悪魔から愛を込めて   作:トルカータータッソ

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※主人公のモビルスーツですが、オリジナルのものではなく、公式から発表されているモビルスーツを採用しています。


魔女と悪魔

ミオリネとの出会いから数ヶ月が経過した今日この頃、俺の携帯に電話がかかってくるところから全てが始まる。

 

「…もしもし?」

 

『私だ』

 

電話から聞こえてくる声の主は俺の母親…金星にてモビルスーツ設計・開発を手がける企業、ゴルドモア・マシナリーのCEOである“エマ・シャーガー”だ。

 

「…何の用だ」

 

『近々開催されるベネリットグループ主催のパーティー…お前にも招待状が届いていると思う。そのパーティーに私の名代として参加しろ』

 

「…あんたが出ればいいだろ」

 

『総帥からお前との会談をセッティングしろとのことだ。機体も視察したいともな。私はその日に外せない用事がある』

 

ミオリネの親父さんである総帥が…ね。そんなことミオリネに知られてみろ。丸一日説教されるに決まってる。しかし、会わない訳にもいかない。

 

「分かった」

 

『話はそれだけだ。くれぐれも総帥に粗相を働かないように』

 

そう言い残して母は電話を切った。俺はベッドに大の字になって倒れ込む。パーティーなんてかったるいものに参加するのも、総帥と話すのも気が進まないし、何よりもミオリネにバレないように動かなくてはならないのが一番気を使う。

 

「まじでふざけんな…クソババア」

 

 

そして、パーティー当日。学園から許可を取り、専用モビルスーツと共に俺は会場に到着した。ミオリネには母の代わりに参加しなければならないことを正直に伝えた。無論、親父さんと出会うことは隠して。ミオリネからは、“ロミジュリったら殺す”と言われ送り出された。ロミジュリってなんだとは思ったが、とりあえず“イエス・マム”と答えたら頭を引っぱたかれた。

痛かったなあなんて考えながらモビルスーツから降りると、総帥の使用人らしき人に会場の裏にある部屋に案内される。

 

「こちらの部屋でデリング総帥がお待ちです」

 

使用人はそれだけ伝えると再びパーティー会場の方へ歩いていった。扉をノックすると“入れ”と声が聞こえてきた。

 

「失礼します、総帥」

 

「来たか…座れ」

 

総帥の向かいの席に腰を下ろす。あれから何度か面会しているがこの人の前にいると息が詰まりそうになる。

 

「前回の面会から1ヶ月程でしょうか?今日は何の御用で?」

 

「決まっている、お前の機体についてだ」

 

やはり…か。総帥が俺との面会を希望したと聞いた時には予想は付いていた。

 

「単刀直入に聞く。アレはなんだ」

 

「それについては何度もお伝えしております通り、現在調査中でございます。研究データも総帥に送っているため、ご理解いただけていると思っていたのですが」

 

「それが全て真実だとは限らない」

 

「では、どのような証明を致せばよろしいでしょうか?これまで総帥から申しつかった全ての調査を行ってまいりました。それでも“分からない”という結果のみが募るばかりです。これ以上、何を調査しろと申しつけますのでしょうか」

 

ミオリネとの出会いと同時期にうちの企業は総帥からモビルスーツのデータを提供するように命じられた。これまでの決闘の映像を視聴し、俺の機体がガンダムではないかと判断したらしい。

俺の機体はモビルスーツの開発者だった父が、その生涯全てを捧げ作り上げた特別なモビルスーツらしい。その名を“アストレア”。正義の女神の名を与えられた、俺の相棒。

 

「…今後も調査は続けるぞ」

 

「ええ…ご自由に」

 

「忘れるな…場合によってはお前も処分の対象になる」

 

「承知の上です」

 

席から立ち上がり、総帥に一礼してから部屋を出る。そのままパーティー会場へ早足で向かった。向かっている途中で父のことを思い出していた。といっても父の記憶などほとんどないのだが…

父は俺が幼い頃に亡くなった。常に研究室に籠り、俺の誕生日にすら会うことはなかったため、俺は父がどんな人間なのかはまったく知らない。記憶にあるのは棺桶の中で目を閉じている姿だけなのだ。

 

「アストレアは俺が守るよ…父さん」

 

そんな父だが、俺に何も残してくれなかった訳では無い。アストレアがなければ俺は今頃金星で腐っていたに違いない。

 

