絶対不可避の異世界更生   作:浅葱 沼

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新天地へ

 

「うーん、むっ、もごっ!?」

 

 体に揺れを感じて目が覚めると、口に布をかまされていて喋れない。というか全身を縄で縛られているため動くこともできない。芋虫のように床に放置されている。

 

 明かりはなく薄暗いが天井から白い光が漏れているところを見るに

 

「お、起きたかコウイチ。よく寝てたな」

 

 頭上から声が聞こえたのでふと見上げると、何かの肉を焼いた串焼きを頬張りながらこちらを見下げているスイレンと目が合う。

 

「むー!むおー!!」

 

「コウイチも腹減ったのか?今取ってやるからちょっと待てよ」

 

 串焼きを口に咥えて俺の口に噛ませている布を解くスイレン。

 

 

「誰か助けて下さい!この人誘拐犯──、ぐふぅ!?」

 

 助けを求めようと声を出したコウイチは、高速で繰り出されるスイレンの拳により意識を刈り取られた。

 

 

   ◇◇

 

 

「もがっ!」

 

 再び目を開くと、また口に猿轡をかまされていた。

 先程目覚めた時とは違い、上から降ってきていた明かりもなく辺りは暗闇に包まれているので現在は夜らしい。揺れもないし、多分馬車も止まって休んでいるのだろう。

 

「んー!んんー!!」

 

「んぇ?あぁ、また起きたのか?」

 

 闇の中から寝ていたであろうスイレンの声が聞こえてくる。

 

「むがむがっ!」

 

「しょうがねぇなぁ──、フンっ!」

 

「ぶごっ!?」

 

 不条理な暴力がコウイチを襲い、意識を刈り取る。

 

 

 

   ◇◇

 

 

 

 次に目が覚めると、明かりが戻っており馬車も絶賛稼働しているらしく揺れも戻っていた。

 

「……もが」

 

「お、起きたか。寝過ぎだぞコウイチ。もう叫ばないなら解いてやるけど守れるか?」

 

 寝てたわけじゃねーよ。お前に無理矢理気絶させられただけだろうがと言ってやりたいがこの状態ではどうにもならないのでこくりと頷いて返事をすると、口の布を解かれる。

 

「夜に起きた時にはもう助けを呼ぶつもりなかったのになんで殴ったんだよ」

 

「え?夜起きたのか?寝ぼけてて気付かなかった」

 

 じゃあ俺は無意識で殴られたんですね。

 

「もうお前に従うから体の方も解いてくれると助かるんだが…あと何か食べ物を下さい」

 

 起きては気絶させられの繰り返しで1日以上飲まず食わずのせいか喉も乾いたし空腹もひどい。とりあえず何か口に含みたい。

 

「いいよー」

 

 気の抜けるような声で返事をしてコウイチの縄を解くスイレン。

 

「はいこれ」

 

 やっと縄から解放されて、久しぶりの自由を感じているとスイレンが荷台の中にあった箱の中からリンゴを一つ取り出して投げ渡してきた。

 

「……一応聞くけど、このリンゴはスイレンのだよな?」

 

「いや?ここにあったから貰った」

 

 誘拐だけに飽き足らず窃盗にまで手を染めた犯罪者が目の前にいますと叫びたいぐらいだが、もう殴られたくないので黙ってリンゴに口をつける。五臓六腑に染み渡るほどうまい。

 

「で?俺どこに連れてかれてんの?」

 

「そういえば言ってなかったな。これから行くのはあたしが生まれ育った武の都【ロンシャ王国】だ」

 

 お互いにリンゴを齧りながら一番気になっていた事を聞いてみると知らない国の名前が出てきた。

 

「それってどこにあんの?」

 

「クエス王国からなら、馬車を乗り継いで行ってニヶ月ぐらいってとこかな」

 

「遠っっ!!ていうかクゥは?キーラは?一緒じゃないの?」

 

「興味あるなら追いかけて来いって手紙置いてきたから大丈夫だろ」

 

「一緒でよかったじゃん!」

 

「だってコウイチのこと誘っても絶対断ると思ったから」

 

 変な所で勘のいいやつである。

 

「安心しろコウイチ。ロンシャ王国に来ればお前も立派な武闘家になれるから」

 

「なりたくねーよ!」

 

 俺の意志に反して、馬車は着々とロンシャ王国に向けて歩みを進めていく。

 

 ────ロンシャ王国到着まで、あと57日。

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