某妖怪「超有名冒険譚の主人公が目の前にいるんやが」   作:ピコッピコ

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開いたな!これでお前とも縁ができた!




真打編
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雨がザアザア降っている。

 

もう梅雨は過ぎたのだから、きっと今日だけだ。

そんな気持ちで過ごしていたケータは翌日、翌々日、その次も続く激しい雨に面食らっていた。

 

「いやおかしいよね?!もう7月だよ!」

「梅雨が続いてるだけニャン」

「でも最初の週はめっちゃ晴れてたじゃん!」

 

窓の外は雨で見えづらくなっている。雲も曇天で、夏休み的なキラキラが一切ない。由々しき事態である。

 

何が由々しき事態かって、今が夏休み、ということだ。

夏休みは貴重だ。友達と遊ぶし、虫取りに行かなくてはならない。

 

ケータは激怒した。

必ず、かの、曇天曇り空を除かなければならぬと決意した。

 

ということで、ケータはカッパを着て、寝ている真っ白執事ことウィスパーを叩き起した。

 

「ねえウィスパー!絶対妖怪のせいだってこの雨!」

「もう少し寝かせてください…」

 

置いていくことにした。

おとも妖怪を連れていきたい気もしたが、こんな大雨では可哀想だという気持ちもある。ウィスパーは知らん。勝手に寝てろ。

それに、いざとなったら友達をメダルで呼べばいい。

 

ケータは駆け出した。

特にこれと言った根拠も、正確な目的地も無く駆け出した。

 

雨を振り切りながら走って走って、おおもりやまについた辺りで、ふと気がついた。

 

──妖怪を見かけない

 

いつもだったらケータに「なにしてん?」的な感じで話しかけてきたりするのに、今日に限っては1人たりとも見かけなかった。

雨を好む妖怪ですら見かけない。

 

おかしいな、いつもなら居るのに。

ケータは不思議に思いながらおおもりやまを登って行く。

 

長い階段を登りきって、まず最初に見えたのは大きな社だった。

いつも通り代わり映えのしないこの場所に、今日は変化があった。

 

ビー!と激しい電子音が聞こえた。

昔学校で聞いた警報音に似ているそれは、左腕から聞こえていると気づいて、ケータは左腕に身につけている妖怪ウォッチを見た。

 

妖怪ウォッチの盤面が震えて、針がぐるぐる動いている。

 

妖怪ウォッチとは、妖怪の見えない人間が妖怪と「ともだち」になる為の機械である。

妖魔界随一の会社が作っているだけあって、その作りは精密で、普通に妖怪の見えないケータはこれを身につけることによって妖怪を見ることが出来る。

 

妖怪ウォッチには妖怪を見つける為にレーダーがある。

妖怪のランクに応じてレーダーの反応が変わるのだ。

 

「なんだこれ…」

 

今のレーダーの反応は、今まで見たことない反応だった。

ゾッとする。今まで様々な妖怪に出会ってきたが、こんな反応を示される妖怪など会ったことがなかった。

 

言いようのない好奇心が胸を占めて、ケータは恐る恐るレンズをかざす。

 

そこに居たのは─

 

「女の子…?」

 

うずくまる女の子だった。

山の中では異質な、真っ白なドレスみたいな高価そうな服を着ていた。ずぶ濡れで長い髪から水が滴っているのが見える。

 

ゾワゾワする。背筋に悪寒が走って、肌が粟立つ。体が警告を出すのと同じく、ケータの心も警戒しろと言っていた。

 

この女の子は普通じゃない。直感的に分かった。

でも、それでもケータは放っておけなかった。

 

「あの…大丈夫…?」

 

女の子が顔を上げた。

細い髪がすだれみたいに顔にかかっていて、表情はあまり見えない。でも少し見えた。

 

悲しそうで寂しそうな目をしている。迷子になった子どものような、置いていかれた人の目だ。

 

