絶対不可避の異世界更生   作:浅葱 沼

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暗雲

 

「痛ったいなー!どつくことないやろ!?」

 

 制裁の拳を喰らってその場でうずくまりながらこちらを睨んでくるクレナだが、睨みたいのはこっちである。

 

「教えることないってなんだよ!?参考になるもんがないんだからちょっとぐらい教えてくれたっていいだろ!」

 

「そんなこと言うたってほんまに教えることないねんて」

 

 頭をさすりながら起き上がるクレナの言い方はどうやら本当に何もないらしく聞こえる。

 

「何にもないことないだろ。俺に与えた『絶対不可避』だって元々お前のスキルなんだろ?」

 

「うーん。確かに『絶対不可避』自体はウチが持ってたスキルではあるけど、別にそれだけしか持ってなかった訳ちゃうからなぁ...」

 

「つまり?」

 

「それ以外のスキルとの組み合わせを駆使して戦ってたから『絶対不可避』だけで戦うなんて考えたことないわ。ていうかそのスキル単体やとほぼ使い道ないやろ?......痛ったい!」

 

 他人事のようにあははと笑うクレナにもう一度拳を振り下ろす。

 

「使い道のないもの渡すな!」

 

「更生の為なんやから使えるもん渡したら意味ないやろ?」

 

「うっ…そう言われればそうだな」

 

 特に目的も無いせいですっかり更生のことを忘れていた。

 

「じゃあしょうがないか。でも今頃スイレンはなんか掴めてたりするのかな」

 

「スイレンってコウイチと一緒に修行してる子か?」

 

 クレナはスイレンの名に何故か興味深そうに反応した。

 

「ん?ああ、そうだけど。それがどうかしたのか?」

 

「あの子は中々の逸材やで。発展系をしっかり身に付ければウチほどとは言わんけど『崩山拳』の歴史の中でも5本指に入るレベルにはなるかもな」

 

「スイレンがか?」

 

 確かにスイレンは強いと思うけど、それでもバルクラヤと対峙した時やテラスの戦いを見ている時程の圧倒的な差を感じた事はない。

 

「まだ発展系も定まってないひよっ子やねんからそう感じるのもしゃーないけど、将来が楽しみやな」

 

 武術の神と言われているクレナにここまで言わせるのだから相当なのだろうな。

 

「そんな事より俺は自分の発展系をどうにかしないとだな」

 

 クレナに聞けば何か掴めると思っていたのに収穫無しだった事に落胆しながら空を見ると、遠くに大きな黒雲が立ち込めているのが見えた。

 

「なんだあれ?」

 

「お、珍しいな。一雨くるで」

 

 クレナの言葉は正しく、数分も経たないうちにポツポツと石畳を濡らし始めた雨雲は、あっという間に数メートル先が見えないほどの豪雨をもたらした。

 

 

 

  ◇◇

 

 

 

「結局、思い付かなかったなぁ…」

 

 時間は少し戻りコウイチと別れたスイレンは、すっかり夜が更ける時間になるというのにカエン組のアジトへと戻らずにいた。

 

(発展系を考えるようにって言われてからもう何年にもなるし、何か刺激があればと思って後継者探しのついでに旅に出たけど、特にこれといった収穫も無し。親父に聞くのは最終手段にしたかったけど…)

 

「はぁ…。親父絶対喜んでめちゃくちゃ喋るだろうな〜。殴らないように気を付けないと」

 

 オニバスのスイレンに対しての溺愛具合はスイレン本人ですらうんざりするほどである為、スイレンはオニバスに教えを乞うのに躊躇していたのだった。

 

「ん?あれって」

 

 夜の街でふと空を見上げたスイレンの目に大きな黒雲が迫って来ているのが目に入る。

 

「【滝雲】だ。初めて見たな」

 

 周囲を砂漠で囲まれている乾いた土地であるロンシャ王国だが、雨が全く降らないと言うわけではない。【滝雲】と呼ばれる数十年に一度訪れるというその雲はその名の通り滝のような雨をもたらし、国の地下に張り巡らされた貯水槽を満たす程の量の雨が降ると言われている。

 

 スイレンは産まれてから一度も体験した事はないが、周りの人に小さい頃から【滝雲】を見たらすぐに家に帰って来いと口酸っぱく言われたのを思い出す。

 

「急いで帰ってみんなに知らせなきゃ!」

 

 スイレンは、オニバスに会うのが億劫だったことも忘れ走り出す。

 

 

 

  ◇◇

 

 

 

「天も俺を味方してくれているらしいな」

 

 時刻を同じくして、王都サランから少し離れた砂漠にて遠くにある【滝雲】を見つめながら呟く男がいた──、

 

「もう体は大丈夫なんですか?ロメロス様?」

 

「十全だ。むしろ気分がいいほどにな」

 

 心配そうにロメロスの顔を覗きながら話しかけるのはフォルテ。そしてその隣にはラキズンがいた。

 

「テラスはどうやら捕まってしまったようです。申し訳ございません」

 

「構わん。お前達二人がいれば今回の作戦もうまくいくだろう。テラスは事が終わり次第助ければいい。今はテラスを助け出す事に気を取られて作戦が失敗するのが一番まずいからな」

 

「「はい!」」

 

 ロメロスは二人の顔を一瞥すると、すぐにサランの方へと向き直り言葉を続ける。

 

「それじゃあお前達は街にいる部下と合流して各自ヤクザのアジトを潰して回れ。俺はカエン組を潰す。バルクラヤと戦る前の前哨戦といったところだな」

 

「かしこまりました」

 

「雨に乗じればスムーズに事が運ぶだろう。各自終わり次第アジトに戻るように」

 

 ロメロスの言葉に、二人は無言で頷く。

 

「それでは行くとするか。今日でロンシャ王国は大きく動く!」

 

 雨がサランの街を包み込んでゆく。

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