絶対不可避の異世界更生   作:浅葱 沼

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vs.バルクラヤ

 

「なぁ、あの人本気で言ってんのか?」

 

 後ろにいるスイレンに否定してほしい気持ちを込めながら話しかけてみるが、

 

「うーん。まぁ、死なない程度には加減してくれると思うから...頑張れ!」

 

 なんの解決にもなっていない返事だけが返ってきたのでバルクラヤに向き直る。

 

「まずはコウイチから来ていいぞ!思いっきり打ってこい!」

 

 俺の気持ちなど一切感じていないバルクラヤは、依然両手を広げて俺を待っている。最後の希望を求めてバルクラヤの後ろにいるヤクモとスメラギにも視線を送ってみるも、二人も「もう諦めろ」とでも言いたそうな顔で首を横に振るばかりである。

 

「どいつもこいつも当てになんねぇ...」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「いや、なんでもないです。じゃあ......行きます!」

 

 これ以上バルクラヤを待たせる訳にもいかないので、覚悟を決めて走り出す。

 

 いきなりのことで動揺はしたが、この数ヶ月間スイレンとしか戦っていなかったので自分がどの程度成長したのか試したい気持ちも無くは無かった。こうなったら胸を借りるつもりで思いっきりやってみよう。

 

 コウイチが駆け出した瞬間、その踏み込みの速さにバルクラヤとヤクモ、スメラギもが驚いた。

 

 ロンシャ王国に来てからの四ヶ月間、毎日のように走りにくい砂漠を走り込んだコウイチの脚力は別人のように成長しており、十メートルは離れていたバルクラヤとの距離を一瞬にしてゼロにまで詰め寄った。

 

 素早く距離を詰めたコウイチに対し、バルクラヤは未だ両手を広げたまま動こうとしない。

 

(動かないつもりか?殺気も感じないから打ってくる気配もない。なら、お言葉に甘えて打たせて貰うまで!)

 

山颪(やまおろし)』!!

 

 深く踏み込んだことによりバルクラヤよりも低い位置から放たれたコウイチの拳は、下から突き上げるようにバルクラヤの腹部に直撃する。

 

「ん〜、『山颪』まで使えるとは驚いたぞ!ヨン先生が教えているだけはあるな!」

 

 コウイチ渾身の一撃を真正面から受けたはずのバルクラヤは、その場から身じろぎもせず、拳を腹に止められたコウイチを見下ろしながら満足そうに賞賛の言葉を送る。

 

 一方、打ち込んだ側のコウイチはバルクラヤの体を見ながら目を見開いていた。

 

(どんな体してんだよこのおっさん。岩にでも打ち込んだみたいに固いぞ)

 

「さぁて、今度はこっちからかな?」

 

 バルクラヤの言葉で、すぐさま後ろに飛び退いてバルクラヤとの距離を取るコウイチにバルクラヤは悠然と動き始める。

 

「一発で終わるなんてのはやめてくれ?まだまだ楽しみは始まったばかりだからな」

 

 そう話しながらこちらに近づいてくるバルクラヤの右手から殺気が漏れている事にいち早く気付いたコウイチはすぐさま身構える。

 

「ほっ!」

 

 コウイチに手が届く距離まで近付いたバルクラヤが放った右の拳は来ることが分かっていても反応するのがギリギリになってしまう程の速さでコウイチ向かって飛んできた。

 

 しかし、だだ漏れの殺気のおかげで身構えていたコウイチは飛んでくる拳を横から腕で弾くことで受け流しに成功するもバルクラヤの攻撃の早さに反応が一瞬遅れたことで拳が頬を掠める。しかし、それに臆することなくすぐさまカウンターの体勢をとる。

 

「やった!」

 

 その様子を見ていたスイレンから喜びの声が漏れる。

 

 この一ヶ月、毎日のようにスイレンからの雨のような攻撃を浴び続けたコウイチは、殺気感知も物にするだけでなく、攻撃を受け流し反撃する技術も凄まじい速度で向上させていた。それが自分以外にも通じている所を目の当たりにし、修行を共にした仲としては感じるものが彼女にはあった。

 

山翡翠(やませみ)』!

 

 拳を弾いた左腕と連動させて体を開く形で右腕を引いて溜めを作り放ったコウイチがの拳はアッパー気味の放つ『山颪』と異なり、真っ直ぐで鋭く相手に向かって最短距離を走る一撃だった。

 

「やりおる!...むっ!?」

 

 コウイチがカウンターに転じるのを察知したバルクラヤは、今回は引いて躱そうと体を動かそうとしたその時、自分の体が謎の硬直により動けなくなったことに気付く。

 

 気付いた時にはもうすでに遅く、無防備な状態のバルクラヤにコウイチの『山翡翠』が直撃し、地面を滑るように後ろへ二メートルほど吹き飛ばされる。

 

「どうだ!」

 

「ああ、今のは驚いたぞ」

 

 バルクラヤは全くダメージを感じさせない元気な表情を見せながら素直にコウイチを褒めつつ、今自分の身に起こったことについて考えていた。

 

(今攻撃を避けようとした瞬間、まるでその場に打ち付けられたような感触があった。あれはまるでクレナ様が持っていたと言われるスキルの一つのような...それにコウイチはどうやらアレも覚えているらしいな)

 

 そこまで思案を巡らせたところでバルクラヤは口角を上げて歯がしっかりと見えるほどの今日一番の笑顔を見せる。

 

「コウイチ!貴様、殺気感知も覚えているな?」

 

「はい、一応」

 

「なら面白いものを見せてやろう」

 

 コウイチに確認を取ったバルクラヤは、両の拳を握りしめ初めてしっかりとした戦闘体勢をとる。

 

 空気が変わったことはすぐさまコウイチにも伝わり、より一層の警戒でバルクラヤと対峙する。

 

「行くぞコウイチ!」

 

 バルクラヤから、さっきのものとは比べ物にならないほど強烈な殺気が放たれ、コウイチの体に緊張が走る。

 

(これ...俺、死ぬやつでは?)

 

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