コウイチはガグマの言葉を信じていいのかどうか半信半疑のままゼルバートに近づくと、意を決して話し出す。
「ゼルバート。お願いがあるんだけどいいかな?」
コウイチ本人は気付いていないが、彼の顔は半分引きつっているし、喋り方も片言になっている。
「なにかな?」
「オレモ、ゼルバートガ、スキナンダー!」
「本当かい!?」
あからさまに喜びの表情を表に出すゼルバートの事は見ない事にして続ける。横からキーラも「何言ってんのよあんた!」とか言ってる声も聞こえるが、それも無視。
「も、もちろん。でも、一つお願いがあるんだけど聞いてくれるか?」
「君の頼みならなんでも聞くとも!」
前のめりに歩み寄りってきて、今にもまた唇を重ねそうな程の距離のゼルバートから半身を引きつつ、ガグマに言われた通りの要求を話す。
「俺もゼルバートと一緒に居たいのは山々なんだけど、犯罪者はちょっとさ…」
「そんな!?じゃあどうすればいいんだい?」
「だからさ、一回騎士団に捕まってもらって、ちゃんと罪を償ったら一緒になろう。俺、ずっと待ってるから」
こんなの鵜呑みにして言うこと聞く奴がいるわけないだろ。
「分かった。捕まるよ」
「「マジで!?」」
横で何を見せられているのやらと呆れていたキーラと声が被る。
「ああ、本当だよ。コウイチが待っていてくれるなら喜んで捕まろう」
おいおい、あの惚れ薬やべーよ。本当に惚れ薬か疑い始めるわ。
「コウイチさん!大丈夫ですか!」
惚れ薬の効き目に若干の恐怖を感じた頃、丁度いいところに身体中傷だらけのシャバラが現れた。
「いいところに来たな副騎士団長。さぁ、私を捕まえてくれ」
ゼルバートはそう言いながら両手を前に出して拘束してくれとジェスチャーをとる。
「はぁ!?」
突拍子もない庁舎襲撃の首謀者による自首宣言に困惑の声を漏らすシャバラ。
「コ、コウイチさん。これは一体どういう状況ですか?」
ボロボロの身体のまま剣を構えていたシャバラは目を丸くしてその場に固まる。当然の反応である。
◇◇
「待っていてくれコウイチ!罪を償ったら帰ってくるから!」
「大人しくついて来い!」
騎士が五人がかりで抑えながら連れていかれるゼルバートは涙ながらにコウイチに叫ぶ。
「あの惚れ薬、何入ってたんだろ。怖いわ」
建物の陰に消えていくゼルバートを見ながら、金貨一枚もした怪しい薬のせいで
「惚れ薬ってなんのことですか?」
横にいたクゥがコウイチの言葉を聞き逃さず問うてくる。
「え!?なに?惚れ薬?なにが?」
「コウイチさんって分かりやすいですよね」
若干呆れたような目で見られる。クゥに誤解されるのは辛い。惚れ薬はやましい気持ちで買ったから誤解も何もないが...
「いや、違うんだクゥ。これには深い訳があってだな、説明すると一晩で足りるかどうか」
「何の話してんの?」
コウイチが慌てている姿を見て近寄ってきたキーラ。
まずい。キーラと一緒に市場に行ったときに買ったなんて知られたら、なんて言われたか分かったもんじゃない。どうせ「あたしに飲ませようとしてたんでしょ!」とかなんとか面倒臭くなるのが目に見えてる。どうにか誤魔化さねば。
「なに黙ってんのよコウイチ」
こんな時に限って、いい言い訳が出てこない。どうしよう。
「三人共、ここでしたか」
「シャバラ!」
言い訳を考えて頭を抱えているところにシャバラが手を振りながらやってきてくれた。ナイスタイミング!
「皆さんのおかげで無事『骸狩り』の連中と幹部三人を捕らえることができました。感謝します」
言葉の最後に、「約一名の情緒が不安定ですが」と言った気がするが聞かなかったことにしよう。
こうして、騎士団長スメラギから依頼された『骸狩り』幹部の捕獲と、突如起こった騎士団庁舎襲撃事件は無事幕を閉じたのだった。
◇◇
事件から数日後、スメラギが帰ってきたので騎士団に呼ばれた俺たちは騎士団長の執務室にいた。横にいるシャバラのさらに横をみると、スイレンの姿もある。ここ数日は庁舎を宿屋として使っていたらしい。相変わらずどういう神経してんだこいつは。
「お前らがなぜ呼ばれたか分かるか?」
威圧的な声色で話すスメラギ。
「依頼の成功報酬渡すためだろ?」
分かりきった事を聞いてきたので素っ気なく返事すると、
「そんな訳ないだろうが!なんだこの惨状は!」
スメラギが指差す先にはなにもない。というより無くなっている。そこには壁が、天井があったはずなのだが、先日の襲撃により無くなったせいで、今や執務室は堅苦しい感じなど一切感じない青空執務室となっている。
「リ、リフォーム?」
「こんな劇的ビフォーアフターあってたまるか!」
どうやら騎士団長には、この匠の技がわからないようである。