『正拳突き』!
「うぐっ!」
人が横に二人並ぶので精一杯の狭さの路地で、一心不乱に突進してきた男の顔に真正面から拳を放つと、籠手を着けているおかげもあってか簡単に一人を殴り倒す。
「ヨクモ、仲間を!」
一人を倒したせいで後ろに控えていた男達が声を上げながら細い路地に流れ込んでくる。それにしても全員目が血走ってて言葉遣いも片言で怖いんですけど!
「うらぁ!」
「キーラ!」
「分かってるわよ!」
次に向かってきた男は握っていた剣を振り下ろす形で突進してきたので、すぐさま体勢を低くしてキーラに剣を受けてもらう。ガキンと刃同士のぶつかり合う音が聞こえてキーラと男の動きが止まったところで男の腹に低い姿勢からアッパー気味のパンチを打つ。
「ごっ!?」
綺麗に鳩尾に入ったパンチで男は口から空気が漏れる声を出しながら膝から崩れ落ちる。
残る暴漢は後三人。
「コロス!」
「任せなさい!」
激昂している男達に向かって言葉と同時に駆け出したキーラは、素早い身のこなしであっという間に一人の男の懐に入り込み剣の柄で顎を下から突き上げると、続け様体を捻りながら回転させ後ろにいる男のどうに刀身を振り抜く。
「ぶっ!?」
「がぁ!?」
「こ、殺してないよな?」
「大丈夫よ。ちゃんと剣の腹で叩いたから」
あっという間に男二人をのしてしまったキーラに少し怯えながら声をかけてみると俺の心配などどこ吹く風といった様子で剣を肩にかけながら余裕で話すキーラ。
「やっぱりこの剣いい感じね。気に入ったわ」
「ユルサン!」
新しくした剣を眺めながら軽口を叩くキーラの背後から残った一人の男が短刀を振りかぶって襲いかかる。
「危ない!キーラ!」
男とキーラの間に入って左の籠手で短刀を受け止めてから右で男の顔に一発。
運良く相手の顎に当たった拳はゴッと鈍い音をさせたと思うと男は声も無く崩れ落ちる。
「余所見すんな!危ないだろ!」
「わ、分かってるわよ!」
あいかわらず危なっかしい元お嬢様はさておき、これで取り巻きは倒したし後はあの女がカシュームかどうかの確認だけだ。
「あれー?もしかしてあの子達倒されちゃった?」
広場に出ると、つまらなそうに欠伸をしていた女は俺達が路地から出てきたのを見て驚いた顔をする。
「あんたがカシュームか?」
「あれ?どこかで会ったことあるっけー?確かに私はカシュームだよ」
随分と呑気な話し方で答える女はあっさりと自分がカシュームであると認めた。
それにしても、この辺なんだかいい匂いがするな。
「だったら話が早いや。黙って捕まってくれないか?」
「えー?どうしよっかなー」
「コウイチ こんなふざけた女さっさとふん縛って連れていけばいいのよ」
カシュームの話し方に痺れを切らしたらしいキーラは剣を構えてすぐにでも飛びかかりそうだ。
「いや、穏便に済ませられればそれでいいだろ」
「かわいい坊やの為に付いて行ってあげたいけど。お姉さん忙しいんだー。ごめんね?」
唇の前で指を立ててウインクをするカシュームに、歯軋りをしながら苛立ちを隠しきれないキーラ。
うーん。やはりこの人、どことなくエロいな。実は聞いてたほど悪い人じゃないんじゃ?
「一緒に来る気がないんなら無理にでも連れてくだけよ。行くわよコウイチ!」
「ああ、ウン」
「…コウイチ?」
そうだよ。やっぱりこの人が悪い人だなんて思えない。俺が守らないと。
「ちょっ!?あんた、なんでその女の横に立ってんのよ!」
「カシュームサマ、オレガマモル」
「はぁ!?」
「あははっやっと効いたみたいねー」
カシュームはコウイチとキーラを見ながら面白そうに高笑いをする。
「どういう事よあんた!コウイチに何したの!」
「さぁー?なんでしょうー?」
カシュームは素知らぬ顔でとぼけてみせる。
私の『妖香』の匂いを嗅いだ異性は精神操作の魔法にかけられるのよー。ま、このお嬢さんには分からないだろうけど。
「じゃあー、コウイチくん?この子倒しちゃってー」
「ハイ、ヨロコンデ」
「喜ぶなー!」
コウイチが拳を構えるの見てすかさず剣を構えるキーラ。
コウイチのバカ!敵の女に惑わされるなんて、斬られても文句言わないでよね!
次の瞬間、操られたコウイチがキーラに向かって駆け出す。