隠し部屋への抜け穴を通り中に入ったキーラとクゥの二人は、光球の明かりを頼りに部屋を捜索し始める。
「これ、なんでしょう?」
始めてすぐ、クゥが部屋の奥にあった台座の上に置かれているのを発見した。それはどうやら
杯は楕円形を半分に切ったような形に足を付けた様な形をしており、大きさは人が飲むには少し大きすぎるようで、クゥが手に持つと少し抱えるようになってしまうほどである。しかし、その全体は錆のような汚れで覆われて黒ずんでおり、宝とは言い難い代物だった。
「これは...宝なのかしら?」
クゥの持つ杯を見たキーラも疑問の言葉を呟く。
「と、とりあえず持って帰りましょうか」
クゥは怪しみつつもポーチの中へ杯をしまうと、他にも何かないか部屋の中をまた物色し始める。
「...何もないわね」
「...ですね」
しばらく部屋を物色してみたものの、杯以外のものは見当たらず思わずため息が漏れてしまう二人。
「ま、まぁもっと奥に行けば何かあるかもだし、さっきのが見つかっただけでも良しとしましょ?」
「そうですね。先に行きましょうか」
二人がダンジョンに入ってから数時間が経過した中、見つかったのがガラクタにしか見えない杯だったため、どっと疲労感が出てきたが、まだ見ぬ宝を見つけるため再び『果報』と『探知』を発動し反応があった方へと歩み始めるのだった。
◇◇
「ちょっと、何よこれ!」
しばらくダンジョンの奥へと歩いた後、少し開けた場所で二人が目にしたのは傷だらけの半裸の男が四人、地面に突っ伏している惨状だった。
「大丈夫ですか!?」
「あ、うぅ…」
「ひどい怪我…」
「こっちもよ。でもみんな息はあるみたい!クゥお願い!」
「はい!すぐ治します!」
なんとか一命を取り留めている負傷者達にすぐさま治癒魔法をかけて回ることで最悪の結果には至らなかった。
「ほ、ほんとに治ってる」
「助かったー」
「助かったよ。君たちが来なければどうなっていたか」
傷を治してもらったことで安堵の声を漏らす男達の中で、一際ひどい怪我をしていた男が感謝を述べた。
「俺はバン。ロンシャの男として、この恩は必ず返す。本当にありがとう」
「そんなそんな!頭を上げてください!ほんとに大した事はしてませんから!」
座ったままとはいえ、いかにも屈強そうな男が地面に付くほど深々と頭を下げたことにクゥは戸惑う。
「でもなんであんた達こんなところで倒れてたわけ?」
キーラの質問を聞いたバンは、顔をハッとさせて近くに落ちていた自分のものらしき槍を拾って他の男達に目配せすると、突然慌ただしく動き始めた男達。
「ちょっと、どうしたのよ急に」
「君たちも早くここを離れたほうがいい、ここは危険だ」
「危険って何がよ?」
「説明は後で、とにかくダンジョンの出口へ急がないと...」
「急がないとどうしたのかなー?」
バンがキーラ達を連れてこの場を後にしようとしたその時、ダンジョンの奥へと続く通路から妙に語尾を伸ばした口調の声が聞こえた。
「ラキズンッ!」
「おやー?殺したと思ってたのに、随分元気になってるねー?」
通路の影の中から頭をかがめて出てきたバンがラキズンと呼ぶその大男は、薄ら笑いを浮かべながらバンの前に立つ。その大きさはキーラよりも大きいバンが小さく見えるほど大きい。
「ダンジョンなんて探索するの面倒臭くなったから先に戻ってきてみれば、おかしなことになってるねー」
「そいつがあんた達をあんな目に合わせたの?」
「おやー?おやおやー?」
キーラの声を聞いたラキズンが、バンの頭の上から目を見開いて彼女の姿を捉える。そのなんとも言えない不気味な表情にキーラは身の毛がよだつ感じがして二、三歩後ろに下がる。
「さっきはいなかった女がいるねー。しかも二人も」
クゥの存在にも気付いたラキズンが首を回して彼女を見ると、クゥは短い悲鳴を上げてキーラの後ろに隠れる。
「なんなのよあんた!」
キーラの怒声にラキズンは「おっと失礼ー」と言って自己紹介を始める。
「俺は次期国王ロメロス様の部下のラキズンだよー。よろしくねー。いやー、それにしてもツイてるなー。あるかも分からないお宝を探すより、女を捕まえたほうがよっぽど確実に金になるしー。一人は小さすぎるかもだけど、それはそれでマニアが買うだろうしねー」
ラキズンはそう言うと、おもむろに片足を上げて構え始めた。
「どうやら相当ヤバイ奴なのは分かったわ」
槍を構えたバン達と共に剣を抜いて迎撃する構えを取るキーラと、後ろで杖を展開するクゥ。
薄暗いダンジョンの中で、戦闘が始まろうとしていた。