カエン組アジトにロメロスが襲撃する数分前──、
「なんだってこんな時に限って遠い所まで来ちゃったかな」
息を切らしながら坂道を駆け降りるコウイチは、豪雨と夜の闇のせいで見えないものの、どこからか聞こえる誰かの叫び声や、時々鳴る何かが破壊されたような爆発音で、下のサランの街に何か只事ではない事が起きているのは理解できた。
(確かスイレンは実家に帰ってるんだっけか、俺もカエン組に行けば何か起きても誰かいるから安全かな)
「ほんと都合よくあの性悪女神はいなくなるし」
数分前、遠くに見えた『滝雲』はあっという間にサランに迫り、少し先すら見えなくなるほどの大雨を降らせ始めた。それと同時に今も聞こえている声や爆発音が鳴り響き始めたのでクレナなら何か分かるかと思い振り返るとさっきまでそこにいた彼女の姿は綺麗さっぱりなくなっていた。
(頼むからカエン組に着くまでに変な事に巻き込まれないでくれよ!)
◇◇
そんなコウイチが向かうカエン組のアジトでは今もなおロメロスとオニバスの戦いが続いていた。
『地雷』
地に右手を付けたオニバスから割れた地面を縫うように電撃が流れロメロスを痺れさせて動きを封じると、今度は左手を自分の後ろに向けそこから放つ風の後押しで一気に距離を詰める。
「くっ...魔け...がはっ!?」
反撃しようと拳を振りかぶるロメロスだったが、電撃のせいで一瞬行動が遅れたことにより無防備な状態でオニバスからの乱打を浴びてしまう。
(『風雷坊』、想像以上に厄介だな...だが勝機はあるはずだ。隙をついて確実に殺す。.........そういえば何故俺はこいつと戦ってるんだったか?)
「どうだい?わたしに苦戦しているようじゃ革命なんてやる気が失せちゃったんじゃないか?」
ふと話したオニバスの言葉で自分の目的を思い出す。
(そうだ。俺はこの国を変えるんだ。その為に戦う。邪魔するものは殺してでも...!!)
しかし、今の戦況は厳しいものだった。ロメロスの『魔拳』はその威力の高さから殺気でバレやすいという欠点がある。そのためオニバスは先程の高速移動で撹乱してから行うヒットアンドアウェイではなく、濡れた地面を利用した電撃による動きを封じる動きからの攻撃という確実性の高い戦法により着実にダメージを与えてきている。
(このままではジリ貧だな。どうにか攻撃を当てなければ...)
ロメロスが逆転の作戦を立てる時間すら与えないと言わんばかりに、オニバスの手の先から地面を伝って電撃が向かってくる。
「ふんっ!」
ロメロスはすぐさま拳を振り下ろすと、地面を目の前で盾のように立てることで電撃を分散させて防ぐ。
(『魔拳』では殺気が出過ぎて感づかれる。極限まで殺気を抑えて放つ!)
意を決したロメロスは岩の影からオニバスに向かって全力で駆け出す。
が、それと同時に視界に入ったオニバスの手から全身を刺すような殺気が放たれているのが目に入った。
「これ、なんだと思う?」
右手と左手を体の前で近づけているオニバスは悪戯っぽい笑いを浮かべながら話しかけてきた。その手の間には雷と風が激しく混ざり蠢いている。まさに嵐が彼の手の中に生み出されていた。
(あれは、やばい!)
だが、もう引くことはできない。ここで引いてしまっては防御するにも反撃するにも中途半端になってしまう。ここまできたら相打ち覚悟で突っ込むのみ。
ロメロスの脳内で思考が瞬時に処理され、スピードを落とすことなくオニバスへと突き進む。
「見せてあげよう。これが『風雷坊』の奥義!」
(こんなトコロで、オワってたまるカーーー!!!!)
オニバスから攻撃が放たれるのを感じた瞬間、ロメロスも右手に目一杯力を込める。それに呼応するように右腕全体のひび割れから漏れていた淡い紫の輝きが増す。
『
『魔拳』!!!
オニバスの手の中で今か今かとその時を待っていた龍が勢いよく飛び出しロメロスに向かって真っ直ぐ翔んでいくと、彼の突き出していた拳に直撃した。