キーラとクゥ達が青年に道案内してもらって来た場所はテサボンの街を取り仕切っているシアンコ組の本部だった。
キーラとクゥはシアンコ組の人とはラキズン撃退の件でよくしてもらっており、彼女達が一文無しと知ってからはしばらくの生活費も出してもらった。その恩から二人はラキズンを捕らえるまではコウイチを追うのをやめてこの街に留まることにしたのだが...
「なにがあったのよ...これ」
「...ひどい」
現場に到着した彼女達が目にしたのは家だったものの残骸が散らばり、瓦礫の山ができている惨状だった。
「とにかく、誰かいないかみんなで探すわよ!」
キーラの一声でその場にいた全員で生存者の捜索を始めて30分が経った頃、
「いたぞ!シアンコさんだ!」
数名の生存者を見つけつつ、瓦礫の中からシアンコ組の頭領であるシアンコをバンが見つけた。
「ひどい怪我だが、まだ息はある!」
「任せて下さい!」
クゥがすぐさま駆け寄り回復魔法の詠唱を始めると、シアンコの身体中にある傷がみるみる塞がっていく。
「う、うぅ」
呻き声を上げながらも、体の傷が癒されたことで眉間に皺が寄っていたシアンコの表情は和らぎ、眠るように意識を失った。
「生存者は見つけ次第ギルドに運んで安静にさせて!残ってる人は捜索を続行!」
「私も、手伝います」
「クゥ、あんたも一旦ギルドに戻って休みなさい。さっきから回復魔法の使い過ぎで顔色悪いわよ」
キーラの言う通りクゥの顔は血の気が引いており、元々白かった肌は生気を感じないほどの白さになっていた。
「クゥさんはギルドに戻ってポーションを貰うといい。それで多少の魔力は回復するだろうし、生存者は見つけ次第ギルドに運ぶからそこで看病してやってくれ。君まで倒れたら誰も回復魔法なんて使えないからな」
「は、はい...じゃあバンさんの言う通り、ここは一旦お任せします」
バンに諭されることで納得したクゥは捜索を手伝っていた一人におんぶされて生存者たちと共にギルドへと戻っていった。
「しかし酷いな」
「そうね。今までは街に来ても他の人たちで足止めぐらいはできてたし、あたし達が到着すれば撃退できたのに...、ラキズンってほんとはこんなに強かったってことなの?」
「いや、確かにラキズンは強いがシアンコ組全員を相手取って勝てるほどではないはずだ、だからこそあいつが一人でやったと言うのが信じられん。突然とんでもなく強くなりでもしない限りは...」
「報告に来た子が言ってた足が光ってたって言うのと関係あるのかしら。でも今はそんなことより一人でも多く生存者を見つけて助けましょ」
キーラとバン達による捜索は夜まで続き、明かりが無くなったことで捜索を打ち切った全員が帰ってくる頃、ギルドの食堂には50人ほどの怪我人が横になって治療を受けていた。
「怪我のひどい方はクゥさんの回復魔法で治療してもらって、軽症の方には薬草で作った塗り薬や飲み薬でひとまず様子をみています」
街の一大事とあって、ギルドの食堂にあった机や椅子を退けて、簡易的な治療所に作り替えた張本人であるパジルトが帰ってきたキーラ達に説明をする。
「ありがとうパジルト」
「ほんとですよ。仕事ばかり増やさないでください。それと、シアンコさんが目を覚まされました。今はあちらでクゥさんと一緒です」
ぼやきつつもみんなの為に動いてくれるパジルトにどこかコウイチの姿を重ねながら、パジルトの指す方に目をやると、食堂の隅に追いやられた机と椅子に腰掛ける中年の男とクゥの姿が目に入る。
「よかった。シアンコさん大丈夫?それにクゥも」
「あ、おかえりなさいキーラちゃん。今シアンコさんに何があったか聞いていた所なんです」
クゥがそう言って、シアンコに目を向けると、彼はすぐさま彼女達に深々と頭を下げた。
「さっきクゥ殿にも言ったが、この度は我々を助けていただき本当にありがとう。礼を言っても言い尽くせぬほどの恩を受けてしまった」
「いいっていいって。ヤクザの頭領が頭なんか下げないでよ」
キーラの言葉で顔を上げたシアンコは白髪混じりの黒髪で、年齢は40ほどと聞いているがもっと年上だと言われても納得してしまいそうな落ち着いた雰囲気の持ち主である。
「で、何があったか聞かせてくれる?」
「ああ、勿論だ」
それからシアンコに事件について聞いた内容は次のようだった。
シアンコ組の本部に堂々と正面から入ってきたラキズンは目にも止まらぬ速さで動き回り、次々と組の人間を打ち倒していき、怪しく紫に光る足だけで本部の建物を粉々に破壊してしまったという。勿論止めようとしたが、止めにかかった者は簡単にあしらわれ、シアンコ本人ですら手も足も出ずに一瞬でやられてしまったという。
「そして、奴は去り際に君達に伝言を残していった」
「なんて?」
「奴が言うに、『もうすぐ王都で大仕事がある。だからお前達に構ってる暇は無くなった。仕事が終わり次第必ず殺しにきてやるから待っておけ』と」
「そっちからちょっかいかけてきといてどういう言い草よ。そんなことより王都で大仕事って一体?」
「多分、国王に殴り込みをかける気だろう。ラキズンはロメロス組と言っているし、奴らの目的は国王を倒して自分たちがこの国を統治することだからな」
「じゃあそれって...」
「ああ、近々王都で暴動が起きる。しかも奴らはヤクザでない人間も関係なく襲う。このままでは王都は大混乱になるだろう」
シアンコは憂うように鼻から大きく息を出し、話を聞いた二人も黙り込んでしまう。
「行きましょう」
沈黙を破ったのは、クゥだった。
「そんなことになるなら放っておけません。私たちも王都に行ってラキズンを止めましょう!」
「......そうね。行きましょう」
「待ってくれ。これ以上君達を巻き込むわけには行かない。私が行く」
二人が王都へ行こうとするのを止めるため、立ち上がろうとしたシアンコをキーラが片手を前に出して制する。
「元々あたし達は王都に用があってこの国に来たの。それにシアンコがこの街出ちゃったら誰がこの街仕切っていくのよ。ここはあたし達に任せなさいって」
「しかし...」
シアンコが渋るのを予想していたキーラは言葉を続ける。
「どうしてもって言うならせめて王都までのお金と足を用意して。それで貸し借り無しってことにしてあげるから」
それだけでは割りに合わないとまだ渋っていたシアンコだが、それならお金も足もいらないと言い出したキーラに負けて、彼女の案で納得したのだった。
夜が明けて、早速王都への用意を済ませたキーラとクゥは荷物を背負った三頭のラクダとテサボンの街を発とうとしていた。
「本当にありがとう。危険になったらすぐに逃げてくれ。私も街が落ち着いたらすぐに王都へ向かう」
そう言ってまた深々と頭を下げるシアンコ。
「大丈夫です。王都には私たちが信頼してる頼れる人がいるはずですから。もしその人に会えたら文句を言いつつ助けてくれるはずです」
クゥはしばらく会えていない青年を頭に思い浮かべながら頭を上げるようにシアンコに話す。
「それじゃあ行くとしましょうか。いざ、王都へしゅっぱーつ!」
キーラの声と共に、ラクダは広大な砂漠へと足を進め始めた。