胸が締め付けられる感覚がして、ケータは無性に悲しい気持ちになった。

 

なんでだろう、なんでこんなに悲しいんだろう。

 

「君、1人なの?」

 

気づけばケータはそう聞いていた。

 

しゃがんで同じ目線になった。

傘が奏でる雨音だけが聞こえる。

 

今日は冷たい、乾いた雨の日だった。日本の夏には珍しい、比較的過ごしやすい雨天。その代わりと言わんばかりにしずくは強い。叩きつける音が強くなって、弱くなる。

 

「…友達が居たの。」

 

女の子が語り出したのを見て、ケータは女の子の隣に座った。

揺れる瞳は今にも泣きそうで、見ているこっちだって辛かった。

 

「ずっと一緒に旅をしてきて、いつも私の事支えてくれて。大好きな友達で………っ」

 

悲しんでいる人に何が出来るのか、ケータには分からなかった。

背中に手を伸ばそうとして、止めた。

 

「でも、起きたらいなくなってて……君に、似てたなぁ…」

 

ああ、本当に大好きだったんだ。

何も知らなくても、そう感じられた。

 

掠れるような声に埋まる深い愛情と、絶望と、悲しみは直に響く。

 

ケータに似ていた、ということは人間だったのだろう。

この女の子は妖怪だ。妖怪と人間の寿命は言うまでもなく、違う。

 

つまり、この子の友達はきっと…

 

ケータは息を呑んで、その女の子に寄り添った。

自分の友達が、例えばジバニャンやウィスパーが居なくなったらどれ程悲しいのだろう。

 

「居場所が無いの…」

 

起きたら最愛の友達が居なくなっていた。それはどんな悲しみだろう。どれほど痛く、苦しいのだろう。

 

「あのさ!俺ん家来る?」

 

思った以上に大きな声になった事に驚いて、その次に自分が言った言葉を後悔した。

こんな直な言葉、酷いまである。この女の子の傷はただ友達を一人得れば治るものでは無いというのに。

 

だけど、女の子は笑った。

笑って、頷いた。

 

「君、名前はなんて言うの?」

「ガネラ」

 

その名前を聞いた時、ケータは雨音が止んでいる事に気がついたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

うおおお!!!あーーー!!!

 

ガネラは悶えていた。死ぬほど恥ずかしかった。

ガネラは今日、とんでもない失敗をしたのだ。

 

ガネラは古代から生きる妖怪である。

親友(妖怪)と共に旅をして、様々な生き物と関わってきた生きる歴史遺産のような妖怪だ。

 

ガネラは、転生者的なサムシングである。

 

ガネラは現代文明を夢見て、超古代から眠りについて、つい二日前に起きたばかりの現代日本新参者だった。

新参者だから、なーんも分かんなくて途方に暮れていたのだ。

 

そんな所に現れた人間の子ども。

 

案内して欲しい!あわよくば友達になって欲しい!

そう思うのも無理はない。だから、ガネラは頑張った。

 

「…友達が居たの。」

 

まず、ガネラは自分にも友達がいた事をアピールした。

ちょっと混乱していた。

 

「ずっと一緒に旅をしてきて、いつも私の事支えてくれて。大好きな友達で………っ」

 

思い出したら感慨深い気持ちになってしまい、ガネラはちょっと泣きそうになった。

 

「でも、起きたらいなくなってて……君に、似てたなぁ…」

 

ここまで言って、ガネラは気がついた。

 

──今の私、めちゃくちゃ不審者だな?

