「じゃあスイレン。コウイチといつもの外周に行ってこい」
ヨンの指示にスイレンは「へーい」と明らかに嫌悪の色を滲ませた返事をしながら俺を連れて門の外へと向かっていく。
「じゃあコウイチは初めてだし、ゆっくり行くからしっかり付いてこいよ」
言葉通りジョギング程度の速さで走り出したスイレンと並走する。
「ところで外周って何周ぐらいするんだ?」
「え?なんだよコウイチ結構やる気あるんだな」
俺の言葉をどう受け取ったのか思っていた反応と違う言葉が返ってくる。確かにここの道場は結構な大きさだけど外周一周程度なら軽い運動程度だろうと思ったから何周か聞いただけなんだが。
「何周でもいけど、まずは一周できるかどうか心配した方がいいぞ」
「え?だってこの建物の周り一周するだけだろ?」
「あははっ、そんなわけないだろ。外周ってのは道場の外周じゃなくて、この王都サランの外周のことだよ」
「はぁ!?この街一周ってどんだけかかるんだよ!」
「このペースで行ってたら日は暮れるだろうな。てことで徐々にペース上げてくからしっかり付いてくるように」
そう言うと、スイレンのペースがグッと上がり隣り合っていた俺との距離が開く。
「待って待って!」
「ちなみに外周してるときは、この間の
話しながらも、どんどん俺との距離を離していくスイレン。死なないためにも体力の温存はやめて全力で走るしかないようだ。照りつける太陽と乾燥した空気で体力はどんどん失われていくのに、このままでは倒れて死ぬか何かに食われて死ぬかの二択である。
そんな絶望を感じながら、『崩山拳』の修行が始まったのだった。
◇◇
「あっっっついわね、ここ」
「で、ですね。頭がクラクラしちゃいます」
ここはロンシャ王国の砂漠に散らばる街の一つ、テサボンにある通りの一角にて、日差しから身を守るための布を頭から体全体にゆったりと巻きつけた服を着たキーラと、同じ服装のはずだが、体の小ささから布が余って側から見ると布のお化けみたいになりながら、ふらふらと今にも倒れそうなクゥの姿がそこにはあった。
「ちゃんとこまめに水飲みなさいよクゥ。倒れちゃうから」
「あ、はい」
キーラから渡された水筒に口をつけてごくごくと喉を潤わせるクゥは、飲み終わった口を拭いながら人で賑わうテサボンの街を眺める。そこには露店が立ち並び、キーラと同じように布を巻いた服を着た人たちが大きなかごを頭の上に抱えて歩いていたり、日陰にあるテーブルに座って談笑したりしている。
「コウイチさん、どこにいるんでしょう?」
そんな人混みの中に誘拐されたコウイチを探しながら呟くクゥ。
「そうね、でもこのロンシャ王国のどこかにはいるみたいだし、とりあえず王都のサランってとこに行くのがいいと思うけど...」
二人はスイレンが騎士団に渡した手紙を読んだ後、大した準備もせずにクエス王国を飛び出したのだが、
「もう、お金もあんまり残ってませんもんね...」
二人の所持金は、ここまでの移動費や食料費などで、ここテサボンの街で底をつきかけていた。
「みんな普通に過ごしてるけど、この国今内乱を起こしてる奴もいるっていうし」
「コウイチさんが巻き込まれてなければいいですが」
二人はコウイチの『絶対不可避』のスキルのことを思い出しながら、しばらく悩んだ後、考え出した結論は同じだった。
「絶対に、巻き込まれるから、その前に捕まえるわよ!」
「絶対に、巻き込まれるので、その前に助けましょう!」
顔を見合わせて頷き合うと、まずは資金問題を解決するために動き出すことにした二人は、仕事を探すためにロンシャ王国の探索者ギルドへと向かうのだった。