「あ、暑い」
照り付ける恒星の光線を浴びながら瓦礫を集める。
「コウイチさん、頑張ってください、もうちょっとですよ!」
「へーい」
コウイチは今、名も知らぬ騎士に励まされながら汗を流して、庁舎の後片づけを手伝っていた。
スメラギから『骸狩り』の壊滅による報酬を受け取った後、さっさと帰ろうとしたところ「追加報酬を払うから庁舎の瓦礫除去作業を手伝え」と言われてしまった。当然、そんな面倒臭そうなことは断ろうとしたのだが、クゥに「困った時はお互い様ですし手伝ってあげましょうよ」とまっすぐな目で言われたので今に至るわけである。
「それにしたって暑すぎる!」
「泣き言言ってないで、これが最後だからさっさと持って行きなさい」
「へいへーい」
隣で手押し一輪車に瓦礫を積み込んでいるキーラに注意され、動き出す。
季節は夏真っ盛り。なにもしていなくとも汗が滲むというのに、この重労働である。泣き言の一つも出てくるというものだ。ここ数日間の瓦礫除去作業もいよいよ大詰めで、庁舎内に散らばっていた瓦礫はほとんど無くなって、それらは正門近くの空いたスペースに集められていた。
瓦礫の山は文字通り山の様相を呈しており、騎士団総動員でやったとはいえよくここまで集められたものだと感心してしまうほどである。
「コウイチさん、お疲れ様です!」
「お疲れクゥ」
瓦礫の山を『バインド』の魔法で崩れないように固定しているクゥは、山の近くにちょこんと座り込んでいる。
「コレで最後だってさ」
「やっと終わりましたね。すいません、私がもっと力持ちなら手伝えたんですが...」
瓦礫を一輪車から落としていると申し訳なさそうにクゥに謝られた。クゥには『バインド』で瓦礫を一日中固定してもらっているし、謝ることはないと思うのだが...
「この仕事終わったらお金も入るし、みんなでゆっくりどっかに旅行してもいいかもな」
「ほんとですか!?是非行きましょう!」
なんとなく言ってみた提案に思いの外食いついてきた。確かにこの国にきてからゆっくり過ごせた事ないし、たまにはみんなでどこか出かけるのも悪くないかな。お金はあるし。
「じゃあ、スメラギに報告してくるよ」
「はい、いってらっしゃいです」
クゥと別れて、スメラギのいる青空執務室へと向かう事にした。
「コウイチ!」
庁舎の広場を歩いていると、どこからか声をかけられたので周囲を見回すと、広場に接する廊下からスイレンが顔を出して手招きしている。彼女はここ数日、崩れた瓦礫の中でも大きすぎて運べないものを砕いて小さくする仕事をしていたのだが、瓦礫も無くなって暇をしているのだろう。
「どうした?」
「ちょっと話があんだけどいいか?」
カリムの一件で彼女には恐怖心があるのだが、いきなり取って食われることもないだろうし話ぐらいは聞いてあげよう。
◇◇
「団長、瓦礫の撤去完了しました」
「ん、そうか。ご苦労だったな」
青空執務室にて、シャバラから報告を受けるスメラギは国に提出する書類を書いていた。
「撤去の後は修繕だが、なかなか高くつきそうだな」
撤去は騎士団の者たちで済ませたので実質タダだが、修繕となると騎士にそんな知識はないので外部に頼るしかない。スメラギは、いっそ自分でやってしまおうかとも考えたが、多忙を極める彼にそんな時間はなかった。この後もすぐに王城に行かねばならない用事がある。
どうしたものかと、予算を見ながら考えていると執務室のドアがノックされる。
「入れ」
「どもーっす。こないだ振りっすねー」
入れという言葉とほぼ同時にドアが開けられ、そこから顔を出したのは『宵の手』のガグマだった。
「なにしに来た?自首でもしに来たか?」
「まっさかー、お手伝いですよお手伝い」
「手伝い?」
威圧的な声と目で話すスメラギを物ともせず、呑気な調子で続ける。
「自分のスキルなら、庁舎の修繕なんてあっという間にできちゃいますよ?どうですか?」
「......なにが狙いだ」
「やだなー、狙いなんてないですよ。もちろん修繕費なんていらないですよ?ただの慈善事業なんで」
どこが慈善事業なものか。要は騎士団に借りを作りたいのであろうと横で聞いていたシャバラですら分かる。
「団長!こんな奴の話を聞く必要はありません!今すぐ捕まえましょう!」
「では、頼むとしよう」
「分かりました!」
「修繕の方だ」
「えぇ!?」
腰の剣に手をかけていたシャバラは力が抜けてしまう。
「ですが団長!?」
「じゃあお前にはタダよりいい修繕方法があるのか?」
「そ、それは...」
「大丈夫だ。責任は俺が持つ」
スメラギの言葉に負けて大人しく一歩引くシャバラは、ガグマを睥睨する。
「じゃあ、ちゃちゃっと終わらせちゃいますねー」
その言葉通り、ガグマはクゥのいる瓦礫の山に向かいそれに触れると、瓦礫はたちまちドロドロと溶けて粘土のように一つの塊に姿を変える。それを次々と庁舎の壊れた部分を埋めるように合わせていくと、粘土は固まり、元の庁舎の姿へと戻っていく。庁舎が完全に修復するの要した時間は、ものの三十分程度だった。
「本当にあっという間だったな」
つい感嘆の声を漏らすシャバラの横では、実際にガグマのスキルを目の当たりにしていたキーラとクゥも規模の大きさに驚きを隠せないでいた。
「こんなこともできたのね、あいつ」
「すごいスキルですね」
「どうっすか?すごいっしょ?」
鼻高々に話すがガグマを尻目に、スメラギが近づいてくる。
「手伝ってもらって助かった。これは約束の報酬だが、コウイチはどこだ?」
「あれ?そういえば見てないわね」
不思議そうに周りを見るキーラ。
「私はスメラギさんに報告しに行くって聞きましたが、来てませんか?」
「い、いや?来てないが」
クゥに話しかけられると、なぜか少し緊張した様子で返事をするスメラギに遠くから騎士が声を上げながら駆けてくる。
「団長!探しました。さっき、スイレン殿からこちらを預かったのですが...」
そう話す騎士の手には一枚の紙が握られていた。
「なんだ?どうせ逃げたのだろう。元より胃国民だし、ややこしいから放っておくつもりだったが、手紙を書くとは案外律儀だな」
受け取った紙に目を通しながら話していたスメラギは、紙に書かれた内容を見て顔色を変えてキーラとクゥに向き直る。
「どうかしました?」
キョトンとした顔でスメラギをみるクゥに「これを...」とだけ言って紙を渡す。
キーラとクゥはなんだろうと思い手紙に目を通すと、そこにはお世辞にも綺麗とは言えない字でこう書かれていた。
(コウイチは貰ってくわ!短い間だったけど楽しかったぞ!)
「こ、これって...」
「誘拐、されたようだな」
日も沈みかけた頃、まだ西日は強く照り付けていた。