「取調べた男に聞いた情報だとあそこの家ですね」
シャバラの見る先は数多く建ち並ぶ普通の民家の一つだった。
「思ってたより普通ですね」
「まぁ目立ってたら逆に怪しいですから外見はあくまで普通の民家を装ってるんでしょう」
「どう攻め込みますか?」
「男ならやっぱ正面突破じゃねーか?」
家から少し離れた所で様子を伺いながらシャバラに質問すると突然後ろから知らない声が聞こえた。
振り返るとそこには見たことのない大男が立っていた。着ている服は至る所が破れており、そこから見える体には古傷が無数に付いているのが見てとれた。
「来るならアポ取ってもらわねーとなぁ?」
大男は騎士二人の兜を両手で掴むと地面に向かって勢いよく叩きつける。
叩きつけられた騎士は声も出さずに動かなくなってしまう。
クゥはその一瞬の出来事に立ちすくむことしかできなかった。
「貴様!よくも!」
「よせ!」
同僚をやられたことでパニックになり、闇雲に剣を抜き大男に斬りかかる騎士をシャバラが制止しようとするも時すでに遅く、感情的に振るった剣は簡単に躱され鎧をものともしないボディーブローをくらって吹っ飛んでしまう。
「おい、なんだ?」
「え、人が倒れてるわよ!」
流石にここまでの出来事で周囲にいた通行人が異変に気付いて声を上げる。
「クエス王国が誇る騎士様がこの程度とはなぁ。ちょっと残念だぜ」
「君がカリムか?」
シャバラは手でクゥを後ろに下げながら剣を構えて大男に問う。
「そうだけど、お前は誰だよ?」
「クエス王国副騎士団長のシャバラだ。大人しく投降してくれると助かるんだが」
「ぎゃっはは!それ言って付いてくやついんのか?」
カリムはそういうと人の顔程はありそうな大きな拳をシャバラに打ち下ろす。
「はあ!」
振り下ろされた拳を剣の腹でいなすとそのまま流れて地面についた拳は舗装された道路をいとも簡単に砕く。それに怯むことなく剣を振るうシャバラ。
「よっと」
カリムは完全に体勢を崩した状態で振るわれた剣をいつの間にかバックステップで避ける。その巨体に似つかない身軽さに、シャバラも驚愕する。
「副騎士団長サマの剣もこの程度か?」
「少し驚きました、だけどそこまで騎士団を愚弄されたら黙ってはおけないかな」
剣と拳を構え直し対峙する二人に一瞬の静寂が流れる。
先に動いたのはシャバラ。滑るような大きな一歩でカリムとの距離を詰め剣の間合いに入る。
居合の形で左の腰の鞘側から流れるように振り抜く。
『
カリムはその剣を生身の腕で受け止め、刃を皮膚すら傷つけず止めてしまう。驚きを隠せないシャバラを見てにやりと笑い、空いている左腕でシャバラを殴りつける。
「ぐっ!?」
シャバラは間一髪腕を畳んでガードするもするも、あまりの力に体が浮いて吹き飛ぶ。
「はっはー!まだまだぁ!」
『バインド』
「む?」
ここぞとばかりに追撃をかけに行くカリムを地面から伸びる光る縄が絡みつき動きを止める。
「大丈夫ですか!シャバラさん!」
マジックロッドを掲げたクゥが呼びかける。
「助かりました」
シャバラは大丈夫だと返事をするも、だらんと下に伸びた右腕を押さえながら立ち上がる。
(折れてはないようだが、しばらく使えないかもな...)
自分の腕を触りながら感覚を確かめる。
「なんだかこの場に似つかわしくないガキがいると思ったら魔法使いか」
カリムはクゥの方に目をやり首を一回鳴らす。
「先に潰しちまうかぁ?」
「ひっ」
カリムに睨まれたクゥはその目から飛ばされた殺気に喉から空気を漏らす。クゥが一瞬怯んだのを見たカリムは巻きついた縄を力任せに引きちぎると、クゥに向かって勢いよく駆け出す。
『アゲインスト』!
「む!?」
すぐさま気を取り直したクゥが放った魔法で、カリムに強烈な突風が吹き動きを鈍らせる。その間にシャバラがクゥに近づき守りを固める。
『ヒール』
続け様シャバラに回復魔法をかけ痛めた腕を癒すと、シャバラはしばらくは動かせないと思っていた腕が感覚を取り戻すのを感じる。
「クゥさんが来てくれて正解でした。これ以上かっこ悪いところは見せられませんね」
シャバラがそう言うと同時に、突風が途絶えたことで動けるようになったカリムが今度こそ勢いよく襲いかかってくる。
先程と同じ形で相対するシャバラとカリム。同じように左から剣を振るうシャバラを見て、同じく右腕で受け止めようとするカリム。
「そいつはさっき見たぜぇ!『硬腕』!」
「さっきとは少し違うぞ」
剣の刃は腕に止められるも、今回はカリムの腕から少し血が噴き出る。
「ぐぬっ!?」
「はああぁぁ!」
焦りの表情を見せたカリムを気迫の込もった声と共に剣を振り抜いて吹き飛ばすシャバラ。
「鬼人と呼ばれる副騎士団長がチンピラごときに負ける訳にはいかんのでな」
いつの間にか口調が変わり、顔からは笑顔の消えた冷たく相手を見据えるシャバラがそこにはいた。