絶対不可避の異世界更生   作:浅葱 沼

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なんでこうなった

 

「あれ、やばそうじゃない?」

「急ぎましょう!」

 

 コウイチを探していたキーラとクゥは庁舎の広場で起きているスイレンとゼルバートの戦いを廊下から目撃する。

 

「コウイチさんも一緒みたいです!」

 

 スイレンの後ろで地面に座り込んでいるコウイチを見つけて声を出すクゥ。

 

「なに腰抜かしてんのよ、あのバカ!」

 

 次の瞬間、ゼルバートの放った魔弾が直撃して宙に浮くスイレンが見える。

 

 ゼルバートがコウイチに近づいていくのが目に入る。ここからではどれだけ急いでも二人の元にたどり着くのに、あと数秒はかかる。後ろを付いてきていたクゥも庁舎を走り回っていたせいで息が上がり、どんどん速度を落としていく。

 

「なにやってんのコウイチ!早く逃げなさい!」

 

 駆けながら声をかけると、ゼルバートには聞こえたらしくこちらをちらと見たが不敵な笑みだけ浮かべてコウイチに向き直る。

 

 ダメ!間に合わない!

 

 

 

  ◇◇

 

 

 ゆっくりと伸びてくるゼルバートの手を、動くことすらできず眺めていることしかできない。

 

 今更逃げようとしたところで、俺はあの魔弾を視認することもできないし、避けることもできないのだ、もう、打つ手がない。

 

 遠くから俺の名を呼ぶ声が聞こえる。だが、ゼルバートの手から目を背けることができない。

 

 もうあと数歩で目の前にくる。近づいてくる。

 目の前に来た。手を伸ばしてくる。

 顔の目の前に手がある。今魔弾を撃てば俺の顔は消し飛ぶのだろう。

 もうなにも見たくない。目を瞑る。

 顔に手が触れる。

 

 そして、——

 

 

「んむっ!?」

 

 唇に何か柔らかい物が当たる感触がして、とっさに身を引く。

 

 何された?今、

 

 目を開けると、しゃがみこんだゼルバートと目があう。

 

「今更まだ逃げる気かい?」

 

 そう話す彼の顔はどことなく赤みを帯び、目はまぶたが下がって来てとろんとしている。

 

 

 

「な、なな、何やってんのよあんた!?」

 

 ふと近くから声がしたのでそちらを見ると、これまた顔を赤くしたキーラが立っていた。

 

「何って、キスだが?」

 

 何食わぬ顔でそう答えるゼルバート。

 

 

 は?キス?

 

 

 俺、今キスされたの?

 

 

「君と前に会った後、ずっとお菓子かったんだ。何をしようにも君の顔が思い浮かぶ。そして気付いたんだよ、これは恋だと...」

 

 何言ってんの、この人。

 

「さぁ、僕と結婚しよう」

 

「「はぁ!?」」

 

 キーラと俺の声が重なる。ちょっと理解が追いつかない。何を言ってるんだこいつは。

 

「ちょっとコウイチ!どういうことよこれは!」

 

「いや待ってくれ。本当に意味が分から......、あ、」

 

「どうかしたのかい?」

 

 目の前で本心から心配そうに俺の顔を覗くゼルバートを見て思い出す。

 

 そういえば俺は、こいつに市場で買った惚れ薬を飲ませた。しかも、本来飲み物に数滴垂らすだけで効果があると言われたものをひと瓶丸ごと。

 

「あんた、まさか心当たりあるの?」

 

「えっとですね...なんと言いますか。なぁゼルバート、さん?」

 

「なんだい?」

 

 真っ直ぐすぎるぐらいな眼差しで返事をするゼルバートはどこか上の空でぼーっとしている。そんな彼を見てなんと言っていいか分からず、次の言葉に迷っていると、

 

「あれー?もう終わっちゃったすか?」

 

 今度はまた別のところから男の声が聞こえる。振り返ると、見たことがないスーツ姿の男がいる。

 

「助けようと駆けつけたんすけど、さすがボスが認めるコウイチさん。『骸狩り』の幹部を籠絡してるとは、さすがっす!」

 

「そんなんじゃないから!?てか誰だよ」

 

「どうも、『宵の手』の財政担当のガグマっす。お見知り置きを」

 

「何?『宵の手』だと?」

 

 グリムの言葉に反応しゼルバートがゆらりと立ち上がり手を彼に向ける。

 

「ストップストップ!」

 

「大丈夫だよコウイチ。こんな奴はすぐに殺してしまうから」

 

 物騒なことを言い出す、薬のせいで俺に心酔しているゼルバートをなだめる。

 

「まあまあ、そんな物騒なことしないでくださいよ」

 

「ふむ、コウイチがそう言うのならやめておこう。じゃあさっきの続きを...」

 

「ちょっ、それもちょい待って!」

 

 やおらこちらに顔を近づけてくるゼルバートを止めて立ち上がる。

 

 ど、どうしようこの状況。

 

「じゃあ、こうゆうのはどうっすか?」

 

 ガグマが俺に耳打ちをしてくる。

 

「なぜ僕はダメでその男は近づいていいんだコウイチ」

 

 ガグマが俺に近寄るのに難色を示すゼルバート。

 

 もうあんたちょっと黙っててくれ。

 

 そんなことを考えながらガグマの声に意識を向けると、彼からまさかの提案をされる。

 

「は?そんな事できんの?」

 

「大丈夫っす!信じてください!」

 

 ニッコリと笑って親指を立てるガグマを見ながら、半信半疑でゼルバートの方へと一歩踏み出す。

 

 こんなの上手くいくかどうか、もうどうにでもなってくれ。

 

 ファーストキスを失った悲しみを背負いながら、ゼルバートにガグマに言われた通り話しかける。

 




短編も投稿したのでよければそちらも読んでいただければ嬉しいです!
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