悪魔から愛を込めて   作:トルカータータッソ

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決闘委員会

「シャーガー!!」

 

昼休みに入ってすぐに教室中に響き渡る程の大声で俺の名前を呼んでくる奴がいる。

 

「グエル…毎度恒例のやり取りだが聞いてやるよ。何か用か?」

 

「決闘だ!お前を倒し、今日こそ俺が再びホルダーとなる!」

 

「嫌だ」

 

グエル・ジェターク。ベネリットグループの御三家企業、ジェターク・ヘビー・マシーナリーの御曹司であり、ジェターク寮のエースパイロットでもある。決闘委員会の筆頭を務めており、本人もこの学園ではトップクラスの実力を持っている。俺がホルダーになるまではコイツがホルダーとして君臨しており、その実力と権力をひけらかしてやりたい放題やっていた。

そんなコイツの伸びすぎた鼻を俺がへし折ったのだ。コイツがあまりにも俺のことをバカにしてきたため、アストレアで完膚なきまでにボッコボコにしてやった。それから毎日のように決闘、決闘と突っかかってくるようになったのだが…

 

「行かなきゃいけないとこあるから。またな」

 

昼休みになったら学園内の温室でミオリネの手伝いをする約束をしているのだ。遅れるとミオリネから説教を食らってしまう。一度怒らせると中々機嫌が直らないため遅れるわけにはいかないのだ。

何か後ろでギャンギャン喚いているグエルを無視しミオリネのいる温室へと向かう。道中ミオリネと自分の分の昼食を購買で購入し、何とか時間ギリギリだが温室へとたどり着いた。

扉を開き中へ入るとお嬢様(ミオリネ)が胸の前で腕を組みながら、仁王立ちで俺のことを睨んでいた。

 

「遅い」

 

開口一番そう告げてきた彼女の様子は明らかに不機嫌ですと言っているかのようだった。

 

「ごめんちゃい」

 

戯けた感じで謝ってみるとミオリネがまるでゴミを見るような目つきで俺を見ている。

 

「気持ち悪いから二度とやらないで」

 

「…はい」

 

これまで半年間接してきた中で1番冷たい視線を向けられる…そんなに酷かったか…?金星にいた時に見たのを真似してみたのだが、金星以外ではウケないようだ。反省反省。

 

「…まあいいわ。それより早く手伝って」

 

ミオリネに促され俺も準備を進める。今日は育てている野菜の剪定だ。葉や増えすぎた実を摘んでいく。範囲としてはそこまで広くないため、2人ならば10分程度で終わった。これが土の入れ替えとかだったら昼休み丸々使うくらいには時間がかかる。

 

「ほら、今日の昼飯」

 

「…ありがと」

 

購買で買ってきた昼飯をミオリネに渡す。ミオリネはパンを、俺はレーションを口にする。

 

「毎回見てるけど、それ不味いのになんで食べてるのよ」

 

「安いし効率もいい。これ2つ食っとけば身体に必要な栄養取れるなんて素晴らしいだろ。それに、好き嫌いもしてられないしな。生きるためならだって泥水啜らなきゃいけない場面が来るかもしれないじゃん?それに比べたらマシってもんよ」

 

「ふーん…」

 

まあ、これ食ってるとパーティーの時に食ったご馳走たちが恋しくなるのだが…畑仕事してると悠長に飯食ってる暇もないから泣く泣くレーションなんてものを食っているわけだ。

そんな事を考えてると突然ミオリネが立ち上がると、水を汲むための桶に泥水を入れ始めた。しかもそれをこっちに持ってきている。

 

「ほら、飲んでみなさいよ」

 

なんて事を言い出すんだこのお嬢様は…確かに泥水を啜らなきゃいけない場面が来るかもしれないとは言ったが、それは極限状態での話だ。今はそんな必要ない。ていうか、購買で買った紙パックのジュースがある。

 

「…本気?」

 

「ええ。さっきの言葉が真実かどうか、証明してみたくて。それとも、あんたは私に嘘を吐いたとでも言うのかしら?」

 

おいおいマジか…!!このお嬢様は俺の事を地球寮で飼っている動物かなんかだと思っているのだろうか。いや、ヤツらだってこれよりも遥かに清潔な水を飲んでいるに違いない。ということは今の俺は家畜以下の存在ってこと…!?

