。シャバラも俺が行くって言うまでここに居座るだろうし…
「分かったよ。行けばいいんだろ?」
「本当ですか!ありがとうございます!」
ドアを開けると舌を出して尻尾をぶんぶん振っている犬のように目を爛々とさせて立っているシャバラと目が合う。
まぁ、悪い奴ではないんだろうが、こいつ、馬鹿なんだろうなぁ。
その後、「ホントについて行かなくていい?」と母親のような目で話しかけてくるキーラはコルト亭に置いて来て、騎士団の庁舎に向けてシャバラと二人で歩いて行く。
「騎士団の庁舎ってどこにあんの?」
「少し歩きますね。庁舎は王都の中央、王城のすぐそばにあるので」
王城なんてなんの用もないから行ったことはないが、コルト亭のある地区からならざっと3〜40分ってとこだろうな。
「それにしても、事件の重要参考人を連れてくるのに一人で来るってどうなの?普通もっと大所帯でくるもんなんじゃね?」
昔見たドラマとかでも、せめて数人で来てたと思うが…
「そうですね。普通はそうですが、なにぶん今は人手が足りなくて、副団長の私なら一人でいいだろうと団長に言われまして」
「ふーん、そっかー…」
副団長ねぇ。
「副団長!?」
「わっ、びっくりした。急にどうしたんですか?」
俺の突然の大声にびくついたこの男が、
「副団長?」
シャバラを指差しながら改めて聞くと、
「はい。あれ?言いませんでしたっけ?」
首を傾げられた。
言ってません。
「舐めた態度取ってすいませんでした!」
直立して90度に腰を曲げて頭を下げる。
騎士団長があんなヤバい奴なら副団長も相当のはず。先に謝っとかないと後が怖いです。馬鹿とか思ってすんませんした!
「やだなぁ、そんな改まらなくても、気にしてないので大丈夫ですよ。むしろ今までの方がお互い話しやすくていいでしょう?」
や、優しい。すぐに剣を人に突き立ててくるスメラギとはえらい違いである。副団長はこんなに優しい人だったなんて。騎士団ちょっと見直しちゃう。
それからは他愛のない雑談を交わしながら庁舎へと向かうのだった。
「さぁ、着きました。ここがクエス王国の誇る騎士団の庁舎です」