「見せてあげるよ。僕のスキルを...」
そう言ったヤクモは改めてテラスと向き直り彼に向かってゆっくりと歩き出す。
あっという間に二人の手が届くほどの距離に近づきヤクモが片手をテラスに向かって伸ばす。
ヤクモの手が相手に届く前にさっきと同じように音だけなら心地いいほどの炸裂音が三回鳴ったかと思うとヤクモの体が後ろに滑る。しかし、今回は先ほどと違い大きく吹き飛ばず後ろに状態が仰け反る程度だった。
「しっかり踏ん張ってれば後ろに吹き飛ぶことはないかな」
仰け反った上体を起こしながら、どこか冗談ぽく話すヤクモに驚いていたのはテラス以上にコウイチとスイレンだった。
「スイレン。今のあいつのパンチ見えたか?」
「全く。ていうか、その前のヤクモの動きおかしくなかった?」
「ああ、ヤクモさんから一切の殺気が感じれなかった」
(そう、先に動いたはずのヤクモさんからは殺気が感じ取れなかった。そして、その後にテラスの拳に殺気を感じた瞬間にはヤクモさんは仰け反ってた。ヤクモさんの殺気が感じ取れなかっただけか?それとも...)
「僕の攻撃は効いてないかもしれないけど、速さが違いすぎるよ。そっちからの攻撃が当たらないんだからお前が倒れるまで殴り続けるだけだし」
自分の攻撃が通じていないのに驚いてはいるが、それ以上に自分の優位が動くものではないことを感じているテラスは強がりではなく本心からそう話すと、
「だろうね。なら僕は君がいくら攻撃しても僕に通用することはないと悟るまで殴られ続けるよ」
それに対し、ヤクモはそれだけ呟くとまたテラスに向かって歩き出した。
二人の距離はまた先程と同じ距離になり、同じようにヤクモが手を伸ばす。
「無駄だって!!」
今回はさっきより数の多い五回の炸裂音が鳴り響きヤクモとテラスの間に距離が生まれる。
「うん。ちょっとずついい踏ん張り方が分かってきた気がするよ」
今回は体をくの字に曲げた状態で後ろに押し退けられたヤクモは、笑顔で顔を上げて体を戻してまた歩き始める。
「...もういいや」
どこか気怠げに呟いたのはテラスだった。
「おや?じゃあ大人しく捕まってくれるかい?」
「そうじゃない。そっちがサンドバックになりたいって言うならこっちから行ってやるって言ってんだよ」
その言葉と同時、テラスがヤクモの懐に踏み込むと、今度は八回の炸裂音が鳴り響きヤクモを後ろへと押す。
「言ったと思うけど僕、今調子がいいんだよね。どこまでいけるか自分でも試してみたかったから、そっちが殴ってこないならとことん付き合ってもらうよ!!」
その言葉通り、テラスの攻撃は止まることなくヤクモに襲いかかり炸裂音の数は増え続け、いつしか攻撃の切れ目が分からなくなっていった。
最初は後ろに押されていたヤクモの体も、テラスの軽快なフットワークから繰り出される前からの、横からの、そして後ろからの攻撃により、もはや動くことなくその場に釘付けにされていた。
絶え間なくなり続ける炸裂音と、その場から動くことすらできずに殴られ続けるヤクモを見ながら、テラスの気持ちは昂っていた。
(すごい。すごいや!あの薬を飲んでから体の内から力が溢れて止まらない。まだいける。もっと。もっと速く!もっと強く!)
もはやテラスの腕は見えなくなるほど高速で動いているため、コウイチもスイレンも、そして最も近くにいるヤクモですら彼の腕を視認することができない中、テラスの腕全体に亀裂が走り、その中が淡く紫に光り輝いているのに気付く者はいない。
「コウイチ。あれは流石に助けに行った方がよくない?」
「あの中に!?無理だろ死ぬわ!」
「でもどうすんだよ!あのままじゃヤクモ死んじゃうぞ!」
「そうは言っても...」
ヤクモは一人で大丈夫とは言っていたが、現状を見るにどうすればいいか分からないまま渦中の二人を眺めることしかできない中、テラスの攻撃の速度はさらに増していく。
「そろそろ終わりにしよっか!!」
動きを止めたテラスは拳を大きく振りかぶるモーションを取る。
「なんだあれ?」
その一瞬、コウイチの目にテラスのひび割れた腕が目に入る。
「爆ぜろ!『発火拳』!!」
テラスの大きく振りかぶった拳はその速度から拳に炎を纏い、ヤクモに当たると同時に爆裂音と共に炎が弾ける。
「あははっ!焼け死んだかな!?」
爆煙が立ち込める中、高らかに笑い勝利を確信していたテラスに、煙の中から声がかけられる。
「速すぎて見えなかったけど、やっと大きい一撃打ってくれたおかげで捕まえられたよ」
煙が晴れながら姿を表したのは、服はボロボロになりながらも体は無傷のままテラスの手首をしっかりと掴んだヤクモの姿だった。
「さぁ、気も済んだみたいだし、終わりにしようか」