「ふむ、これは...」
時は戻り、コウイチが殺気感知の修行を始めてから一ヶ月の時が経とうという頃、ヨンはコウイチの成長に目を見開いていた。
「はっ!」
「あぶねっ!そこか!」
今、ヨンの前では素早い動きでコウイチを翻弄しながら次々と攻撃を繰り出すスイレンの姿がある。ほんの一ヶ月前までは、どこから飛んでくるかも分からない攻撃にただ防御を固めるだけだったコウイチだが、今では確実にどこから狙われているか把握し、しっかりと攻撃に合わせてガードをした後、反撃にまで打って出ている。
元より適性があるのは理解していたヨンだが、それでも殺気感知を習得するにはもっと時間が掛かると踏んでいた。しかし、今のコウイチを見る限り彼はほぼ完全に殺気感知を習得しかけている。
「そこまで!」
ヨンの一声で二人の動きはぴたりと止まる。
「なんだよヨンのじいさん。今いいとこだったのに」
「そうだよじいちゃん。最近のコウイチいい感じじゃん」
急に止められたことに不満を漏らすコウイチとスイレン。
「口の利き方がなっとらんから拳骨を入れたいところじゃが、もう何時間やっとると思っとるんじゃ。さっさと晩飯の支度してくれんとわしが飢え死にしてしまうわい」
ヨンの言葉で、コウイチとスイレンは夕日もとっくに沈むほど暗い時間になっていることに気付く。
「ほんとだ。もうそんな時間か」
「言われてみればお腹減ったな。コウイチの料理早く食べたい!」
時間の経過に気付いたことで自分の疲れを感じた二人は少し重い足取りで塔へと歩き出す。
「それにしてもコウイチあっという間に殺気感知習得しちゃったよなー」
「普通はもっと時間掛かるもんなのか?」
「そりゃそうだよ!コウイチに武術適正があるとはいえ、この速さは中々のもんだぞ!なんかあったの?」
コウイチの急成長に驚きを隠さないスイレンの言葉に、コウイチ自身も自己分析も兼ねて考えてみる。
「元々、興味があるものはとことんやり込んじゃう人間だったけど、案外やってみたら武術の修行って結構楽しかったんだろうな」
きっかけこそクレナの言葉だったが、実際コウイチは修行を始めてから寝食以外の時間はほとんど全てを武術に使っていた。ヨンとスイレンによる稽古が終わった後の一人の時間もイメージトレーニングやその日にやった組手の反省をするほどである。
「ふーん。まぁなんにせよ、あたしとしては初めはイヤイヤやってたコウイチがやる気になってくれたのは嬉しいけどな」
そんな会話をしながら塔に戻り、お互いに風呂に入ってからヨンと共に食卓についた。
「そういえば、最近ロメロスの話って聞かないけどどうなったんだ?」
外周をする時に外に出る以外、道場に籠りっきりのコウイチは食事中の雑談がてらスイレンに聞いてみた。
「うーん。それなんだけど、あんまり派手には動き回ってないみたいだな。サランで起こった事件もコウイチが来た時にあった一件だけだし、他の街でも時々ロメロスの部下を名乗る奴が組を襲撃したりしてるみたいだけど、ロメロス自身は現れてないみたい」
「じゃあまだ捕まってないのか」
ロメロスと初めて会った時の事を思い出しながら食事を口に運ぶコウイチ。
「いろんな組が潰されてロンシャ王国のヤクザ達は血眼で追ってるらしいけど、中々足取りが掴めなくて親父達も参ってるみたいだよ」
スイレンの親父達というとカエン組の人たちの事だろう。ロンシャ王国一のヤクザが総動員で探しても見つからないとなると、捕まるのはまだ時間がかかりそうだな。
「あ!そう言えば...」
机をばんと叩いて何かを思い出したかのような声を漏らすスイレン。
「どうしたんだよ急に大声出して」
「ごめんごめん。一つ思い出してさ。ロメロスの部下達にヤクザの組が次々壊されていく中、テサボンの街は唯一ロメロスの部下を追っ払ったっていうらしいんだよ」
「へー。そのテサボンには強い人がいたのか?」
「いや。テサボンはそんなに大きな街じゃないし、いる連中もサランに比べれば大したことない」
「じゃあなんで追っ払えたんだよ?」
「なんでも、異国の地から来た二人組が大立ち回りしたらしいんだよ。しかもその二人、女らしいんだ。同じ女として鼻が高い話だから印象に残ってたんだよなー」
「なるほどね」
スイレンの話を聞いてコウイチは料理を口に放り込みながら、こんな国に来る女なんてとんでもなく腕に自信があるような奴等なんだろうなぁと勝手なイメージを膨らませる。
それと同時に、女二人組と聞いてキーラとクゥの事を思い出していた。
二人は今どうしてんだろうなぁ。早いとこ『崩山拳』を覚えて強くなって二人のところに帰りたいもんだ。コルト亭のご飯だってしばらく食べてないし、なんだかホームシックの気分だな。
コウイチがキーラとクゥに再会するのはまだまだ先のことである。