絶対不可避の異世界更生   作:浅葱 沼

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途中経過 その3

 

「はぁ──、はぁ──。」

 

 暑い。暑すぎる陽の光のせいで汗は止まらず、その吹きこぼれる汗が口に入ってこようとするのを、口を(すぼ)めて息を吹き出すことで防ぐ。

 

 もう何時間走ったのだろう。代わり映えのしないはずの辺り一面の砂漠の景色は、疲れからか、それとも陽炎のせいか、ぼやけて歪んで見える。

 

「大丈夫かコウイチー」

 

 前を走るスイレンの足取りは、一切の疲れを感じさせず、まるで近所でジョギングでもするかのようである。

 

「大丈夫なわけっ!──、あるかっ!──ぜぇっ」

 

 

 

 

 二人がサランの外周を走り終わり、道場に戻ってきたのは、日もどっぷりと暮れた頃だった。

 

「今日はなんにも出てこなくてよかったな」

 

 そう話すスイレンは一人になれば危険だから頑張ってついて来いと言いながらも、ギリギリのところでコウイチとの距離を離さないように走っていたのだが、コウイチ本人は自分の事で手一杯だったため気付いていないようである。

 

「帰ってきたか。随分かかったのぅ」

 

 塔の中からあくびをしながら出てきたヨンは、地面に倒れこんでいるコウイチを見ながらかかかと笑った。

 実際のところ、ヨンの予想で今日は途中で倒れてスイレンに抱えられて帰ってくると思っていたので、少し驚いていた。

 

「さっき見た時になんとなく分かっていたが、普段から多少は鍛錬を積んどるようじゃが、なにかやっておったのか?」

 

「暇な時は剣の素振りとかしてたよ。一時は山の中で狩りとかしてたから多少は体力あると思うけど」

 

「なるほどの。今日は動けなさそうじゃしここまでにするか。それからコウイチ。今日からここで寝泊まりしていけ。その方が寝ても起きても稽古できるからな」

 

「えっ!?」

 

 疲労は限界を超えて身動きが取れないコウイチは突然の逃さない発言に震える。

 

「この塔はわし一人で住むにはちと持て余すしな、タダで住ませてやるんじゃから感謝せいよ」

 

 なんとも身勝手な言い草に言い返したい所だったが、そんな余力もなく今はもうどうせここに住むならもう寝てしまおうと目を瞑ってしまったコウイチはそのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 ふと目を覚ますと、スイレンかヨンが運んだのか塔の中の一室らしい布団で横になっていた。近くにある木の格子でできた窓から見える空はまだ暗く、月と星の明るさだけが空を覆っていた。

 

「あ、起きた」

 

 近くから声が聞こえた。その声はヨンでもスイレンのものでもなかったが、コウイチはその声を知っている。

 

「なにしに来たんだよ」

 

「そんなこと言うてほんまは会えて嬉しいくせに〜。様子見に来たってんで?」

 

 にやりと笑いながら話かけてくる声の主は、つい先程ヨンが熱心に話していた人物、女神クレナが布団から起き上がった俺の右側の少し離れた所に座り込んでこちらを見ていた。

 

 こいつの姿見たらヨンのじいさん腰抜かすんじゃないかな。仮にも熱心に信仰してる宗教の神だし。

 

「まさかロンシャ王国に来るなんてな、うちも久しぶりに来たわ」

 

 立ち上がったクレナは窓にからサランの街を眺めながらこちらを見もせず話す。その横顔は故郷を見て何か思うことでもあるのか、どこか優しく見える。

 

「で、今日はまた途中経過を見に来たのか?」

 

 俺の言葉にクレナはくるりとこちらに向き直ると、にこりと笑う。

 

「察しが良くて大変よろしい。でも、今日はそれともう一つあんねん」

 

「もう一つ?」

 

「最近、更生も順調に進んでるみたいやし、頑張ってるコウイチにこの女神クレナ様がありがたい助言をしに来てあげたんや」

 

「助言ねぇ。ほんとに役立つのかそれ?」

 

「神様のありがたい助言にケチつけるようなこと言いなや!あんたは黙って有り難く受け取ればええねん!」

 

 そんな押し売りみたいな助言聞いたことないが。まぁここは黙って聞いてやるとしようかと思いながら先を話すように手を出して促す。

 

「コウイチ。どれだけ時間がかかっても、あんたはここで『崩山拳』を習得しなさい。強くなることがこの先のあんたの為になるから」

 

「はぁ?なんで俺が『崩山拳』なんて習得しないとだめなんだよ?」

 

「あんたの魂胆は分かってんで?さっさと自分に才能がないことを認めさせてこの国から出ようとしてるやろ?」

 

 クレナの指摘に驚いて、一瞬言葉が返せなかった。彼女が言ったことは、まさにコウイチが実行しようとしていたことだった。このままでは本当に『崩山拳』を習得するための本格的な修行が始まってしまう。そんなものは望んでいないし、さっさと帰ってキーラとクゥとのんびり薬草採取でもしたかった。

 

「あんたが愛しのキーラとクゥに会いたいのはよう分かるけど、一生会われへんわけちゃうし、しばらくの我慢やな」

 

「いや、別にあいつらに会いたいわけじゃねーし!自分からやりたいとも言ってない『崩山拳』の修行を受けたくないだけだよ!」

 

 あまりにも的確な言葉に照れ隠しで声を大きくしながらも、『崩山拳』の修行は本当にしたくないことを伝える。

 

 そんなコウイチとは対照的に、クレナはいたって真剣な表情で話を続ける。普段からは考えらえない真面目な顔をしたクレナから発せられた予想外の言葉に、コウイチはまた言葉を失うことになる。

 

 

「別に修行を受けへんのはええけど。このままやと、あんた天寿を全うする前に死ぬで?」

 

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