なんか今日痛い目にばっかり遭ってる気がするんだけど、俺そんなに悪いことしたかな?
吹き飛ばされたドアの破片や元々そこにあった騎士団の備品らしき物に埋もれながら体の痛みを味わいながらそんな事を考えていると話し声が聞こえてくる。近くにいるはずなのに、物に隔たれたせいか遠くで話しているように感じる。
「丁度強いやつと
「うるさいなぁ、そんなでかい声出さなくても聞こえるっての」
あたし、一回倒した相手はもう興味ないんだけどなぁ。
嬉々として声を上げるカリムに対して、冷めた態度で頭をぽりぽりと掻くスイレンは突然思いついたように顔をはっとさせるとニヤリと笑ってから話し出す。
「戦ってあげてもいいけど、その前にあんたが吹っ飛ばしたあいつ倒せたら戦ってやるよ」
「何言ってんの!?」
突飛な事を言い出したスイレンに驚いて瓦礫の中から飛び上がるコウイチ。
「お、やっぱり元気そうだなコウイチ」
「元気じゃねーよ!ボロボロだよ!」
「騒げてるから大丈夫だな」
「おい女、こいつぶっ飛ばせば俺と戦うんだな?」
「いいよー」
「良くないですけど!」
「ここだとやりづらいし外出てやろうよ」
「いいだろう」
「え、あの、俺の話…」
コウイチの声など聞こえていないように振る舞って部屋を出て行く二人を眺めていると、スイレンに手招きされるまま彼女に近づく。
側に寄るとスイレンは耳元に口を近づけてきて囁く。
「戦い始めた瞬間、さっきあたしが見せた『山嵐』打ってみてよ」
「え?でも一回見ただけで打てるか分かんないし…、ていうかもっと言えば戦いたくないし…」
「いいから、やれ」
肩をがっしりと組まれ、有無を言わさぬ言葉と顔の圧力に負け、「はい」と返事せざるをえなかった。
「よし、ここならいいだろう」
カリムが立ち止まった場所は庁舎のど真ん中、ロの字に建物で囲まれた庁舎の騎士達が鍛錬を行う場所で、シャバラが順位戦を行った場所でもあるが、今は誰一人人はおらず正門の方からガヤガヤと騎士達の声が聞こえる。
「じゃあ、早速始めるか」
首を左右に動かして、指の骨を鳴らしながらやる気に満ち溢れているカリムを見て、あんな大男と今から戦うのかという恐怖で少し震えるコウイチ。
じりじりと距離を縮めていくカリムとコウイチ。
先に動きを見せたのはカリム。一撃で終わらせるつもりで右腕の『硬腕』を発動させる。
『山嵐』
「なに!?」
危険を察知したコウイチは咄嗟にスイレンに言われるがまま、さっき見ただけの『山嵐』を放つ。それを見たカリムはスイレンとの戦闘がフラッシュバックした事で攻撃の動作を止めて顔の前に両腕を構えてガードする。
コウイチの拳がカリムの腕に当たると、拳からは弱々しい風が吹いてカリム髪を揺らす。
コウイチはやはりこうなるかと絶望したのか固まってしまう。
「なんだァ?今のは?」
あ、これ俺死んだな。
ガードを解いて眉間に皺を寄せたカリムと目が合って自分の未来を予見したコウイチは全身の血の気が引くのを感じる。
「こんなのは俺がくらった技じゃ…」
「『山嵐』ぃぃーー!!」
カリムが喋っている途中で、横からスイレンの全力の『山嵐』が彼の横っ面に直撃する。
さっきコウイチが放ったそれとは別格のスイレンの『山嵐』は、横にいたコウイチですら吹き飛ばされそうになるほどの風圧を発する。
一方でそんな威力の攻撃を不意にくらったカリムははるか遠くで完全に気を失っているようである。
えーーーーーー。
コウイチは目の前で何が起きているのか理解できずに思考が停止してしまう。
「私は手を出さないとは言ってないからな!」
はははと笑いながらそんな事を言うスイレンを見て言葉も出てこない。
「おま、俺のこと囮に使ったの?」
「うん。その方がさっさと倒せそうだったし」
泣きそうになりながら、やっとのことで出た質問に何の悪びれもせずに答えるスイレン。
「あいつが逃げ出してるなら、コウイチ達が捕まえてきた奴も逃げ出してるかもな。よし、全員ぶっ飛ばしに行くぞコウイチ!」
新しいおもちゃでも見つけた子供のように目を輝かせているスイレンを尻目に、へたりとその場に座り込んでしまうコウイチ。
「どうした?コウイチ」
「腰抜けた…」
コウイチは激しく後悔する。
先程、カリムから感じた殺意を思い出して。そんな危ない囮を何の説明もなくさせたスイレンを見ながらコウイチの目からは涙が一筋流れる。