絶対不可避の異世界更生   作:浅葱 沼

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壁の中から

 

「さて、どうしますかねー?」

「ちょっと待って下さい!」

 

 

 ガグマがうっすらと笑いを浮かべながらゆっくりとカシュームへと歩を進めていると、後ろからのクゥの声に振り返る。

 

「なんすか?」

「その人、多分ですけど精神操作系の魔法で男性を意のままに操ることができるようです」

 

 クゥはカシュームや騎士から逃げながら、相手の魔法の気配を察知し、分析することでカシュームの魔法の本質を突き止めることに成功していた。

「…なるほどっすね。じゃあこいつは君達に任せて自分は他のとこ手伝ってきますねー」

「え?ちょ、ちょっと待って」

「じゃあ、お願いしまーっす」

 

 ガグマはクゥの返事も聞かず、来た時と同じように壁をドアのように開けて外へ出て行ってしまった。後にはただの壁が残った。

 

「なんだったのよ。あいつ」

「『宵の手』の方って不思議な人が多いですよね」

「ただの変人の集まりでしょ」

 

 キーラは呆れたようにさっきまでガグマがいた場所を見ながらため息を吐くと、身動きが取れないカシュームの方を向き直す。

 

「な、なによ!何見てんのよガキが!」

 

 目が合うと眉間に皺を寄せて睨みつけてくるカシュームにつかつかと歩いて近寄っていくキーラ。カシュームもなんとか石の触手から抜け出せないかともがいてみるが、やはり抜け出すことは不可能な様子。

 

「やっぱりあんた。結構なおばさんよね」

「あぁん!?」

 

 カシュームに近寄ったキーラは彼女の顔を見ながら挑発するとカシュームも癪に触ったようで、声を上げて怒りを露わにする。

 

「怒ったら余計小皺が目立つわよ?」

「ガキがぁ、絶対ぶっこ……きゅう」

 

 カシュームが喋り切る前に、彼女の脳天に鞘に差したままの剣を叩きつけて意識を刈り取る。

 

「さ、庁舎(ここ)は危なそうだし、コウイチを助けに行ってあげるとしましょう?」

「そうですね。私もコウイチさんが心配です。でもスイレンさんも一緒なので大丈夫だとは思いますが…」

「だといいんだけど」

 

 二人は来た道を戻ってコウイチを探しに向かう。

 

 

 

   ◇◇

 

 

 

「もう嫌です!動きたくありません!」

「そうグズるなよコウイチ!武闘家だろ?」

「武闘家じゃないー!なった覚えないー!」

 

 庁舎中央の広間の一角にて、精神にダメージを受け幼児退行したコウイチとそんな彼を無理矢理連れて行こうと腕を引っ張るスイレンの姿があった。

 

「ったく、どうすっかな」

 

 スイレンがグズるコウイチに困り果てている時、近くの壁が大きい音を立てて弾け飛ぶ。

 

「ふぅ。少し骨の折れる相手だったな」

 

 破壊された壁からは、『骸狩り』の幹部ゼルバートが出てきた。彼の体と服は傷ついている様子で、ついさっきまで誰かと戦闘していたことを物語っていた。

 

「お前も『骸狩り』の幹部かなんかか?」

 

 スイレンに声をかけられて人の存在に気付き振り向くゼルバートは、彼女の後ろの方に同じ幹部のカリムがぐったりと地面に倒れているのを見つける。

 

「あなたがカリムをやったんですか?…ん?」

 

 ゼルバートはスイレンを見据えると、すぐ近くにうずくまっていたコウイチを見つける。

 

「やっと会えましたね少年」

「へ?」

 

『魔弾』

 

「いきなり何すんだ!」

 

 コウイチを見つけるなり放ってきた『魔弾』を拳で撃ち落とすと声を上げて牽制するスイレンだったが、

 

「その割に嬉しそうな顔をしているが?」

「そうか?」

「待て待て!」

 

 強敵の登場に興奮を抑えられていない様子のスイレンの手を掴んで走り出すコウイチ。

 

「なんだコウイチ!今いいとこだったろ!?」

「それどころじゃねーよ!」

「なんだよ?元気になったかと思ったらまた逃げるのか?」

「あいつはやばいんだって!マジで!」

 

「せっかくの再会だ、逃げることないだろう?」

「めちゃくちゃ追ってきてるー!」

 

 駆けるコウイチ達に後ろから魔弾を放って追いかけてくるゼルバート。

 

「離せコウイチ!あたしはやるぞ!」

 

 コウイチの腕を払い再度ゼルバートと向き合うスイレン。

 

「君に用はないんですが…」

「あたしはあるんだよ。いいから戦おうぜ」

 

 その言葉だけを交わして一方は魔弾を放ち、一方は距離を詰めるために大きな一歩で踏み込む。




最近、短編も書いてみたので読んでない方はそちらも読んでいただけると嬉しいです!
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