『骸狩り』のアジトの一つ、居住区内のとある空き家にて───、
「ゼルバートさん!大変です!」
「アジトでは静かに喋れと言っているだろう」
「す、すいません」
慌ててゼルバートの部屋に駆け込んできたチンピラは、叱責を受けて声のトーンを二つ落としてから続けて話す。
「今仲間から連絡がきたんですが、カリムさんとカシュームさんが騎士団に捕まったようです」
「なに?あの二人が?誰にだ」
「どうやら、副騎士団長と探索者が数人だそうです」
ゼルバートは部下の口から伝えられた青天の霹靂に一瞬驚きの表情を見せるが、すぐさま落ち着きを取り戻し思考を巡らせる。
昨晩の今日でもう二人も捕まるとは予想外だった。しかし、副騎士団長?騎士団長ではなく?こんな犯人逮捕なんて大事件、あの
いや、出てこないんじゃなく出てこれなかったのか?突発的な逮捕で報告している時間が無かった、あるいはこの街にいない?
急に黙りこくった自分を前に、どうしたらよいか分からずそわそわとしている事しかできない部下を尻目にしばらく思考を継続した後、ふと立ち上がるゼルバート。
「目立たないように人を集めておけ。僕の予想が正しければ今夜にでも騎士団を潰せる」
「は、はい!」
もし騎士団に致命的ダメージを与えられれば、しばらくの間警備も手薄になりこの国で好き勝手ができる。そうなれば、その間に国中に麻薬をばら撒いて国ごと支配できる。
◇◇
そんな事など露知らぬコウイチ達はというと…
「おいコウイチ〜、あんた武術適正持ってるってほんとか?」
「え、まぁ一応は…」
「何できるか見せてみなよ」
シャバラを待つ部屋にて、暇を持て余していたスイレンに肩を組まれてカツアゲでもされているように話しかけられるコウイチは、言われるがまましぶしぶ『正拳突き』を見せることにする。
『正拳突き』
「どう?」
「ふーん、まぁまぁかな」
自分から見せろって言っといて随分な言い草だな。
「スイレンって防御系の武術とか知ってる?できれば教えて欲しいんだけど」
折角出会えた武術家だ。強い技とかはいらないから、身を守るのに有用な武術があれば教えて欲しいのだが。
「うーん、うちの武術は攻撃的な武術だからなー。これといって防御の技はないんだけど…」
「じゃあカリムを倒した時の技見せてあげて下さい。あれとっても凄かったですし」
横からクゥがそんな事を提案する。そういえばさっき見たあの大男を倒したって言ってたっけ。
「見せるのはいいけど、あの技は難しいぞ?あたしでも習得するのに半年はかかったんだぞ?」
口では渋るように言いつつも、褒められたことでまんざらでもない様子で椅子から立ち上がり構え出すスイレン。
この子も案外チョロいなぁ。
「見とけコウイチ!これが崩山拳奥義『山嵐』だ!」
スイレンが構えた状態から拳を前に突き出すと、拳の回りの空気が震え、風が巻き起こる。風は突風となり拳の方向に吹き荒れて見事部屋の壁を打ち砕く。
「何やってるんですか!?」
そこに血相を変えたシャバラが入ってくる。
「ごめーん。ちょっと威力強かったわー」
「建物を壊さないで下さい!どうするんですかこれ!?あぁ、団長に怒られる…」
悪びれもしないスイレンに怒りをあらわにして、壊れた壁を見て
一通りシャバラからのお叱りを受けた後、今日は一旦帰ろうかという話になった時のこと、何かが爆発したような突然の轟音が庁舎に響き渡る。
「あたしじゃないって!」
反射でシャバラに睨みつけられたスイレンが抗議の声を上げると同時に、遠くから騎士の声が聞こえる。
「侵入者だー!全員捕らえろー!」
「皆さんは危ないのでここに隠れていてください!」
俺達にそう言った後、部屋から出て行くシャバラを見送った後、何やらそわそわしていたスイレンが喋り出す。
「楽しそうな事になってきたなぁ!行くぞ!」
「ちょっと待て待て!」
ずんずんと部屋から出て行こうとするスイレンの腕を掴んで止める。
「なんだコウイチ?武闘家ならこんな楽しそうな事見逃すなんてあり得ないだろ」
「武闘家じゃねーよ!危ないから大人しくしとけって言われたろ?」
俺の制止など関係ないといった様子で笑顔で部屋から出て行こうとするスイレンを見てどこぞの戦闘民族かこいつはと考えていると…
「コウイチ!危ない!」
キーラの声が聞こえたと同時に、俺とスイレンのいた部屋の床がひび割れたかと思うと、あっという間に崩れ落ちる。