騎士団庁舎に襲撃事件が起きる少し前、庁舎内の牢屋にて──、
「ここで大人しくしていろ!」
「そんなに怖い言い方しないでもさっきから大人しくしてるだろ?」
後ろ手に鎖で繋がった枷を付けられながら、牢屋の中に放り込まれたカリムは溜息混じりに悪態をつく。
「カリムも捕まったの?」
「ああん?って、なんでカシュームもいるんだよ」
自分の名を呼ばれ振り返ると、牢屋の奥の影から顔を出したのはカリムと同じ『骸狩り』の幹部、カシュームだった。
「なんでお前も捕まってんだよ」
「それはこっちのセリフよ。カリムちゃんは戦闘要員でしょ〜?なんで負けてる訳?」
「腕の立つ武闘家と魔法使いがいてな、一人ずつならなんとかなりそうなもんだが、同時に相手は厄介だった」
「言い訳なんですけど〜」
「うるせぇな。次戦えば勝てる」
そう話すカリムの目は、怒りに満ち鈍く光っていた。
「もう捕まってるから、次とかないと思うけど〜」
カシュームが諦めたように中空を見つめながら呟いた時、遠くから爆発したような大きな音が牢屋に響く。
「なんだ!?」
牢屋から少し離れた場所にいた見張りの騎士が声を上げると甲冑を着込んだ男が走ってくる。
「大変だ!庁舎に侵入者が、それも何十人と!」
「なに!?」
「すぐ手を貸してくれ!」
「分かった。どこだ?」
「ここですよ」
「はがっ!?」
見張りの騎士が加勢に向かおうと駆けつけた騎士に背を向けた瞬間、駆けつけた騎士の手から魔力の塊が放たれる。
「まったく、二人して捕まるなんて何事ですか」
甲冑を脱ぎながら顔を出した『骸狩り』幹部のゼルバートは牢屋で枷に繋がれた二人を見て呆れたような声で話しかける。
「ちょっとヘマしちまってな」
「さすがゼルちゃん!助けに来てくれると思ったよ〜」
「さっきまで観念してたくせに調子のいい奴だな」
「じゃれあってる場合じゃないですよ」
ゼルバートは二人の枷を小さな魔弾で壊しながら話を続ける。
「どうやら、今この国には騎士団長がいないらしいです。あなた達を助けるついでに騎士団に致命的なダメージを与える良い機会です。やってくれますね?」
「丁度むしゃくしゃしてた所だ、うっとうしい騎士団をぶっ飛ばせるなら、なお良しだぜ」
「そうね〜。ストレス発散は大事だし、いい男がいたら連れて帰ってもいいよね?」
「カリム、これを」
「お、悪いな」
カリムはゼルバートから回復ポーションを受け取ると、それを一気に飲み干す。
「そのレベルの怪我なら完治はしないだろうが痛みはマシになるでしょう」
「これなら十分暴れられるぜ」
『骸狩り』の三人は各々、甲冑を脱ぎ、枷を外し、言葉は交わさず別々の方向へと散らばって行く。
◇◇
「んぐっ〜〜〜!?」
突然抜け落ちた床に反応できる訳もなく、尻から勢いよく階下に落下し声にならない悲痛の音が喉から漏れる。
「おっとっと、大丈夫かコウイチ?」
隣には体操選手のように両足でぴたりと着地してこちらを心配するスイレンの姿があった。
落ちた場所は物置か何かだろうか。明かりは無く、抜けた上の穴から微かに光が漏れるだけの薄暗い部屋だった。
「スイレンが暴れるから抜けたんじゃねーのかこれ?」
「違うって!これは絶対違うって!なんか下から気配したからそいつだってきっと」
「下から気配?、んなこと言われたって…」
ふと周囲を見渡してみるも暗くて全容は分からず、人がいるかどうかなど確認できない。
「コウイチさん大丈夫ですか?」
上の穴からクゥが心配そうに顔を覗かせる。
「おー、こっちはなんとか大丈夫だ。今からそっちに戻るから待っててくれ」
出口を探そうともう一度辺りを調べると、一つの床辺りからうっすらと光が漏れているのを見つける。
「あそこにドアがあるみたいだし、とりあえず出るか」
「オッケー」
スイレンを連れて明かりの側に近寄り、手で当たりをつけて周辺を探るとドアノブに触れる感触がする。
「お、あったあった」
ガチャリという音と共にドアが開き、部屋の中に明かりが入ってくる。
明かりが入ってきたのだが、大きな影も同時に視界に入ってきた。
「お前も騎士か?」
大きな影の主を見上げると、そこにはグレゴリ程の明らかに人相の悪い大男が立っていた。
「失礼しましたー」
何も見なかった事にしてドアを閉め直す。
「なんで閉めるんだよコウイチ。出るんだろ?」
ドアの影にいたせいで大男を見ていないスイレンが不思議そうに聞いてくる。
「なんか居たんですけど!?」
「おーい、そう恥ずかしがるなよ」
背後からドア越しに声が聞こえてくると、ドアが外から弾けてコウイチの体ごと吹き飛ばす。
「誰かと思えばあたしにぶっ飛ばされたダサい大男君じゃん」
「早速お前をぶっ飛ばせるなら機会がくるとはなぁ!」
コウイチとドアが吹き飛んだ事で、カリムとスイレンが相見える。