絶対不可避の異世界更生   作:浅葱 沼

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夜は明けて

 

「うーん...」

 

 目が醒めると、どうやら布団に寝かされているらしかった。寝ている部屋は、い草に似た匂いのする草か何かで作られた畳が敷かれた和室のような部屋で、開けられた障子の向こうに見える庭先には眩しい日が射し込んでいる。

 

 体を起こしてみる。どこかに異常があるようには感じない。部屋から廊下に出てみるも人の気配も感じない。

 

「ここ、どこだ?」

 

 どこまでも続きそうに感じる長い廊下を歩いていると、突き当りで少し開けた場所に出た。どうやら中庭のようで庭には水の流れを(かたど)るように小石や大きな岩が置かれていた。こういうのは確か、枯山水とか言うんだっけ?

 

「あ...」

 

「ん?」

 

 そんな枯山水の一際大きな岩の上で胡座をかいて目を瞑っている人を見つける。他でもないスイレンだった。

 

「おー、コウイチやっと起きたか」

 

 俺に気付いたスイレンは綺麗に波紋の形に溝を作られた小石の上に豪快に飛び降りたかと思うと踏み荒らしながらこちらに歩いて来る。

 

「お前、それそんなに踏んでいいのか?」

 

「大丈夫だろ。ただの石だし」

 

 俺の心配など気にも留めず話す言葉の節々でざっざと石を踏みつけた後、俺のいる縁側に登って座り込む。

 

「お嬢!?何やってんですか!?」

 

 突然、後ろから声が聞こえてびっくりした。振り返るとシジマが顔を真っ青にしている。

 

「あーあ、おやっさんが大事にしてる庭なのに...。怒られるの俺なんですから勘弁してくださいよ」

 

 シジマは庭の惨状を見て絶望の表情を浮かべながら肩を落とす。

 

「スイレンちゅわーん。おっはよーん」

 

 今度は右の廊下から、随分気の抜けるような猫撫で声が聞こえる。声の方に目をやるとくすんだ紫の髪に作務衣のような服を着た中年男が目尻を下げながら近づいて来た。

 

「おやっさん、おはようございます!」

 

「親父おはよー」

 

 男を見かけるとシジマは頭を下げて挨拶して、スイレンは手を手を振って返事する。

 

「え、スイレンの親父さん!?」

 

 ということは、確かカエン組ってとこの組長だっけか。ヤクザだかマフィアだか知らないけど、そのボスに生きてる内に会うなんて考えもしなかったが、さっきの声を聞く限りただの子煩悩のおっさんにしか見えんな。

 

「君がコウイチくんか、娘から話は聞いたよ。わしはカエン・オニバスだ。随分煙を吸って気を失ってたようだが、もう大丈夫そうか?」

 

「あ、どうも。わざわざすいません。布団まで借りちゃったみたいで」

 

 感謝も込めて頭を下げると、「かまわんかまわん」と笑って返事をしながら庭を見るとスイレンが踏んだせいで綺麗に整備された枯山水の一部が荒れているのを見つけてしまう。

 

「わしの自慢の庭が!?誰だこんなことしたのは!?」

 

「あ、ごめん。あたし」

 

 悪びれもしない様子でスイレンが返事をする。

 

「スイレンちゃん...この庭作るの大変なんだよ?いいだけど...いいんだけどね?」

 

「おやっさん、後で若い衆に元に戻すよう言っておきますから、気を落とさず」

 

 荒れた庭を悲しい目をして見ながら愛娘に強く言えないのか、もごもごとした口調になっているオニバスに、シジマが心配そうに声をかけている。

 

「そんなことより飯食おう!飯!コウイチも起きたし腹減っただろ」

 

 呑気な調子で立ち上がって廊下を歩き出すスイレンの後について行くと、後ろからしゅんとした表情で付いてくるオニバスとそれに付き添って歩くシジマ。

 

 どうやらこいつ(スイレン)に振り回されてるのは俺だけではないようで少し安心してしまった。

 

 

 スイレンの向かった先は随分と大きな広間で、四十畳はありそうな広々とした空間の真ん中に、数十人は座れそうな脚の短い長テーブルが置かれている。

 

「よっこいしょっと。コウイチもこっち座れ」

 

 手近な場所に座り込んだスイレンに呼ばれるまま、彼女の横に座る。オニバスは床の間を背負う形で、シジマは俺達が各々席に着くのを確認すると部屋を出て行って閉まった。

 

 

「失礼します」

 

 シジマが出てから数分もしないうちに、声と共に広間の襖が開けられて数人の女性は表れた。彼女達は各自お盆の上に食器を載せており、座っている人の近くに寄ったかと思うと、机に食事を並べ出す。

 

「では食べるとしようか」

 

「いっただっきまーす」

 

「…いただきます」

 

 女性達が配膳を終えて部屋を出て行ったのを確認すると、オニバスの一声でスイレンが食事にがっつき始めたので、俺も続いて箸を取る。

 

 出された食事は日本食に似た見た目で、おかずも三品ほどあり見事に一汁三菜の形になっていて、随分と懐かしい見た目なので内心期待しながら口に運ぶ。

 

 うん、めちゃくちゃ美味い。味も濃すぎず薄すぎず自然と箸が進む。

 

 

「ところでスイレンちゃん。今日はどうするんだい?」

 

 食事に舌鼓を打っているとオニバスがスイレンに問いかける。

 

「ん、今日はヨン老師のとこにコウイチを連れてくつもりだよ」

 

「そうか、せっかく帰ってきたんだから、もうちょっとゆっくりしてもいいんじゃないか?」

 

「親父があたしと一緒にいたいだけだろ?ヤダ」

 

「そ、そっか…」

 

 ばっさりと振られて先程よりしょぼくれた顔をしているオニバスが少し不憫に思えてしまう。…

 

 ところでスイレンがユン老師って言ってたけど、誰なんだろその人?なんだか訳も分からないまま話がどんどん進んでいる気がする。

 

 俺の考えを読んだのか、スイレンがこちらに振り向いて笑いかける。

 

「コウイチ、今日から楽しくなるぞ」

 

 分からない事だらけだが、こいつが楽しいと言ってる事は俺にとっては楽しくないということだけは分かる。

 

 その予想は見事的中するわけなのだが...

 

 

 

 

 

 

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