某妖怪「超有名冒険譚の主人公が目の前にいるんやが」 作:ピコッピコ
ケータはめちゃくちゃ疲れていた。
変なドアとか、変な人とか妖怪とかに絡まれまくっていたからだ。
ガネラを探し出すのも一苦労。
恐らく人間に化けているであろう少女を、このだだっ広い世界で見つけるのは至難の業だった。
「もう動けないにゃん……」
「あーもう。そこら辺で寝ないでください……」
後ろでウィスパーがジバニャンを引きずる音が聞こえるが、ツッコむ気力もなく。
「ただいま〜……」
ケータは静かに扉を開いた。
三人一緒に家の中に入る。
途端明るい両親の声が聞こえ、ケータは目を丸くした。
ガネラが消えてから、二日が経っている。
泊まっている友人が帰らないとなって、二人は酷く心配していたのだ。
ケータが今は自分の家にいるらしいよ!と誤魔化してるが……連絡一つ寄越さないのは不信だ。
日に日に疑いは強くなっていった。
だから、二人が元気そうな声を出してケータを出迎えたものだから、ケータは驚いた。
靴を脱いで、トタトタとリビングへ入る。
扉を開くとそこには──
──頭の大きな
「うわぁッ!」
ケータはギョッとして、咄嗟に大きな声を出す。
クリーム色の肌と、犬みたいな大きな四角い頭が特徴的な妖怪に、見覚えがあったからだ。
「さ、さとりちゃん!?」
心を読む妖怪、さとりちゃんである。
「あら、ケータ知ってたの?」
「まさか小鳥ちゃんの親戚が来てくれるなんてなぁ。小鳥ちゃんが元気そうで安心したよ。」
「そうねえ。今度からはちゃんと連絡するように言わなくっちゃ」
え!?え!?
ちょっと情報が多すぎて、ケータは狼狽した。
このさとりちゃん、ガネラの親戚だって言ってるの?なんで?
ていうか、なんでお母さんとお父さんに見えてるの?
いや、見えてるならなんで変に思わないの?
なんで???????
「ケっケータ!とりあえず上!上の部屋上がってもらうにゃん!パパとママの前だと妖怪の話なんて出来ないにゃん!」
「そ、そうだね……」
「私もそれがいいと思います。」
さとりちゃん、全然妖怪の話に入ってくる。
一人でに「私もそれがいいと思います」などと言ったから、ケータの両親は不思議そうな顔をした。まずい。
この流れで、ケータが妖怪見えることがバレるかもしれない。まずい。
「ちょっと二人で話してくる!あ、お茶いらないから!」
「あ、ちょっとケータ」
ケータはさとりちゃんの腕を引っ張って二階に上がった。
ドタガタドタ階段がすごい音を立てる。
さとりちゃんが部屋に入ったのを確認すると、ケータは勢いよく扉を閉めた。ウィスパーが挟まる。
「あ、ごめん。」
ウィスパーは奇妙な声を上げて床に落ちていった。
無かったことにして、ケータはさとりちゃんに向き直る。
三つの目全てと目が合って、ケータはちょっとたじろいだ。
圧がすごい。
目が合ったさとりちゃんは、ペコリとお辞儀をする。
「この度は御無礼を。」
「あ、どうもどうも……いや、何!?何しに来たの!?」
「何しに、ですか。」
頭を下げられたので、ケータはちょっと釣られて目的を忘れそうになった。
意味深長な物言いのさとりちゃんに、ケータはゴクリと喉を鳴らす。
変な用事だったらどうしよう。
「
スッと手渡されたのは、名刺だった。
貰うのにもルールが必要だった気がしたが、生憎ケータは小学生であるので、そのまま片手で受け取る。
「なんですなんで……す……」
「にゃ、にゃっ!?」
覗き込んだウィスパーとジバニャンが固まった。
ジャーニー出版
編集 さとりちゃん
…………ジャーニー出版?
「ジャーニー出版って、ガネラの冒険譚を出版してる出版社ですよ!」
「唯一出版が許された出版社にゃん!!」
大慌ての様子の二体を尻目に、ケータは問いかけた。
「ガネラに用事があるの?」
「はい。ケータ様宅に、私が編集を担当させて頂いている
その情報、どこで得たの?
