ヨンにお前もやれと言われるまま、不本意ながらクレナに祈りを捧げた後、いよいよ『崩山拳』の修行が始まろうとしていたが、
「せっかくじゃし、スイレンもたるんどらんかチェックせんとな」
とのことなので散歩という名の逃走をしたスイレンが帰ってくることを待つことになった。
「そういえば俺はあんまり知らないんだけど、スイレンの実家のカエン組ってこの国じゃすごいとこなのか?」
ただ待っているだけも暇なので、時間潰しにヨンに質問をしてみることにする。その質問にヨンは、「ほんとになんも知らん奴じゃな」という顔をしながらも答えてくれる。
「カエン組はロンシャ王国の中で名実ともに一番の組じゃな。現ロンシャ国王のバルクラヤが元カエン組の組長じゃしな」
「え!?じゃあスイレンって国王と親戚かなんかだったりするの?」
「いや、血は繋がっていない。バルクラヤがカエン組の組長だった時の右腕がオニバスだったんじゃ。バルクラヤが国王になった事で空位になった組長の座にオニバスが入った形じゃな」
「じゃあ、そのバルクラヤ様ってのは元々王族だったのにヤクザなんかやってたのか?」
俺の問いはどうやら的を射ていなかったらしく、溜息混じりに回答が返ってくる。
「いいかコウイチ。この国がどういう国か忘れたか?」
「どういう国って、さっき言ってた武と義に重きを置く国ってやつか?」
「そうじゃ。この国は強い奴が偉い。これは絶対不変じゃ。それの意味するところは、いくら国王の血族だろうと弱ければ国王にはなれんという事じゃ」
それって、国として大丈夫なのか不安になるんだけど。
「心配になるのも分かるがそれなら大丈夫じゃ。さっき言った通りその規模と実力から、ここ数百年はカエン組の組長が国王に就任しているから安定しておる」
心でも読んだのか、俺の気がかりに答えるようにヨンは話す。
「よいか?この国は強い奴が上に立つ。そのシステム上、もし強い奴が現れたら国王になろうと国王に挑戦しようと思うじゃろ?」
「そうなるな」
「そうなると国王は日々やってくる挑戦者の相手をしなければいけなくなる。そのために裏を仕切るヤクザがいるんじゃ。
トップに国王がいて、その下に各ヤクザがいる。そのヤクザはもし国王に挑戦しようなどと考える輩にまずは俺たちを倒してからにしろといったふうに阻止する訳じゃ。そうすれば国王より弱いヤクザも倒せんようでは話にならんと言えるからの。そうすれば国王も国の運営に集中できるんじゃ。
最近はなにやらヤクザ相手に暴れ回っとるイキのいいのがいるみたいじゃし...」
聞いてみるとなるほど、思ったよりしっかりしてるなと感心してしまう。
「じゃが、バルクラヤのやつは自分で戦いたがっておるじゃろうなぁ」
国王の話をするヨンはどこか楽しそうに見える。
「え、そうなの?」
「そりゃそうじゃろ。自分の腕だけで国王になったんじゃから、この国で一番喧嘩が好きなのはあいつじゃろうな」
「ヨンのじいさんって国王と知り合いなの?」
「知り合いも何も、あいつに『崩山拳』を教えたのはわしじゃからな」
「ヨンのじいさんって実はすごい人なの?」
「当たり前じゃろが!ただの超絶イケメン老人じゃないんじゃぞわしは」
誰もイケメンなんて言ってないが…どうやらただの変な老人ではないことは確からしい。
「あいつは不完全ではあるがクレナ様が持っていたスキルであり、彼女が作った『崩山拳』の奥義でもある『灰燼撃』を使えるからのぉ」
「それすごくね?」
「確かに今まででの『崩山拳』の使い手でも使えたのは数人と聞くしな」
流石に武術家が多くいるこの国のトップにもなる人だけあるんだな。俺が仮にも神であるクレナに貰ったようなスキルを自力で身に付けるなんて。
「そんなに驚かんでもコウイチもそのうち『灰燼撃』を見ることになる」
「え?それってどういう──、」
「ただいまー。話終わったかー?」
ヨンの言葉の真意が分からず、聞こうとしたところでスイレンが帰ってきた。
「話はまた今度じゃな」
手を振りながら戻ってきたスイレンを迎えたヨンは、門の前で俺と「なんであたしまで…」と愚痴るスイレンを横に並べると、
「それじゃあさっそく修行を始めるとするかの、覚悟はいいか?」
自称超絶イケメンの顔に不敵な笑みを浮かべてそう言った。