 

そう気づいた瞬間、ブワッと冷や汗が出る。

だって、よく考えたらというか客観的に見たら、今のガネラは子どもに話しかける不審者である。

 

ガネラは動揺したし絶望した。

今この子は、その気になれば警察的なサムシングに通報できる。そんなことされたらおしまいだ……

 

そんなガネラが命乞いの為にとった手段とは…

 

「居場所がないの……」

 

家なき子作戦である。

 

子どもが「かわいそう…」と思っていそうな顔をしたのを見て、ガネラはしめた!と思ったと同時にすごい罪悪感にかられた。

 

やっている事が人間のクズだからである。

元人間なのでそういうことを気にするのだ。

 

「あのさ!俺ん家くる?」

 

でも、自分に都合が良いことを避けるなんて出来なかった。妖怪なので。

 

なんて申し訳ないことをしているんだ、情けない、恥ずかしい。

そんな気持ちが溢れて寧ろ笑えてきた。

 

──そして現在に至る。

 

ガネラは悶えていた。心の中で。

なぜ心の中なのかと言えば、表に出すのは憚られるからである。

 

ガネラはケータの家に居た。

山の中で人間に変化して、ケータに連れてこられた。

 

普通の家である。

だが、最後の記憶が大体1000年以上は前のことであった古い妖怪にとって、色濃いまでの現代を感じられる装飾や機械の数々に心躍った。

 

そして

 

「ケータきゅんについに春が!?アタシはまだ許しませんよ!」

「女の子家に呼ぶとかケータの癖にやるニャン」

「違っ!そうじゃないんだって!」

 

めちゃくちゃ妖怪いるのだけれど……

 

ガネラはドン引きした。

妖怪の見えるだけでは無く、友人にまでなっているのは素直に凄いとは思うが、それはそれ。

家に目に見えるだけで二体も入れるなんて考えられない。

 

正直いって、ガネラは怯えていた。

 

ガネラは、クソ雑魚である。

 

妖怪界隈の中では弱いとされるような妖怪でも、ガネラにならすぐ様王手を討ち取れる。それ程までに弱い。

ガネラは自身を弱肉強食ヒエラルキーの一番下に居るとすら思っていた。

 

それに加え、妖怪は皆本能的と刹那的に生きている事が多い。何によって機嫌を損ねるか分からないところが怖かった。

 

「もー!」

 

服の裾を強く引っ張られて、ガネラの意識は今へ戻された。

家に招いてくれた子どもが頬を膨らませながら、此方を見ていた。

 

「妖怪に戻って!」

 

なんで…?

 

そうは思ったが断って「かかれ!」とかされたら死ぬので素直に従うことにした。

 

変化を解く。細い縫い糸で作った布を一本一本解く感覚だ。

妖力が体に戻ってくる。

 

「紹介するね。」

 

目を見開いている妖怪たちに、ケータが元気よくガネラに手を向ける。

 

「ガネラ!」

「よろしく」

 

そう言った瞬間、赤毛の猫と白いソフトクリームみたいな妖怪が倒れた。

 

「ウィスパー!ジバニャーーーン!!」

 

ええ…どういうことなの…?

ガネラはドン引きした。

 

 

 

 

妖怪というのは、人よりも刹那的な生き方をする。

 

それぞれのサガというのもあるが、なにより、妖怪というのは本能的な者が多い。

 

妖怪の能力に合わせてランクを決めたり、序列が厳しいのはその為だ。

 

よって、妖魔界では流行り廃りのサイクルが人間界のそれよりも早い。

 

だが、1つ例外がある。

 

一つの大昔から存在する伝記だけは、何時だって妖怪を強く強く虜にしてやまない。

 

妖怪らしく本能的で、刹那的で、誰よりも理性的。性善であり性悪でもある。

人を助け妖怪を助け世界を救い、気まぐれに人を、妖怪を、世界を壊す。

 

恐ろしく強大で慈悲深くえげつない、魅力的な妖怪の、その親友が綴った旅の物語。

 

その主人公の名を

 

──ガネラ、という。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにガネラはこの冒険譚のことなど知らないし、この冒険譚は親友の色眼鏡の所為でだいぶ脚色されている。

 

これはガネラがクソ雑魚ながら友達を大切にし、色々やらかして勘違いされまくり、いずれめちゃくちゃに書かれている己の旅路に発狂する。

そんな物語である

 

 





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