「内乱といってもまだ小競り合いってとこで、激化はしてないみたいだけどな」
「内乱って、何でそんなことになってんだよ!?」
スイレンは声を荒げて大将を問い詰める。
「俺も見てきたわけじないから詳しくは知らないが、どうも国王に反旗を翻した組があるらしいんだ」
「どこの組だよ?まさかクソ親父か?」
まくし立てるように話すスイレンに気圧されて、大将は上体を反らして慌てて訂正する。
「違う違う!カエン組じゃないよ!」
「あの、ちょっといいか?組がどうとかカエンじゃないとか話に付いていけないんだけど...」
スイレンもヒートアップしてきているので落ち着かせるためにも話に入って行くことにする。
「あぁ、コウイチにはまだロンシャ王国の詳しい説明してなかったな」
俺に話しかけられて我に帰ったスイレンが大将に一言誤った後、ロンシャ王国について話し始めた。
「ロンシャ王国は、武と任侠の国だ。言ってしまえば強い奴が偉い、この一言に尽きる。国王を表のトップとしてその下で裏社会を支配している組がいくつか存在する。あたしの家もその一つだ」
「それがカエン組ってとこか?」
「そう。あたしのフルネームは カエン・スイレンっていうんだ」
だからお嬢なんて言われてるわけか。
「なんとなく理解できたよ」
「それで、どこの馬鹿が内乱なんて引き起こしたんだよ?」
スイレンは俺への説明が終わると、改まって大将に向き直り聞き直す。なぜか嬉しそうな顔をしているのは俺の見間違いだろうか?
「それが、最近力を付けてきてるロメロス組ってとこらしいんだ」
「聞いたことないとこだな」
大将からロメロスという名前を聞いて考え込むように俯くと、急に立ち上がって俺の手を取ると、
「考えてても分かんねえから今からすぐ向かうぞ」
「は!?今から!?一ヶ月かかるんだろ?」
「もっと早く行く方法もある。いいから付いて来い」
「ちょちょっ!」
急いで出て行こうとするスイレンを止めて、大将にお金を払ってから店を出る。
「それにしたって、どうやってロンシャ王国に行くつもりなんだよ」
俺の手を引いたまま無言で歩みを進めるスイレンに質問する。
「
「サントラって、何?」
「見れば分かるよ」
一旦宿屋に戻って荷物を取ってから露店で軽い買い物を済ませてカカマオの町を出ると、砂漠をずんずん進んで行くスイレン。そんな彼女の後を付いて行くことしばらく、急に立ち止まったスイレンが周りを見渡しはじめた。
「どうした?」
「しっ、来るぞ」
スイレンのその言葉の直後、少し離れた所の砂丘から何かが飛び出してきて砂埃が舞うと俺たちの近くに大きな影がドスンと音を立てて落ちてきた。
「ガルルルゥ」
鋭く尖った牙をむき出して威嚇の声を出すそれは、まさに虎だった。今まで見たことがある虎と違いがあるとすれば、大きさは倍以上あり、体の模様も砂漠に合わせた保護色なのか砂色だが所々に色の濃い縞模様も付いている所だが、外見は虎である以上あれがスイレンの言っていた砂塵虎なのだろう。
「あれ、やばくないですかスイレンさん?」
「大丈夫だからコウイチはあたしの後ろに隠れてろ」
のそりのそりと距離を測るように俺たちの周りを回る砂塵虎と、それに合わせて常に砂塵虎と正面の位置を取り続けるスイレン。
勝負は一瞬で決まった。
先に仕掛けたのは砂塵虎の方だった。少し屈んだと思った次の瞬間、猛スピードでこちらに飛び掛かってくる。
「はっ!」
瞬時に反応し砂塵虎の飛びつきに合わせたスイレンは砂塵虎の横っ面に蹴りを入れると、砂塵虎は体勢を崩しながらも体を捻って地面にふわりと着地する。
着地した砂塵虎が顔を上げると視界にはコウイチの姿しか入らなかった。今戦っていたスイレンの姿を探すため首を振ったほんの一瞬、その一瞬の隙を突いて上に飛んでいたスイレンが回転しながら砂塵虎に落下する。
『雪崩』!!
「ブニャ!?」
脳天に上から落ちてくる勢いのついたかかと落としをくらって、砂塵虎はその場で倒れてしまった。
「す、すげぇ」
一部始終を見ていた俺は詠嘆の声を漏らしてしまう。
「こいつは自分より強い奴にしか懐かない動物なんだ。だから一回しばけば言う事聞くようになる。こいつが起きたら乗って行こう。この大きさの砂塵虎ならロンシャ王国には三日もあれば着くだろ」
話しながら砂塵虎の横に座り込んで、もたれかかるスイレンは端から見れば蛮族の女王とかの類いにしか見えないな。
数分後、意識を取り戻した砂塵虎はさっきまでの態度が嘘のようにスイレンに擦り寄って懐いており、その巨体の背中に俺とスイレンを軽々と乗せて砂漠を駆け出したのだが...
「早い早い!落ちるって!」
「この早さで落ちたら無事じゃ済まないから、あたしにしっかり捕まるんだぞー。内乱なんて楽しそうなことやってんなら参加しない手は無いからな!」
結局こいつ誰かと戦いたいだけの戦闘狂じゃねーか。店で見せた笑顔は見間違いじゃなかったようだ。
早い。それもとんでもなく。
スイレンが歩いて一ヶ月の行程を三日と言うのも納得するほどであるが、景色を楽しむ余裕すらない(どうせ周りは砂漠だから景色も何もないのだが)スイレンの腰にがっしりとしがみついて目を閉じる。
夜が来たら野宿をして、また朝がきたら砂塵虎に乗って砂漠を爆走。
そんなこんなで本当に三日後、俺たちはロンシャ王国の王都サランに辿り着いたのだった。