降り立った街ごとで逃げ出そうとするもいつの間にか意識を刈り取られ気が付けば馬車の荷台というシチュエーションを繰り返すこと約一ヶ月、もう逃げようと考えるのも諦め始めた頃。今、俺とスイレンはロンシャ王国に入ってすぐの国境付近にあるカカマオという町の宿屋にいた。
「それにしたって暑いな」
「そうか?あたしにとってはまだ涼しいぐらいのもんだけど」
肌を刺すようなジリジリとした熱光線と何もせずとも喉が乾く乾燥した空気に包まれているこの街はキャラメル色の砂漠に囲まれている。
「ここからロンシャ王国へは歩いてしか行けないから覚悟しとけよ。今日はここでゆっくり休んで準備を整えるから」
今さらっと死刑宣告された気がするんだけど。この草すら生えそうにない不毛の土地を歩いて行くって?冗談ですよね?
「なんならまた気絶させて担いで行ってやろうか?」
「人を簡単に気絶させようとするのやめなさい!」
自然と物騒な発言をするスイレンを見ているとため息も出るというもの。
「もういいよ、どうせ行くんだし。とりあえず飯でも食いに行こう」
「お、いいな!行こう行こう。コウイチの奢りで」
「お前が一文無しだからだろうが」
急に誘拐されたとはいえ手元にいくらかのお金を持っていたのは唯一の救いだった。おかげで砂漠のど真ん中で野宿せずにすんだ。
スイレンを連れて外へ出ると室内と違い太陽の眩しさが一段ときつく感じる。スイレンのオススメの店があるらしいのでそこへ向かって歩き出すとクエス王国とはまるで違う町並みに異国の地へ来たのだなという思いがより強くなる。
クエス王国を英国とするなら、ここはエジプトと言ったところか白いレンガの街並みが印象的だったクエス王国と違い砂漠の色と似ている茶色いレンガで造られた建物が並び、そこら中にある屋台らしき店は屋根代わりに特徴的な模様が施された大きな絨毯のような布が掛けられている。風が吹けば砂埃が舞い、舗装された道路などはない。
「着いたぞここだ」
周囲を見ながらスイレンについて行くと、彼女は一つの建物の前で立ち止まった。
「ここのランチは絶品だぞ!期待しとけ!」
「俺の金だけどな」
俺の嫌味は耳に入らないらしく、何の反応もなく店内に入っていく。
「大将久しぶり!」
「おお!お嬢久しぶりだな!」
スイレンが店に入りながら大声で呼ぶと、丁度皿を運んでいた髭をたくわえた男が返事をする。
ていうかお嬢って何?
「ランチセット二つね!」
「あいよ!ちょいと待っててくれよ」
そう言いながら厨房があるらしき裏へと入って行く大将を見送ると手近な席に着くスイレンを見て俺も同じテーブルに着く。
店内を見ると、今いる客は俺たちだけらしい。この町に着いたのもつい先程のことだし、宿を探しているうちにランチと言うには少しばかり遅い時間になってしまったからだろう。
「はいおまち。特性ランチ二人前」
スイレンとロンシャ王国に向かう行程を確認しながら待っていると大将が自ら料理を持ってきてくれた。
「いっただっきまーす!」
むしゃむしゃと料理にがっつくスイレンを尻目に、出された料理に口をつける。
「ん!うまい!」
出された料理は米らしき穀物を細かく刻んだ野菜とスパイスで炒めたシンプルな見た目の料理だったが、穀物の味も米に近く久しぶりに懐かしい味を食べた気がして感動した。
「そう言ってもらえると嬉しいねぇ」
俺の反応を見て大将も満足そうに頷いている。
「お嬢、ちょっといいかい?」
「どした?」
大将の料理を堪能した後、食休みも兼ねて一息ついていると、神妙な面持ちで大将が話しかけてきた。
「さっきちらっと聞いたが、今ロンシャ王国に帰るつもりなら、やめといたほうがいいぜ」
「何で?」
大将は言い辛さからか少し間を置いて口を開く。
「ロンシャ王国内は今、内戦状態にあるらしいんだよ」
「「内戦!?」」
どうもまた話がややこしくなりそうである。