絶対不可避の異世界更生   作:浅葱 沼

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王都サラン

 

「し、死ぬかと思った」

 

 もう二度と乗りたくないと思いながら砂塵虎から降りてロンシャ王国の王都サランの地に降り立つ。

 

「とりあえず、あたしの家に行くとするか」

 

 砂塵虎から降りたスイレンは砂塵虎を労うように撫でてから砂漠に逃すと夜の街を歩き出す。

 時間は夜で、街には一定間隔で置かれた石の台座に薪が焚べられており、暗い街をほんのりと照らしているが少し冷える。

 

「静かだな。内乱が起きてるって聞いたからちょっと身構えてたけど」

 

「いや、静かすぎるぐらいだな」

 

 スイレンの言う通り、静かすぎる街を歩いていると道の向こうからゆらゆらと揺れる火がこちらにやって来る。火が俺たちの前まで来ると、火に照らされた若いながらも風格を感じる眼鏡をかけた強面の男の顔が浮かび上がった。

 

「おいお前ら、夜は危ないから早く家に帰れよ。この辺は俺らカエン組が巡回してるから大丈夫だが」

 

「なんだよシジマ。随分と偉そうな口聞くようになったな?」

 

「ス、スイレンお嬢!?」

 

 シジマと呼ばれた男はスイレンの顔を見ると顔色を変えて驚きを隠せない様子だった。

 

「帰ってきたんですか。何か便りでも送ってくださればお迎えに上がったのに」

 

「急ぎで戻ってきたからな。なんか楽しいことやってるみたいじゃん?」

 

「内乱のことはもう知ってるんですね。なら早速親父に会いに行きましょう」

 

 シジマはそこまで話したところで横にいる俺の方に目をやる。

 

「ところでこちらの方はお嬢の知り合いですか?」

 

「こいつはコウイチ。崩山拳の後継者候補として連れてきたんだ」

 

「いや、ちょっ...」

 

 当然のように俺の意思と反する説明をするスイレンにツッコもうと思った時、予想外に驚いたのはシジマの方だった。

 

「見つかったんですか!?そいつはよかったですね!ではコウイチ殿も是非いらして下さい。大したもてなしもできませんが」

 

 こちらですとシジマに言われるまま彼の後について行く。

 

「あれなんだ?」

 

 道中、スイレンがクエス王国に行くまでの間にあった出来事なんかを面白おかしく話している時のこと、ぽうっと遠くから一際明るい光が発するのが見えた。光の色から炎だというのがなんとなく分かる。

 

「あれは…まさか!?」

 

 俺の言葉で火に気付いたシジマが神妙な面持ちになったのも束の間、先の道の角から何やら慌てた様子の若い男が現れた。

 

「シジマの兄貴、大変です!ササンカ組のアジトがやられました!」

 

「ササリ組長は無事か!?」

 

「それが、まだ部下達と一緒にアジトに取り残されたようで…」

 

「馬鹿野郎!ササンカ組長の命が最優先だろうが!」

 

 短い言葉で部下を叱りつけた後、こちらを向いて「すいませんが少し行ってきます」と言って火が上がっている方に駆け出すシジマをスイレンが呼び止める。

 

「人命救助なら人手は多い方がいいだろ?あたしらも行くぞコウイチ」

 

「今回ばかりはスイレンに同意だな。行こう!」

 

 まだあの燃え上がる火の中に人がいて、何か手伝える事があるというなら危ない事はしたくないなんて言ってられない。

 

「帰ってきて早々すいません。こっちです」

 

 感謝を述べる代わりに軽く頭を下げた後、改めてササンカ組のアジトへと駆け出すシジマの後を追う。

 

 

 

 

「こいつは酷いな」

 

 シジマの言葉通り、現場は凄惨だった。

 

「誰か医者を!」

「何やってんだ!早く水魔法が使える魔法使い呼んでこい!」

「この中にまだいるみたいだぞ!誰か手ぇ貸してくれ!」

 

 ササンカ組のアジトは木製の門をくぐった先にあり、とてつもなく大きな平家で家も木造で、日本家屋を彷彿とさせる障子に似たドアも取り付けられている。こんな状況でなければどこか日本を懐かしむ気持ちにもなっただろうが、今その美しいはずの平家は至る所で火の手が上がっていた。

 

 シジマが近くにいた煤だらけで座り込んでいる男を見つけて声をかける。

 

「ササンカ組長はまだ中にいるのか!?」

 

「そう、みたいです。すいません」

 

 謝る男に「大丈夫だ」と言って肩を叩いて立ち上がる。

 

「まだ中にいるようですね。どうしましょう?」

 

 さっき駆け回っていた男達の話を聞く限り、待っていれば水魔法を使える人が来てくれるかも知れない。しかし、そんなのを待っている時間があるだろうか。

 

「行くしかないだろ!」

 

 俺の思考を遮るようにシジマに返事をしたのはスイレンだった。彼女は近くで建物にバケツで水を掛けていた男達からバケツを半ば奪うようにもらってくると、頭から水を被った。

 

「これならなんもないよりマシだろ」

 

 三人で顔を合わせて頷くと、俺とシジマも水を被ってアジトの中へと踏み込んでいく。

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