「しっかし…総帥も早く諦めてくんねえかな」

 

これ以上、調査を進めてもアストレアがガンダムという証拠は出てこないだろう。総帥の方でもアストレアの解析を行っているらしいが、従来のモビルスーツと似て非なるものという事しか分かっていないのだ。さっさと手を引いてくれればこんな面倒なことを続けなくて済むのだが…

 

「ん?」

 

会場に到着して直ぐに目に入ったのは執拗に辺りをキョロキョロしている赤髪の女の子だった。見た感じ、俺やミオリネと同年代くらいだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ひぇっ!!」

 

さすがに放置しておけないと思って声をかけたのだが驚かせてしまったようだ。しかし、急に声をかけたとはいえこんなにも驚くか普通…俺も少しビビったぞ。

 

「驚かせてすみません。お困りのようでしたので声をかけたのですが…何かお手伝い出来ることはございますか?」

 

普段ならば絶対にしないくっそほど丁寧な言葉遣いて話しかける。この会場にいるのならばベネリットグループの代表かその親族だろう。後々無礼だなんだと言われることのないよう接しておくにかぎる。

 

「えぇぇっと…お、お母さんと、はぐれちゃって…」

 

なるほど…迷子か。しかし、見た目では俺と同じくらいに見えるこの女の子が迷子だとは…案外幼いのか?

 

「お母さんの特徴を教えていただければ俺も探すの手伝いますよ」

 

「ホ、ホントですか!!えぇぇっと、お母さんは…」

 

「スレッタ、ここにいたの」

 

女の子の後ろから声が聞こえてくる。その声がどこか聞いた事があるような声だと思い目線を移すと、そこには見知った人物がいた。

 

「お母さん!」

 

「ごめんね、商談を持ちかけられちゃって、その対応をしてたの」

 

「大丈夫。平気だよ」

 

「そう?なら良かった。娘の相手をしてくれてありがとうございます。グレイくん」

 

「いえ、お気になさらず。当然のことをしたまでです」

 

顔半分を覆うヘッドギアが特徴の女性。水星の企業“シン・セー開発公社”のCEO、プロスペラ・マーキュリーだ。彼女とは何度か面識があり、うちの企業と業務提携を行っている。辺境の惑星である水星を主として活動しながら、安定した実績をあげることが出来る素晴らしい経営者であり、うちの企業も開発したモビルスーツのメンテナンスをシン・セーに委託している。

 

「今日はお母様は欠席かしら?」

 

「はい。名代として私が参りました」

 

「そう…お母様によろしく伝えて下さる?」

 

「もちろんです」

 

「よろしくお願いしますね。そうだ、まだこの子の紹介をしてなかったわね。ほら、ご挨拶なさい」

 

プロスペラ氏にポンと背中を押され、女の子が前に出てくる。

 

「ス、スレッタ・マーキュリーです。よ、よろしくお願いします」

 

「ご丁寧にありがとうございます。ゴドルモア・マシナリーCEO、エマ・シャーガーの名代として参りました。息子のグレイ・シャーガーと申します。以後お見知り置きを」

 

「スレッタは今年、16歳なの。グレイくんもそれぐらいだったわよね?」

 

「自分は今年17になります。スレッタさんの1つ上になりますね」

 

「そうだったの。急で申し訳ないのだけれど…私はこれから他の企業さんたちのところに挨拶しに行かなくちゃいけくて。グレイくんが良ければスレッタと一緒にいてくれないかしら?」

 

「ええ。私でよければ」

 

「よかった。じゃあ、私はそろそろ行くわね。スレッタ、グレイくんに迷惑かけちゃダメよ」

 

プロスペラー氏はそう言うと再び人混みの中に消えていった。

 

「…」

 

「…」

 

スレッタさんとの間に沈黙が訪れる。何を話すべきかと考えを巡らせる中、この沈黙を終わらせる音が鳴り響いた。

 

グ〜

 

その音は間違いなく腹の音だった。しかも腹が減っている時の音色を奏でて。

 

「えっと!これは…その…」

 

顔を真っ赤にして恥ずかしがりながら顔を隠し始めた。

 

「まずは腹ごしらえですな」

 

さすがに腹が減っている中、会話を弾ませる気は起きないだろう。それに俺も腹が減った。この会場に来るまで何も食ってこなかったからさすがに腹ペコだ。

 