ケータ達の疑問を置いてきぼりにして。
さとりちゃんは「これはほんの気持ちですが」と言い、紙切れを何枚か差し出した。
十万円分の商品券である。
人間界用の。
ケータは引いた。
「こんなに受け取れないよ!」
「ケータ様、これは我が社のせめてもの礼儀なのです。あのワガママかつ冷淡で情熱的、可憐な妖怪の世話をしていただいている。せめてもの。……どうぞ、お受け取りください。」
圧がすごい。
ケータは負けた。
さとりちゃんの顔圧と歴戦を思わせる編集者オーラに負けた。
「先んじて、ケータ様のご両親にもお茶菓子をお渡しいたしました。後で皆様で召し上がってください。」
「あ、ありがとうございます。」
ケータは恐る恐る商品券をサイフにしまった。
開く時にベリベリ音がするやつ。
「さて、今日はガネラ様はいらっしゃらないようですね。」
「あ〜…それなんだけど……」
カクカクシカジカ。
ケータは一から十まで説明した。
ガネラが消えたこと。
恐らく、ガネラが自分の妖怪ウォッチを盗ってったこと。
「なんと解釈一致……っ!」
泣いちゃった……
「ですが疑問が残ります。」
うわっ急に泣き止んだ。
「ガネラ様はあくまでも妖怪。ですが、人間、特に人間の子供にはとても優しいお方です。……お世話になったケータ様に恩を仇で返すような真似をするでしょうか。」
「でも、ガネラってそういうもんじゃーないですかね?」
ウィスパーの疑問の声に、さとりちゃんは「わかってねーなぁ」みたいな顔で首を振った。
「なるほど。
「は????????」
この発言がウィスパーとジバニャンとヒキコウモリとうんがいきょうの琴線に触れた!ガルルルル!
「やめてよ!ここで戦ったら部屋ぐちゃぐちゃになるじゃん!」
ガルルルル!
さとりちゃんはニコやかに笑った。
「で、なんでガネラに会いたいの?」
「ああ、お伝えし忘れていましたね。」
拳をポンとして、さとりちゃんは話し始めた。
「私は冒険譚の大ファンなんです。」
「知ってる」
「担当させていただけたのは、私の生涯、最たる幸運。そして、禁書もまだ未発表の作品も、ボツ作品すらも読ませていただける……ああ…どの作品も素晴らしかった……」
うっとりしているなぁ、とケータは思った。
「私は!!世界中に!!冒険譚を!!!不足なく届けたい!!!!」
「うわっ」
急に大声を出されたので、ケータは驚いた。
大丈夫?下に聞こえてない?
「その為なら私はなんでもやります。台風の中に放り込まれたっていい!禁書を!!地位の高い者だけの物にしたくないのです!!!」
「こ、声でかいにゃん……」
「おっと、失礼いたしました。」
熱意と圧がすごい。
そんなに好きなんだね〜とか言ったら長々と語られそうだったので、ケータは口を噤んだ。
とにかく。
さとりちゃんがケータの家にやってきたのは、ガネラ目当てだということは分かった。
「あ、そうだ。」
やけに明るく調子の良い声で言われたので、みんな首を傾げる。
「皆様もお手伝いください。」
「え、やだよ。」
「そこをなんとか」
「ええ〜……」
ケータは嫌だった。
なんか、面倒くさそう。
「手伝ってくださったら、没作品も読めますよ」
「やりまァす!!!!!!」
「ちょっと!?」
こうしてケータは(勝手に)新たな頼み事を受けることになったのである。
たのみごと オススメレベル 79
えらい人だけが読める禁書を公開してもらおう!
一方その頃。
「土蜘蛛さまがお呼びです。」
う、うわァァーーーーー!!!!
ガネラこと小鳥は絶望していた。
小鳥が過去の世界に来てから一週間あまりになる。
なんか分からないけど、妖怪からの相談を解決する人になっていた。
なんで?
そんなこんなで暮らしてきて、遂に偉い妖怪に目をつけられてしまった。
土蜘蛛。
古典妖怪─昔ながらの妖怪─でありSランクの、元祖軍大将だ。
今、桜町辺りで本家軍と元祖軍の二つに別れて、戦が起きているらしい。
その元祖軍だ。
お偉いさんである。
調子に乗りすぎたんだ……!
「御用は?」
「我が軍の妖怪たちが
含みがすごい
これで断れば、たぶんというか、確実に命は無いだろう。
だって妖怪だもん。
小鳥は泣いた。
心の中で親友に助けてと叫んだ。
小鳥は承諾して、トボトボ目の前の妖怪について行った。