「ヤクモさん!」
ヤクモが吹き飛ばされた門からは土煙が立ち、彼の安否は分からない。
「もろに当たったからね。あれは立てないでしょ」
「スイレン!ヤクモさんを頼む!」
「分かった!」
門の方に呼びかけるも返答はなく、テラスの返事だけが帰ってくるだけなのでスイレンに見に行かせる。
「降参してヨンって人に会わせてくれるなら殴ったりしないけど、どうする?」
一歩こちらに近づいて話しかけてくるステラと連動するように一歩下がる。
「だいたいロメロス組の奴がヨンのじいさんに何の用があんだよ?」
「うーん。ヨンって国王の師匠なんだろ?人質にできれば国王も動いてくれるかもだし、ついでに『崩山拳』でも教えてもらおうかと思ってさ」
「お前みたいなやつに教えるとは思えないし、そもそもヨンのじいさんにも勝てないと思うぞ」
修行中に何度か手合わせしたからこそ分かる。ヨンはスイレンなんかとは比べ物にならないほど強い。
「『崩山拳』ってヨンが認めた奴しか入門を許してもらえないんだろ?こっちから言わせてもらえばお前みたいな弱そうな奴が入門できてるんだから、僕は十分な資格があると思うけど?」
そう言われてはなんとも言い返せないが、こういう時の為に今まで修行してきたんだ。
「そんなこと、やってみなくちゃ分かんねぇだろ」
反論しつつ構えを取って攻撃に備える。
「へぇ、やる気なんだ?」
コウイチの構えを見て開戦の合図と察したテラスは、自分も腰を少し落として拳を構えた。
二人の間に一瞬の静寂が流れ、コウイチが先に踏み込もうかと前に出していた右足を少し動かした直後、
「おそくない?」
テラスの残像が目の前に見えたかと思うと、顔に衝撃を受けて体が宙に浮かぶのを感じた。
自分が何をされたのかも分からず背中から地面に落下し、痛みを認識することで自分は顔を殴られて吹っ飛んだのだと理解する。
(何だ今の?一瞬テラスの拳に殺気は感じた。...けど、それを見てどうこうする前にもう殴られてた。いつ踏み込んだのかも、拳を振り抜いた所も見えなかった。)
コウイチは、その時初めて自分の目の前にいる敵がとんでもない実力者なのではないかと気付いた。
「どうした?殴られて怖くなっちゃった?」
自分より背の低いテラスに見下ろされながら、少年が大きく見えてしまう。
「じゃあ、二人目だね」
テラスが拳をかざし、最後の一撃を振り下ろそうとした時、
「いやー、びっくりしちゃった」
壊れた門の中から呑気な声を出しながら出てきたのは、蹴られたはずの顔にも、体にすら傷一つないヤクモだった。
「あれ、僕に喧嘩をふっかけてきたと思ったのに、もう目移りしちゃったのかい?寂しいなぁ」
「なんで生きてんのお前?」
拳を止めて、一瞬驚いた顔を見せたテラスは、すぐさまヤクモをぎろりと睨みつけて問う。
「そりゃあ君のキックが全くもって力を感じさせない軟弱なキックだったからじゃないかなぁ?」
「へー、言うじゃん」
ヤクモのあからさまな安い挑発に乗ってやろうと標的をヤクモに切り替えて彼の前に歩き出すテラス。
「僕今すっごい調子いいから殺しても殴るのやめないよ?」
「なら君の全力を受け止められるように努力するよ」
正面で向き合う二人がにこりと笑い合った直後、テラスの拳に殺気が宿るのを感じる。
「ヤクモさん!避け...」
コウイチの呼びかけが言い終わる前に三回の炸裂音が鳴り、ヤクモの姿が門の奥へと消え、それを追うようにテラスも中へと駆けていく。
「コウイチ大丈夫か!?」
テラスを追いかけようと門の方へ近寄ると、スイレンが声をかけてきた。
「俺は大丈夫。でもヤクモさんが...」
自分では敵わないのがはっきりと分かってしまった以上、スイレンにヤクモさんの加勢を頼むしかないと考えた時、先にスイレンが喋り出す。
「なんか大丈夫みたいだぞ?」
「何が?」
「いや、さっきコウイチに言われてヤクモを助けに行ったら、「ここは僕一人で何とかするんで見ててくれ」って言われてさ」
どう考えても一人でどうにかできるとは思えない。現にさっきから一方的に攻撃されて反撃の一つもしてないのに。
なんとか助ける方法はないかとヤクモの方に目をやると、
「ツガヤマ君。そういえばさっき僕のスキルについても聞いてくれたよね?」
そこには、またも傷一つなくけろりとした態度でコウイチに話しかけてくるヤクモの姿と、確実に攻撃を当てたはずなのに元気にしているヤクモを目の当たりにして、今度こそ動揺を隠せないテラスの姿があった。
「何でピンピンしてんだ...あの人...」
「今から見せてあげるよ。僕のスキル...」
それだけ言うと、テラスの方へと向き直り歩き出した。