悪魔から愛を込めて   作:トルカータータッソ

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少年と婚約者

アスティカシア高等専門学園。

モビルスーツ産業におけるトップ、ベネリットグループが運営するフロントに建造された高等教育機関である。入学条件はグループ傘下の企業推薦であり、ベネリット内の有力企業トップの子供達も生徒として在籍している。パイロット科、メカニック科、経営戦略科の各専科があり、特にパイロット科はエリートとして一目置かれている…らしい。

なぜ、唐突にこんなことを説明しだしたのか、それは俺自身がこの学園のパイロット科に所属しているからだ。ベネリットグループ傘下の企業のCEOである母親の推薦と“世界を見てきなさい”との言葉、そして愛用していた機体と共に、故郷である金星からこの学園に無理やり放り込まれたのだ。

入学したての頃はよくバカにされた。やれ田舎者だとか、賄賂を使って入学した卑怯者だとか、あることないこと言いふらされたものだ。しかし、それも時を重ねる毎に無くなっていった。この学園のイベントである“決闘”において、俺が最優秀者(ホルダー)に君臨したからだ。

まあ、実際は学年問わずに売られた喧嘩をすべて買って、返り討ちにしていったら勝手にその称号を付けられただけなのだが…それでも煩わしかった罵倒が消えてくれるのはとても気分が良かったため、この称号も悪くは無い。代わりにこの称号欲しさに喧嘩を売ってくる輩もいるが、今まで同様に返り討ちにしている。

しかし、俺はなぜ皆が皆この称号を欲しいのかあまり理解出来なかった。最強の証というのに憧れるのは理解出来ていた。それでも、血眼になってまで俺の事を打ち倒そうとするほどだろうかと思っていたのだ。

その答えは俺が2年生に進級した時に明かされた。新学期の始まりに今まで会ったことのなかったこの学園の理事長に声をかけられた俺は、1人の少女と出会うことになる。

 

「私の娘のミオリネだ。今年からこの学園の経営戦略科に所属する」

 

「…彼女が俺を呼び止めたのに関係があるんでしょうか?」

 

「君をミオリネの婚約者として迎え入れる」

 

理事長の言葉に俺は呆然とした。初対面の相手に向かって自分の娘の婚約者にしますと宣言されたら誰であっても同じような反応をするだろう。

 

「…え?婚約者?俺が?娘さんの?」

 

「ああ。君が卒業までホルダーであり続けたらの話だがな」

 

「ちょっと待ってください。俺はいいとして…まあ、良くはないんですけど。娘さんは了承してるんですか?彼女が嫌がってたら…」

 

「元々、ホルダーにはその栄誉を称え、私の娘をくれてやることにしていた。娘に拒否権はない」

 

「ちと横暴が過ぎませんかね」

 

「この学園では私がルールだ。それでは私は失礼する」

 

娘さんを置いて学園長は俺の前から立ち去っていった。娘さんの方はそんな父親の背中を恨めしそうに睨んでいる。先程から様子を見る限り決して家族仲は良好そうには見えなかったが、まさかそんな顔をさせるほどにまで拗れてるとは思わなんだ。

 

「ええと…ミオリネさん?」

 

「今は話しかけないで…」

 

中々に冷たい反応を返される。一応俺、先輩なんだけどな…とか思いつつ、彼女の心境を考えれば仕方ないだろう。俺自身も驚いたのだ。彼女の方が衝撃は強いはずだ。ならば、俺のやることは1つしかないだろう。

 

「…聞きたくなければ聞き流してくれていいよ。親父さんはああ言ってたけど、君の人生なんだ。君が決断するべきだ。親の求める人生を君がその通り生きる義務は無い」

 

突っ張り返されようとも彼女の味方になる。

 

「なんて、初対面の野郎がなに偉そうなこと言ってんだよって話だよな…」

 

ハハハ…と少し自嘲気味に乾いた笑みを浮かべる。自分で言っといてなんだが何を語ってんだとは思う。俺は所詮、彼女からしたら赤の他人。そんな奴に好きに生きろなんて言われてもムカつくだけだろう。

 

「名前…」

 

「…え?」

 

「だから、名前!まだあなたの名前聞いてない」

 

このまま口を開かないと思っていたミオリネさんが突如として俺の名前を尋ねてきた。そういえば自己紹介してなかったな…なんて思いつつ俺は自己紹介を始める。

 

「パイロット科2年のグレイ・シャーガー…金星出身です」

 

「グレイ・シャーガーね…覚えておいてあげる」

 

取り敢えずこれでミオリネさんにとって名の知らぬ誰かでは無くなったことに安堵する。

 

「まあ、何か困ったら頼ってくれていいからさ。勿論、親父さんのこと以外でもね」

 

言いたいことを伝え、俺はこの場からクール立ち去…

 

「待ちなさい」

 

ミオリネさんに裾を引っ張られ、立ち去ることを阻まれた。

 

「ミオリネさん?」

 

「そのミオリネさんって言い方止めて」

 

「えっとじゃあ…レンブランさん?」

 

「もっと止めて!」

 

じゃあなんと呼べば良いんだよと心の中で思いつつ、ミオリネさんの様子を伺う。

 

「…ミオリネでいいわよ。あなたの方が年上なんだし」

 

何故か少し顔が火照ってるように見えなくもないが、気のせいということにしておこう。

 

「了解。よろしく、ミオリネ」

 

「ええ…よろしく」

 

「俺のことは好きに呼んでいいよ。グレイでもシャーガーでも。呼び捨てで構わないから」

 

「そう…分かった」

 

どうなる事やらと思ったが、なんとか友好な関係をきずけたようで安心した。

 

「じゃあ、またね。ミオリネ」

 

「ええ…またね、“グレイ”」

 

お互いファーストネームで呼び合い別れる。1時間もしない出来事であったが、強烈に記憶に残る1日だった。




第二話
魔女と悪魔
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