某妖怪「超有名冒険譚の主人公が目の前にいるんやが」   作:ピコッピコ

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先日、土蜘蛛邸は騒がしかった。

 

昨今(さっこん)、ちょっとした嫌がらせをしてくる集団がいた。

 

捕まえようとすると逃げるから捕まえられず、かと言って戦力を裂くには小物すぎる。

 

本家の低ランクの仕業かと、対応をAランクの妖怪に任せていた。

 

──が、この日、その集団を放っておくことは出来なくなってしまった。

 

えんらえんらが攫われたのだ。

 

こえんらや、くだん等の低級が狙われ、えんらえんらが庇ったとのこと。

 

えんらえんらは煙の妖怪だ。

それだけでなくAランクであり、土蜘蛛の侍女である。

 

下手な妖怪の攻撃など避けられるし、効かない。

……だというのに、えんらえんらは攫われた。

 

何か、特殊な妖術やモノがあるのかもしれない。

 

いずれせよ、もう見過ごす訳にはいかないのだ。

 

土蜘蛛が出るほどの幕では無い。

が、部下は出る。

 

指揮を任された激ドラゴン──ムカデ的な外観の常に怒っている妖怪だ──は、頭の冴えた妖怪達と共に、計画を立てていた。

 

様々な出来事から精算し、えんらえんらの居る場所を突き止める。

 

──桜町の、どっかだ。

 

 

 

 

 

 

ブラウン管テレビしゅごーい……

 

ガネラこと小鳥は、桜町にいた。

 

親に内緒で蔵に置いてくれているユキコに頼まれ、おまんじゅうを買いに来たのだ。

 

そして、ブラウン管テレビに夢中になっていた。

この……女の子のヒーローのやつ、良い。

 

ガッツ仮面というものが人気らしいが、小鳥はこっちの方が好みだった。

 

主人公が親友に似てて可愛いからだ。

 

あ、終わっちゃった……

新しい番組に変わって、小鳥はちょっと寂しくなりながら、そこを後にした。

 

右手には包まれたまんじゅうがある。

 

とある人間に頼まれたものだ。

 

……一つ食べていいって言ってたな。

 

だが人が多い。

路上で食べている姿を見られるのは、品が良いとはいえないだろう。

 

仕方なく、小鳥は近くの工場の中に入った。

木を登って、一番陽の当たる所に入った。

 

中は冷たく薄暗い。

暖かい陽光の指す窓が近い、ベランダのような所。

穏やかで良い。

 

ふと気になって、下を見る。

小さめな部屋が上から覗くことができた。

 

休憩室だろうか?そう思っていると、気がつく。

 

…………えんらえんらがいるな?

 

もっと良く見よう。

小鳥は身を乗り出して下を見て──

 

──落っこちた。

 

おい!またかよ!

 

小鳥は急いでロープを掴み、スルスル落ちていく。

 

「ワァ!」

 

小鳥のビビった声に、えんらえんらは目を丸くさせて

 

「…………え?」

 

と呟いた。

 

小鳥は言い訳をしようとして、気がつく。

 

えんらえんらは拘束されていた。

 

……アッ!これきな臭いやつか!

 

早速小鳥は後悔した。

えんらえんらの胡乱げな眼差しに瞬きを返して、ニコリと笑う。

 

「別にとって食おうなんて思っていませんわ」

 

めちゃくちゃ早口だった。

 

「……………」

「私、たまたま、()()()()()()()()()()()()()。分かるでしょう?ここは暖かな太陽と最も近く、それでいて中はソッポ向く娘のように冷たい……休むには、丁度良いと思って。」

「まあ〜、随分とおしゃべりをするのね?……まるで何か隠したがってるみたい。」

 

小鳥のバットコミュニケーション!

小鳥は100のダメージを受けた!

 

不味い。

何も関係してませんアピールをする度に信用を無くしているようだ。

 

小鳥はちょっと困った顔をして、えんらえんらに手を伸ばした。

 

「信じて下さらないの?今の私、まるで灰被り(シンデレラ)を迎えに来る王子様みたいなのに。」

「……灰被り(シンデレラ)?なぁにそれ」

「灰を被って、誰かに尽くす。心の綺麗な娘のことよ。」

「やだわ。私、灰なんて被ってないわよ〜?」

「あはは」

 

そう笑うと、小鳥はえんらえんらを引き寄せた。

 

──ように見えるが、実際は縄を解こうとしたら手が滑った。

 

おっとやべ

 

顔が近くなって、えんらえんらが目を瞬かせる。

 

小鳥の澄んだ瞳が覗き込むようになって、そっと細める。

 

──不思議な瞳。

今まで見た事もない姿をしている。

 

えんらえんらが、そんなことを考えていると、小鳥が口を開いた。

 

「貴方の瞳、まるで灰のようだわ。」

 

囁くような物言いだった。

 

「……あら〜、それは褒め言葉かしら〜」

「旅人は雪を歩くこともある。そういう時に、灰を塗りつけて滑りにくくするの。旅人に必要不可欠、ってことね。」

「…………」

「ふふ。口説き文句みたいだわ」

 

ほんとに口説き文句みたいになっちゃったな……

 

小鳥は困惑しながら、えんらえんらを縛っていた縄を解く。

 

全て解ききると、小鳥は縄を小さく巻いた。

 

えんらえんらは驚いた。

 

この縄に掛けられた妖術をよく解けたな、と。

 

Aランク妖怪であるのに、何故えんらえんらが縄を解けずにいたか。

 

それはひとえに、その縄に掛けられていた術が()()()()()()()()だったからだ。

 

下手に妖力を込めても壊せず、力でも破れない。

そして、とても不気味な術。

 

──それをこの娘は、難なく解いてみせた。

 

ただの人間の娘なのに。

 

一方その頃、小鳥は思っていた。

 

これ、私が作った()()()()()()()()()()じゃね?