ジリジリと詰め寄られ壁際まで追い詰められる。もうダメかと諦めかけた時に俺の携帯が着信を知らせた。ジェスチャーで出てもいいか聞いたらOKサインが出た。画面を見ると、相手は珍しい人物だった。

 

「もしもし…どうした、エラン?」

 

『シャディクが決闘するから立会人になって』

 

なんで俺が…と思ったが、グエルは論外だし、エランは基本立会人をやりたがらないし、セセリアは…ダメだな。立会人は基本シャディクがやるから、シャディク本人が決闘するとなると俺にその役がまわってくるのは当然か…立会人面倒なんだよな…後々文句言われるのは立会人なんだぜ…こんなことならシャディクの口車に乗って、決闘委員会になんて入んなきゃ良かった…

 

「…了解。今から行くから待ってろって伝えといてくれ」

 

『わかった』

 

エランからの通話が切られた。立会人は面倒だが、この状況を切り抜けられるのなら行くほかない。

 

「立会人に指定されてしまいまして…」

 

「行かせると思った?」

 

「ですよねぇ…」

 

仕方ない。この手は使いたくなかったが…

しゃがみ込んでミオリネの股の下を一瞬のうちにくぐり抜ける。

 

「キャッ!!」

 

「ごめん!説教なら後でいくらでも受けるから!!」

 

「この…待ちなさい!!」

 

ミオリネが追いかけようとしてくるが、全力ダッシュで温室から出てきた。そのままスクーターに乗り、決闘委員会の本拠地まで走る。スクーターを全速力で走らせ、通常ならば10分程はかかる道のりを2分で到着させた。

 

「お早い到着ですねぇ、グレイ先輩」

 

部屋へと続く扉の前に1人の女生徒が立っている。褐色肌に銀髪、何よりもこの生意気な態度と口振り。ブリオン寮所属で決闘委員会の後輩、セセリア・ドート。

 

「スクーターかっ飛ばして来たからな。それよりもお前とロウジが立会人やれよ。今回は俺が受け持つが今度からはお前ら1年が積極的に担当しろ」

 

「えー、立会人ってめんどくさいじゃないですかァ」

 

「後輩の仕事だ。異論は聞かん」

 

ブーブーと文句を垂れるセセリアを引連れ部屋の中へと入る。部屋には既に決闘委員会のメンツが揃っていた。

 

「早かったね」

 

「まあな。アレが今回のシャディクの相手か?」

 

「うん。彼女を取られたから返せって」

 

「またかよ…シャディクの野郎、ホント懲りねえな」

 

溜息をつきながら対面する2人の前まで歩いていく。

 

「待たせて悪かった。今回の立会人を務める、決闘委員会のグレイ・シャーガーだ。よろしく頼む。それでは早速始めるぞ。双方、魂の代償を天秤へ。シャディク、お前はこの決闘に何を賭ける?」

 

「君の彼女とこれまで通り接する…てことで」

 

それが毎度のトラブルの元だってのに…まあいいわ。女関係のことをこいつに言っても無駄だしな。

 

「アンタは何を賭ける?」

 

「俺の彼女だ!俺が勝ったら彼女を返してもらう!」

 

うわ…めちゃくちゃ怒ってますやん。何やらかしたんだよシャディク…まさかホントに奪っちゃったのかよ…

 

「ālea jacta est.。決闘を承諾する」

 

両の掌を合わせ、前準備が終了する。

 

「これより決闘に移る。場所は現在、午後の授業で1年が使用する演習場を使用する。両者己がモビルスーツに搭乗し、演習場に集合すること」

 

シャディクの相手が部屋から出ていくのを確認すると俺は教官に決闘をするために演習場を使用する連絡を入れる。直ぐに教官からは了解したとの連絡が入る。

 

「悪いね、グレイ」

 

「そう思うなら人の女なんて盗るんじゃねえ」

 

「相手が勝手に返せって言ってくるだけだよ」

 

「お前の行動がそう言わす理由になってんだよ…まったく、少しは大人しくしろ」

 

「善処するよ」

 

シャディクはそう言って笑顔を向けてくる。前もそう言ってたぞこの野郎と思いながら溜息を着く。

 

決闘の結果だけ述べよう。シャディクの圧勝だった。まあ、予想は着いていたのだが…相手が可哀想になるくらいボッコボコにされていた。ホントご愁傷さまって感じだった。

 

「やっぱり、シャディク先輩の圧勝でしたねぇ」

 

「予想出来たことでしょ」

 

「は…興ざめだな」

 

俺としてはシャディクが負けて少しは自分の行動に反省してもらいたかったのだが…仕方ない。相手も決して弱かったわけじゃない。相手が御三家でなければ間違いなく勝利できるほどには技術が磨かれていた。しかし、御三家が用意したモビルスーツ相手では性能が違いすぎた。

 

「グレイ先輩も、立会人お疲れ様でしたぁ」

 

「…文句は受け付けないって相手には伝えといてくれ。俺は戻る。エラン、またな」

 

了解でぇす、と人を小馬鹿にしたような返事をしながら手を振っているセセリアと首を小さく縦に振るエランを尻目に、俺は部屋を出た。

端末を見るとミオリネから怒涛のメッセージが届いていた。その全てがお怒りのお言葉であり、俺のこれから1時間ほどの未来を決定づけるものであったとさ。




第4話
波乱の転入生
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