「お前んとこのちっこい流派の名前なんて聞いたことねーなぁ!健康のために始めたのか?」
がっしりとした筋肉質で体格の大きい男が語気を強めて話す。
「言ってくれるじゃねーか!有名だから強いって勘違いしてるお前みたいなやつ見てると笑っちまうぜ」
すらりとした体格の細い男は嘲笑うように返す。
睨み合っている二人は、お互いに啖呵を切ったかと思うと明らかに素人とは思えない構えをとる。
「いいねぇいいねぇ。見とけよコウイチ。今から始まるのが武術を修めた者同士のガチ喧嘩だ」
スイレンの言葉に合わせるように男たちはお互いに飛びかかる。
「オラァ!」
体格の大きい方が振り下ろす拳は、細い男が体を反らして避けたことで地面に突き刺さると鉄球でも落ちてきたかのように地面を抉る。それは、つい最近見たカリムの拳の破壊力に匹敵するほどなのに、速さはカリムの比ではなかった。それを避けた細い男も良い眼と度胸を持っているのだと思うが、それにしても大きい男の拳の破壊力が目に付いてしまう。
「コウイチはどっちが勝つと思う?」
その様子を見て、スイレンがニコニコ笑いながら訊いてくる。
「そりゃあ、あのパンチ見たら細い方のやつが不利なんじゃないか?」
重量で考えれば明らかに階級が違う。体術だけの接近戦なら重量はそのまま強さに変換されるのだから。
「あたしはその細い方が勝つと思うぞ。まぁ見とけ」
何か確信があるのか、スイレンはさらりと言い切ってしまう。
地面を叩きつけて舞い上がった土埃が晴れ、男達は再び構えをとる。
「避けてるだけじゃ勝てねーぞ?」
大きい方が肩を回しながら歩き、相手との距離を縮める。次々と振り抜く素早く重い拳を紙一重で躱され続け、フラストレーションが溜まっていき腕の振りはどんどん大きくなっていく。
決着は一瞬だった。
大きい男が痺れを切らし、一際大振りになった拳を細い男がひらりと避けたかと思うと、振り抜いた腕に自分の腕を巻きつけて関節を極めることで動きを封じると同時にしゃがみ込む。
関節を極められていることで、細い男の動きに合わせるように大きい男の体勢も低くなる。
大きい男がしゃがみ込むのを確認した瞬間、細い男が起き上がり関節を極めたまま腕を上に振り上げて後ろに回すと、大きい男は重さが無くなったかのように宙に浮き、背中から地面に勢いよく叩きつけられる。
「がっ!?」
受け身も取れず地面に激突した大きい男は息苦しそうに声を上げるが腕が離された事で自由になったのですぐさま起き上がるが、細い男にすぐに距離を詰められ懐に潜られる。
「ぐぅっ!」
大きい男が呼吸が困難になりつつもなんとか放った拳は相手に届くより先に自分の顎に肘鉄を入れられた事で力無く空を切る。
ドサリという音と共に大きい男は膝から地面に倒れ込み勝負は決した。
「おおー!」
「かーっ!負けたかー」
「なかなか面白かったぞー」
「兄ちゃんも中々やるな!」
周りで見ていた男達は各々自分の感想を述べながら大きい男を担いで細い男と店の中に戻っていった。店の前はまるで何も起きていなかったかのように人気が無くなる。
「な!細い方が勝っただろ?」
それ見た事かと何故か鼻を高くしながら話すスイレンだが、
「いや、確かにそうだけど何今の!?みんなあっさりしすぎじゃない!?」
あんなに本気の喧嘩が起きていたというのに笑いながら店に戻っていく男達には違和感しか感じない。
「あんな喧嘩はこの街じゃ日常茶飯事だからな」
「あんなのが日常茶飯事って…」
「喧嘩と啖呵はロンシャの華って言うからな。ビビりのコウイチに見て欲しかったんだ」
「これ見て俺にどうしろって言うんだよ」
「これから『崩山拳』を習得するまでこの街で暮らすんだからああいうことに巻き込まれることを覚悟しとけよって話だ」
「覚悟でどうこうできる話じゃなくない?」
俺の返事に笑いながら歩き出すスイレンの姿を見ながら、もし喧嘩に巻き込まれたら回れ右してダッシュで逃げようと固く決心した。