「結構奥まで来たわね」
ダンジョンの暗さも、クゥの光球の明るさも変わらないはずだが、長くダンジョン内を探索して心なしか暗さがより一層ましたように感じながらも歩みを進めるキーラ。
「そろそろ反応があった場所です。頑張りましょう!」
しばらく魔法は使わないと思ったクゥは、杖をキューブに戻してポーチにしまったことで空いた両手を体の前に構えてキーラを鼓舞しながら彼女の後ろをトコトコと付いて行く。
「あ、そこの左の部屋です!」
キーラは、後ろから聞こえるクゥの声に従い真っ直ぐ続く道の途中にある部屋の中へと足を向ける。
「ここが?」
部屋へ入ったキーラは首を傾げる。それもそのはず、クゥが言った部屋の中はもぬけの殻で、空間だけを切り抜いて煉瓦で囲っただけのようなその部屋に宝などと呼べるものは見当たらず、静寂の中に土埃だけが舞っているだけだった。
「ここの...はずなんですが...」
何も見当たらない部屋をキーラの背中から顔を覗かせたクゥは尻すぼみに声が小さくなっていく。
「やっぱり私の魔法なんかじゃ当てにならなかったみたいです」
そう話すクゥのただでさえ小さい姿は、萎んだ風船のようにより小さく縮んでいくようにも見えた。
「そ、そんなことないわよ。クゥが言うんだからこの部屋に絶対あるわ!一緒に探してみましょ?」
「......はぃ」
なんとかクゥを励ますために探してみようとは言ってみたものの、どうしたものかと困り果てるキーラ。探すと言っても光球が放つ光で部屋全体は隅まで見える程明るく照らされ、何かを探そうにも何もないことは明白であった。
(でもクゥを悲しませるわけにはいかないし、隠し部屋があったりしないか、
足取り重く壁や地面をペタペタと触って調べるクゥの悲壮感を纏った後ろ姿を見ながら、真剣な眼差しで部屋を調べるキーラ。
「...?これって...」
十分ほどなんの変哲もない壁と格闘していたところ、キーラの目線の高さにある煉瓦の一つに違和感を感じる。
「どうかしましたか?」
キーラの零した呟きに、相変わらずしょんぼりとした顔で振り返るクゥ。
「ここの煉瓦、なんか変なのよ。ていうか」
煉瓦を触りながら話すキーラが煉瓦を少し押してみると、「ガコン!」という音と共に煉瓦が壁の奥へと消えていった。
「やっぱり!クゥ!こっちこっち!」
「ほんとにあったんですか!?」
ほぼ諦めて探していたクゥは、目を開きながらキーラに近寄る。
「ちょっとこの中照らしてみてくれない?」
クゥに頼んで煉瓦一つ分の隙間から光球を覗かせて中に光を入れてみると、確かにそこに空間があることが分かった。
「やっぱり隠し部屋よ!ほんとにあったんだわ!」
「わ、私も見たい!見たいです!」
煉瓦の位置が高いせいで背を伸ばしながらその場で跳ねるクゥの脇の下を持ち煉瓦の奥を見せてあげる。
「ほ、ほんとにあった。よがっだでず〜」
安堵からか涙を流して喜ぶクゥを下ろして頭を撫でてあげる。
「でも安心するのはまだ早いわよクゥ。問題はどうやってこの中に入るかなんだけど...」
煉瓦一つの隙間では、流石に人は通れない。あの煉瓦がキーとなって扉のように開く気配もないので、見つけれたのは偶然と建造物の劣化による物だろう。となると、
「この壁を壊すしかないわね...」
「こ、壊す。ですか?」
「ちょうど試してみたいこともあるし、クゥはちょっと下がってて」
「は、はい!」
壁を破壊するという提案に驚きつつ、後ろに二、三歩下がって様子を伺うクゥを確認して剣を抜くキーラ。
(さて、あんまり派手に壊しすぎると中の宝を傷つけちゃうかもだから威力は抑えめで、でも人は通れる程度の穴を開けるとなると、)
「このぐらいかな...」
その言葉と同時、キーラの剣の刀身が紅く輝き出す。
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「いくわよ。
勢いよく振るった刀身が壁に激突すると同時、ドンという大きな音と共に爆発が起こる。
爆ぜた壁と土埃が落ち着いた頃、さっきまで煉瓦の壁があった場所には大人が屈めば通れそうな程の穴が空いていた。
「す、すごいです!キーラちゃん!」
「クゥに魔法教えてもらっといて正解だったわね」
ロンシャ王国に来るまでの道中、馬車に揺られるだけでは暇だったのでクゥに魔法を教えてもらっていたキーラは、ふんと息を出して自慢げである。
実際のところ、本来なら数ヶ月をかけて習得する魔法をわずか二ヶ月足らずでここまで習得するだけに留まらず、威力に調整をしながら剣に纏わせるまでの発展を見せるのはキーラの天賦の才によるものであり、クゥも素直に驚いていた。
「さ、宝をいただいて王都に向かいましょ」
涼しげな顔をしながら隠し部屋へと入って行くキーラの後ろ姿を見ながら、自分も頑張らねばと気合を入れるクゥだった。