「まずは肉でも食いますか」

 

「はい…!」

 

シェフが目の前で切り分けてくれたローストビーフを2人分貰う。

 

「美味!さすが一流ホテル。学食とはレベルがちげぇ…」

 

学食も決して不味くはないのだが、VIP御用達のホテルのシェフと比べるとさすがに味は劣る。こんなの味わったら舌が肥えちまうな…

 

「美味…しい…」

 

スレッタさんも美味そうに食ってるみたいだ。1切れ1切れを幸せそうに噛み締めてる。

 

「これ以外にも色々あるから食べに行きますか?」

 

「はい!」

 

食い気味に返事を返してくれた。それほどここの食事がお気に召したのだろう。

それから俺たちは腹につめこめるだけ料理を堪能した。パスタにピザ、ムニエルにパエリア、ステーキに寿司など普段では味わえないような極上の料理をこれでもかと味わい尽くした。

 

「あー…食った!幸せだわ…」

 

「はい…本当に全部美味しかったです…」

 

ミオリネにも食わせてやりたいな…いや、ミオリネはこんな料理口にするなんて日常茶飯事か。総帥の娘だもんな…これ以上の料理を口にしていたに違いない。そう思うと羨ましいな…

しかし、本当に幸せそうに笑うな、スレッタさん。見てるとこっちも嬉しくなる。妹がいたらこんな感じなのだろうか。

 

「ええっと…あの…!」

 

なんて事を考えてるとスレッタさんが話しかけてきた。

 

「どうかしました?」

 

「えっと…グレイさん。わた、私と、友達になってくれませんか!!」

 

そう言うと深々と頭を下げながら手を差し出してくる。緊張して詰まりながらも勇気を出した彼女に俺は手を握り返して答える。

 

「もうとっくに友達ですよ」

 

そう答え、スレッタさんに笑顔を向ける。スレッタさんも顔を上げると、これまで見た中で1番の笑顔を見せた。

 

「じゃあ、友達になったことだし敬語やめようか」

 

「えぇぇ!」

 

「いきなりタメ口は嫌でしたかね…?」

 

「そ、そんなことない…です。だけど、グレイさん年上だから」

 

「俺はそんなこと気にしないけど…」

 

「私が…気にしちゃう…から」

 

「そう?じゃあ、俺がタメ口なのはOK?」

 

「そ、それはもちろん!はい!」

 

俺としては全然タメ口で話してもらっていいのだが…まあ、俺もミオリネと決闘委員会の奴ら以外にタメ口の奴はいないのだが…

 

「私、初めてです」

 

「何が?」

 

「水星には私と同じくらいの年の子がいなくて…だから、友達もいなくて…」

 

…なるほど。キョドってた理由はそれか。コミュニケーション能力を高めるにはどれだけ多くの人々と触れ合えるかが鍵になる。自分が所属するコミュニティだけでしか生活していないと、外の世界に出た時に苦労する。スレッタは今まさにそんな状況なのだろう。

 

「だけど、グレイさんと友達になれて嬉しい…です」

 

「そう言ってくれると俺も嬉しいわ」

 

「えへへ…グレイさんと話してると楽しいです」

 

「そう?女の子にそう言ってもらえるなんて、男冥利に尽きるな」

 

その台詞を吐いた瞬間、どことなく寒気を感じた。それはミオリネに説教される時と似た感覚だった。

 

「スレッタ、お待たせ。楽しめた?」

 

「お母さん!」

 

そんな会話をしていると、プロスペラ氏が戻ってきた。スレッタもお袋さんが戻ってきて嬉しそうだ。

 

「グレイくん、娘の相手をしてくれてありがとうございます。ご迷惑おかけしてないかしら?」

 

「いえ、こちらも楽しい時間を過ごさせて頂きました…自分はそろそろ学園に戻らなくてはいけないので、これで失礼します」

 

時間を見るとそろそろミオリネに帰ると伝えていた時間に差し掛かっていた。遅れたら延々と問い詰められる未来が見える…

 

「グレイさん!」

 

立ち去ろうとする俺をスレッタが呼び止めた。俺は再びスレッタの方へ振り向く。

 

「また、会えますか?」

 

その質問に俺は笑顔を浮かべながら答えた。

 

「もちろん!」




第3話
決闘委員会

※一部編集しました
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