殺気感知のスキルを習得して修行を続けていく内に徐々に掴んできたことがある。
初めの頃は、自分に向けられた殺気に対してどこからどう攻撃されるかまではわからないものの危険を察知することができるようになった。
次に、その殺気が相手のどこから漏れているのかが分かるようになった。例えば相手の右手から漏れているのなら右の拳で攻撃するんだろうなといった風に。それに伴い攻撃してくる位置も予想が付けやすくなりガードの成功率も上がる。
そして最近では、相手の狙っている位置に寒気のようなものを覚えるようになった。左の脇腹なら左の脇腹が、右頬なら右頬に寒気が走るといったように。そうなればガードの成功率ではなく反撃の仕方も考えられるようになってくる。
この一ヶ月スイレンにボコボコにされながらも努力してきたおかげで手に入れかけていた自信のようなものが、今なくなりかけていることを感じていた。
「いくぞ〜?」
目の前で狂喜の笑みを浮かべながらこちらに近付いてくるバルクラヤから漏れ出ている殺気は体のどの部分から漏れているとかいう次元では無かった。
全身から漏れている。そう言うしかないほどの呑み込まれそうなほど殺気。そして何より、全身に走る寒気。頭が、腹が、背中が、足が、その全てに寒気が走っている。これではどこからどこを攻撃されるのか全く分からない。
(全身凶器かよ...)
感じていた寒気が一層強くなる。
(来る...!!)
腕を体の前でガッチリと固めて反撃など考えない完全防御の体勢を取る。悲しいかな、これでは殺気の修行を始めたばかりのボコボコにされていた頃に逆戻りだ。
そんなことを考えていた直後、体の前面に衝撃が走る。しかし、不思議なことにその瞬間に痛みは無かった。すぐにそれは勘違いだと分かったが。
次の瞬間、背中に強い衝撃がきた。まるですごい勢いで壁にでも当たったかのような。ではなく、本当に勢いよく壁に当たったことによる衝撃。
「がっ...くっ...」
受け身も取れず背中から壁に当たったせいで息ができない。ふと顔を上げるとさっきまで近くにいたはずのバルクラヤが十メートルは離れた所に立っているのが見える。殴られたのか蹴られたのかは分からないが、俺はあそこから吹っ飛ばされて壁に激突したのだろう。
「うっ...!」
息も絶え絶えにそう理解した途端、今度はガードしていた腕に痛みが込み上げてきた。まるででかい鉄の棒で殴られたかのように腕の一部とかではなく腕全体が痺れるように痛い。
「いってーーーー!」
ようやく息ができるようになり、初めに発した言葉はそれだった。腕が痛いのか背中が痛いのか、もう自分でもどこが痛くて言った言葉なのか分からず、ただその場でゴロゴロとのたうち回るしかできなかった。
「はいそこまでー!」
見かねたスイレンが割って入り模擬戦の終了を告げる。
「ええ!もう終わり!?まだこれからだろう!?」
「やりすぎだよおっちゃん」
「むーん。始まったばっかりなのに...」
不完全燃焼と言った面持ちで残念がるバルクラヤをよそに、コウイチの元へ駆け寄るスイレン。
「大丈夫かコウイチ?」
「痛いよー。死んじゃうよー。助けてー」
「よし、大丈夫そうだな」
「どこがだよ!もっと労ってくれ!優しくしてくれ!」
「そうやって泣き言が出せてる間は大丈夫ってもうしてるからな」
俺を知りすぎた奴め。もっと優しくしてもバチは当たらんと思うが。
「元からだとは思ってたけど、この一ヶ月あたしに殴られ続けたおかげでより一層打たれ強くなってるから心配してないよ」
恨めしそうに見てくるコウイチに気づいたスイレンはそう言ってあははと笑うだけだった。
「大丈夫だったかコウイチ?」
バルクラヤは、まだやりきれない表情は抜けきっていないながらもコウイチを心配しながら話しかけてきた。
「はい。なんとか無事です」
「さっきのは避けてくれると思ったんだがな...まさか正面から受けるとは」
「あはは...」
「コウイチは避けなかったんじゃなくて避けれないんだよ」
そんな危ない攻撃してくるなよ心で思いつつ笑い返していると、横のスイレンが反論した。
「コウイチはあの『絶対不可避』の持ち主なんだぜ」
「なに!?女神クレナ様のか!?どうりでさっき攻撃が避けれなかったのか。すごいなコウイチ!」
スイレンからスキルのことを聞いたバルクラヤに何故か褒められて困惑していると、ヤクモとスメラギが近寄ってきた。
「気は済みましたか?」
「うーん、『絶対不可避』のスキルを持っていると聞いたらまだやり足りないが、これ以上やらせるのもちと酷だし、今日はこのぐらいでいいかな!またやろうなコウイチ!楽しかったぞ!」
ヤクモの言葉にもまだ不服そうながら、満足した様子で笑いながら去っていってしまったバルクラヤ。
(嵐みたいな人だったな)
「災難でしたねツガヤマ君。バルクラヤ様は初めて会った人はとりあえず喧嘩しないと気が済まない人なんすよ」
「そんな蛮族みたいな人が王なのが不思議だよ。いてて」
「この国だからこそでしょうね。今日はもう体も疲れているでしょうし、家まで送りますよ。スメラギ君も来ますか?」
「いや、俺はやることがある」
スメラギとはその場で別れ、王宮を後にしスイレンとヤクモと道場へと帰ることにした。