「シャバラさんが順位戦を申し込まれたらしいぞ」
「ほんとか!?相手は誰だ!」
「今三位のククリらしいぞ」
先程、シャバラが騎士の一人に順位戦なるものを申し込まれてから庁舎が騒がしくなり、庁舎中央の広場にはあっという間に人だかりができていた。
「これ何が始まるの?」
「せっかくですしツガヤマさんも見ていって下さい」
シャバラから話を聞いたところ、ここクエス王国騎士団ではその人の功績と順位戦の順位で序列を決めているらしく、全ての騎士に順位がつけられていて、自分より順位が上のものに木剣を用いた模擬戦で勝つと順位が繰り上がる仕組みになっている。それが順位戦と呼ばれていて一位が騎士団長、二位が副団長といった風らしい。
めちゃめちゃ脳筋システムだな。
「団長はその順位戦でかつて無敗だった前騎士団長を倒して騎士団長になったんですよ」
シャバラはどこか誇らしそうにスメラギの事を語る。すごい奴なのは分かるが、俺はあいつが好きになれん。
「じゃあ今からシャバラが負けたら、対戦相手の奴が新しい副団長って事になるのか?」
「そういうことですね。ツガヤマさんも騎士団に入った時の為に順位戦は見ていて損はないですよ」
笑顔でなぜか俺が騎士団に入る前提で話すシャバラ。誰が入るかこんなとこ。
しばらく広場で待っていると、全身に鎧を身に付けた対戦相手が周りの騎士達からの応援を背に受けながら現れる。しかし、対するシャバラは何も装備していない。
「おいシャバラ。鎧とか付けなくていいのか?」
「ええ、私はこのままで大丈夫ですよ」
少し心配で聞いてみると、何も心配ないといった様子で木剣を握った片手を二、三回振ってみせる。
「よろしくお願いします!」
「よろしくね。ククリ君」
お互いに一礼した後、ククリは剣を振り上げて一直線に駆け出す。そのまま前に出た推進力と体重を乗せた振り下ろしの一撃がシャバラを襲う。
「ふんっ!!」
シャバラは攻撃を避けず、真正面から剣を振り上げて迎え撃つ。ガンっと木剣のぶつかる音が響いた後、両者は鍔迫り合いの形で睨み合う。
「いい踏み込みだね」
余裕の口ぶりでまだ笑顔の崩れないシャバラに対して、ククリは徐々に押され始め、鎧で見えないが食いしばっていると思われる口から荒い息が漏れる。
「はぁ!!」
鍔迫り合いに耐えきれなかったククリは一歩後ろに跳んでから体勢を立て直し、今度はシャバラの右胴を狙った鋭い横払いが飛ぶ。
俺は、その時一瞬見えたシャバラの表情に背筋が冷えるのを感じた。
笑っていた。
しかし、さっきまで俺に向けられていた柔和な笑みでは無く、瞳はぎらりと鈍い光を持ち、歯を剥き出しにして上がりきった口角は
シャバラの変貌ぶりに驚いていると、彼は飛んできた剣撃を木刀を持った左手一本で下から上へと斬りあげて弾いたかと思うと、体を回転させて相手の左胴に向けて一閃。
「ごふぅッ!?」
剣を弾き上げられ、体勢を崩したせいで反応が遅れたククリは、鎧を着ているのにも関わらずシャバラの一振りで体がくの字に曲がり苦悶の声を出しながら宙に浮いて吹き飛ぶ。
「まだやるか?」
うずくまっているククリに、少し恐怖を覚える程の真剣な表情で喋りかけるシャバラは口調まで変わっている。
「お、お願い…します」
「さっきのは胴狙いがバレバレだ。もっと意識を散らせ」
力無くよろよろと立ち上がるククリに、アドバイスをしながら構え直すシャバラ。
そこから先は一方的だった。
ククリの出す攻撃は悉く弾かれ、その度にカウンターをくらって吹っ飛ぶの繰り返し。鬼気迫るシャバラの攻撃が当たるたびに鎧にへこみができているのが、少し離れた所で見ても分かった。
「さすが【鬼人】シャバラさんだな」
近くの騎士がぼそりと呟くのが耳に入った。そんな恐ろしい二つ名付けられてんのかよシャバラ。
突っ込んではカウンターをくらって吹っ飛ぶ、突っ込んではカウンターをくらって吹っ飛ぶ、それが何度か繰り返された後、ククリはもう立ち上がる気力も無くしたのかへたり込んでしまった。
「ふぅ」
汗ひとつかいていないまま、軽く息を吐いたシャバラは憑き物でも落ちたように爽やかな顔に戻っており、倒れ込むククリへと歩いていき手を差し伸べる。
「良かったよククリ君。日々熱心に鍛錬しているのが伝わってきた」
「ありがとうございます」
周りの騎士達からの労いの言葉と拍手を受けて立ち上がったククリは足がおぼつかないまま他の騎士に支えられてその場を去って行った。
「どうでしたか?ツガヤマさん!こんなに心が昂ることはないですよね!」
ククリを見送った後、首をぐるりとこちらに回して話しかけてくるシャバラの顔は光でも放っているかのように眩しい笑顔だったが、もうさっきまでの優しい笑顔と同じとは到底思えなかった。めっちゃ怖いですシャバラさん。
「っス。シャバラさんさすがっス」
「え!?なんでそんな距離取るんですかツガヤマさん!?」
「いえ、自分みたいなもんが近づくのは恐れ多くて」
「なんでそんな怯えた顔するんですか!」
お互い無言のまま、俺が一歩下がってはシャバラが一歩近づく、まるで怯えた猫を手懐けようとするやり取りをしばらくした後、シャバラが口を開く。
「ツガヤマさん、今はこんな事してる場合じゃなく、パーティーメンバーの方にお話をしに行きましょう」
「確かに、そうだったな」
冷静さを取り戻した所で、コルト亭に向かって庁舎を後にすることにした。