「近いうちに死ぬって、なんでだよ?」
普段のおちゃらけた調子とは違い、真剣に話すクレナに少し圧倒されて聞き返してしまう。
「ほんまはあんたも薄々気づいてるやろ?」
確かに以前からなんとなく自覚はある。
そんな俺の心当たりがあるのを見抜いてか、クレナが話だす。
「問題はコウイチ、あんたの弱さや。プリムと戦った時も、ゼルバートと戦った時も、カリムとの時も、全部が全部ただ運が良かっただけ、あんたの強さで勝てたことなんて一回も無かった、そうやろ?」
クレナの言うことはなにも間違っていない。押し黙る俺を見て、反論してこないのを肯定したとみなしてた話を続ける。
「プリムの時はクゥの支援魔法と相手が油断してたの、そんでもってグレゴリが割り込んできてくれたからだし、ゼルバートの時は惚れ薬を飲ませる機転が利いた所は評価するけど、その場にプリムがいてくれたから実行できただけ、カリムの時に関しては意にも介されてなかったし、スイレンが不意打ちしようと思ってたから助かっただけ。もし、ちゃんと戦わされてたらあんた数秒も持たへんかったやろうし...」
全くもってその通りである。今までの何度かの戦闘で、俺一人で何かを成し遂げたことは一つもない。
「だから俺に『崩山拳』を学べと?」
「そろそろ覚悟決めろってことや。あんたが『絶対不可避』を持ってる限り今までみたいなことに巻き込まれるのは避けられへん。これから先も、今までみたいに運だけでどうにかやっていけるとは思わん方がええってことや。もし、一緒におるキーラやクゥに危害が加わるような事態に巻き込まれた時、なんもできひんかったらどないするん?」
確かに、俺には今ひとつ覚悟が足りていなかったのかもしれない。運だけで助かってきたが、クレナの言うように俺なんかと一緒にいるせいでキーラやクゥに危険が迫った時、なにもできないのは、嫌だ。
「分かった...お前の言う通り覚悟を決める」
その言葉を口にしながら、自分の中で何かが吹っ切れたような気がした。このままじゃだめだ。降りかかってくる火の粉をのらりくらりと避け続けることはできない。振り払う術を覚えなければ。
この
コウイチの顔を見たクレナは満足したように笑みを零すと、
「ほな今日はこれぐらいにして帰るとするわ。次会う時はもっとええ男になってることを期待しとくで」
そう言い残して、景色に溶けるように姿を消してしまった。
窓から見える東の空には、降りていた夜を押し上げるようにほのかに青い空が昇ってきていた。
◇◇
コウイチがヨンの元で修行を始めてから、あっという間に三ヶ月の時が過ぎようとしていた。
「おっすー。おはよー」
まだ外は少し暗い時間、ヨンの道場に軽い調子で入ってきたスイレンは迷わずに台所へと向かう。そこには、美味しそうな匂いを漂わせながら火の様子を見ているコウイチの姿がそこにはあった。
「おお、スイレン。おはよ。もうできるからヨンのじいさんも起こしてきて」
修行が始まってから住んでいるこの道場も、随分と住み慣れたものになりつつある。右から三番目にある戸棚を開けて、調味料を鍋に入れながら少しだけスプーンに取ってスープの味を確かめる。
「うん。今日もうまいな。俺天才」
朝ごはんの出来に満足していると、起きてきたヨンとスイレンをちゃぶ台に座らせて料理を運ぶ。
「う〜ん。やっぱりコウイチの料理は美味いよなー。最近は家の朝ごはん食べずにこっちで食べること増えたし」
「そのせいで食費が
並べられたご飯を満足そうに頬張りながら賑やかな朝食を済ませた後、軽い準備運動をしてからまだ人気の少ないサランの街をスイレンと一緒に走り出す。
「随分走るのも慣れてきたんじゃないかコウイチ?」
「来る日も来る日も外周させられてたら流石に慣れてもらわんと困る」
軽口を挟みながらもスイレンに離されることはなく付いていく。クレナとの話の後、真面目に修行を始めようと思ったはいいものの、ヨンからの修行の内容はただひたすらに外周をすること。だけだった。
それからというもの、最初の一ヶ月は丸一日をかけて外周を一周。二ヶ月目は日が暮れる前に帰ってこれるようになり、三ヶ月目の最近では朝に出て、昼過ぎには帰ってこれるようになっていた。外周以外の時間はただひたすらヨンに命令された家の雑用をこなす日々。
「今日から新しい修行を始めるぞ」
外周を終えて帰ってきたので、昼食の用意でもするかと考えていたらヨンに呼び出されて塔の外の広場にやってくると、軽い感じで外周以外の修行が始まることを告げられた。
「で、なにするんだ?」
ただ走るだけのマラソン選手のような日々から解放され、やっと始まる本格的な修行に少しの期待を覚えながらヨンに訊いてみる。
「とりあえず今からスイレンにお前のことをボコボコにしてもらう。話はそれからじゃ」
修行を楽しみにしていた俺の淡い期待は、一瞬にして絶望に変わったのだった。