「カシュームサマ、バンザイ!」
「知らない女に鼻の下伸ばしてんじゃないわよ!」
心ここに在らずといった表情のまま次々と拳を繰り出すコウイチに声をかけながら攻撃をいなすことしかできないキーラは迷っていた。
このバカ、意外に強いわね。気絶させるつもりで加減して斬りかかっても籠手で弾かれるし…どうしたもんかしら。
「カシュームサマ、チョウゼツビジン!
カシュームサマ、エロカワイイ!」
目から生気が失われ、半ばグールのように呻きながら殴りかかってくるコウイチ。
あの台詞、あの女が言わせてるなら趣味悪いわね。
しかし、ほんとにどうしようかしら。本気で斬ればスキルで攻撃避けれないコウイチは倒せるだろうけど、今はクゥがいないから治療できないし…
「あれー?、もしかして諦めてくれた?」
「諦めてないわよ!あんたなんかすぐとっ捕まえてやるから覚悟しなさい!」
コウイチを相手に攻めあぐねているキーラを手近な木箱に腰掛け足を組んだ上に肘をつきながら恍惚の表情を浮かべているカシューム。
はーーー。やっぱり私の『
カシュームは他人の幸せを容認できないタイプの人間だった。
この後はどうしよっかなー。目の前で彼氏と私がキスしてあの小娘の精神をズタズタにしてやろっかなー。大体ついこの間産まれましたってぐらいのガキが一丁前に男作ってんじゃないわよねー。
カシュームはどうしようもないほど他人の幸せを容認できない人間だった。
「戦わないんなら帰ればー?コウイチ君は私に夢中みたいだしー?コウイチくーん。私とキスしちゃおっかー」
「カシュームサマト、キス、シマス」
コウイチはカシュームに言われるがまま彼女のそばに寄り、腕を伸ばして顔を近づけ……
「もうあんたに慈悲は必要ないわね」
キーラはその一言と同時に一切の躊躇なくコウイチの顔に剣を振り下ろす。
「カシュームサマ、アブナイ!」
「甘いのよ色ボケコウイチ!」
コウイチはキーラの攻撃に瞬時に反応し、籠手で受け止めようとするも、彼女の太刀筋は籠手に当たる直前で軌道を変え、コウイチの腕をすり抜けて肩から真下に向かって斬り下ろされる。
「ガァッ!?」
その光景を目の当たりにして、カシュームは困惑を隠せずにいた。
こんの小娘!ほんとに自分の彼氏斬りやがった!
「次はあんたよ!」
「ぐっ!」
キーラは振り下ろした剣を切り返すようにすぐさまカシュームに向かって斬りあげるも寸前の所で短刀に防がれ鍔迫り合いの形になる。
「大事なボーイフレンドに手を上げるなんてどうかしてるんじゃない?」
「こんなの彼氏でもなんでもないわよ!」
「くっ!」
語気を強めながらジリジリとカシュームを追い詰めるキーラだったが、押し切る直前に弾くように横っ跳びで鍔迫り合いから抜け出される。
「逃げんじゃないわよ。さっさと斬ってしょっぴくから」
「随分イカれた小娘だって事は分かったわー。でも私、忙しいから今日はここまでかなー」
一歩、また一歩とゆっくりキーラから距離を取ったかと思うと、胸の谷間から手のひらサイズの水晶玉を取り出した。
あれは、魔封晶?まずい!逃げられる!
キーラが魔封晶に気付いてカシュームの動きを止めようと動き出した時には、彼女は魔封晶を地面に向かって投げつけようと振りかぶっていた。
魔封晶はカシュームの手を離れ、地面に叩きつけられて音を立てて割れる……はずなのに、いつまで経っても魔封晶の割れる音はしない。
「あなた誰よ!?」
「悪いが、逃すわけにはいかんのでな」
そこに現れたのは、地面に着く前に魔封晶をキャッチして、のそりと立ち上がる茶色い肌の大男、『宵の手』のメンバーのグレゴリだった。