 

妖力を込めすぎると爆発するが、その塩梅が死ぬほど難しい。

しかもすぐに壊れて、たまに発動しない。

おまけに小鳥の知識が無かった故に、術の手順がクソほど気持ち悪く、作ると作り手が嘔吐する。

 

そんな、作った当初からカスの扱いだった術である。

酔った勢いで作ったものだ。

 

えんらえんらが縄を解けなかったのは、使った妖力を縄が吸収していたからだ。

 

妖力によっては術が発動しないのだ。

 

妖力を吸収する縄……これはこれで役に立ちそうだな。

もう一度作ったとしても同じ機能にはならないが。

 

えんらえんらが知らなかったのは、出来たのが遥か昔だったから。

クズ術として、歴史にも残らなかったのである。

 

ということで、小鳥は普通に結び目を解いた。

 

「貴方……どうやってこれ()を解いたの?」

「結び目を解いただけですわ。」

「……そう〜」

 

えんらえんらは、小鳥の言葉を比喩だと思った。

更に疑り深くなる。

 

「さて……えんらえんら、貴方帰ったら?」

「ムリよ〜。私を捕まえた犯人が隣の部屋にいるわぁ。捕まえないと。」

 

えっ隣にいるの!?

 

小鳥はチラりと扉を見た。

この部屋に扉は一つしかない。

 

……ここから出ていかなくて良かった〜

危うく見つかるところだった。

 

「帰っていい?」

「あら〜勝手に来て、勝手に帰るの?身勝手ねぇ〜……」

「人間だもの。かわいらしいでしょう?」

「自分で言うの?」

「ふふ。」

 

えんらえんらは呆れた様子で、じゃあ、と言った。

 

「私は行くわ。」

「あらそう。私が居ることは言わないでちょうだいね。」

「それはどうかしら……」

 

えんらえんらは煙になって扉の隙間から出ていった。

 

煙になれるって凄いなぁ。

そう思いながら、小鳥は上を見上げた。

 

そして手に持った縄を見る。

どうにかして上に上がりたい。

 

石に括り付けて投げれば、手すりに引っかかって登れるようになるだろうか。

 

部屋を探してみると、いい感じの鉄パイプがあった。

いい感じに引っ掛けられそうだ。

 

「ナっ、ナニガ起キテル!?」

「ウワーーー!!」

 

あ、えんらえんらが暴れてる音がする。

 

恐らくえんらえんらを捕まえたであろう妖怪たちの悲鳴を聞きながら。

 

小鳥は縄を括り付けた鉄パイプを投げた。

 

鉄パイプは手すりを乗り越え、隙間に引っかかった。

 

よじ登る。

 

「クソッ!ニゲダシタノカ!」

「銃モッテコオオイ!!!討伐用ノダ!!」

 

順調に登っていた小鳥は、急な大声に驚いて、誤って()()()()()()()()()()

 

瞬間、縮む縄。

縮んだ縄に捕まった小鳥は、みるみる内に上へあがり。

 

ウッ、ウワーー!!

 

勢いよく投げ出された。

 

目の前に窓ガラスが見える。

勢いよく、()()()()()()()()()()()()()

 

「コレハ凶悪ナ妖怪ヲ倒スタメノ銃!コレデ終ワリダ」

「くっ、こんな所で……!」

「ワレワレノ目的ハ──」

 

あっ、死んだかも。

 

ガシャーン!と大きな音を立てて、小鳥は窓ガラスを割った。

 

「ナッナンダ!?」

「ナニガオキテイル!?」

 

何が起きてるの……!?

 

ギリギリ掴んだ窓の縁。

破片で切ってしまったが、手を離せばたぶん骨折じゃすまない。

 

「ダガ、オ前に勝チ目ハナイ!」

 

し、死ぬ……頭おかしくなる……!

 

小鳥は懸命に這い上がりると、ヨロヨロと立ち上がり。

 

近くの鉄パイプの山に、もたれかかった。

 

お察しの通り。

鉄パイプは崩れ落ちた。

 

悪い妖怪とえんらえんらの上に。

 

「え゛っ」

「ウワーー!!」

 

あーッ!えんらえんらーッッ!!

 

──ガラガラガッシャン!

 

鉄パイプが全て落ち切り、砂埃が巻き起こる。

 

ヤ、ヤバイ……ヤバイ!!

 

小鳥は戦慄した。

本当に大変なことになってしまった。

 

砂埃が収まっていき、全容が見えるようになってくる。

 

「娘……お、小鳥?ちゃん……?」

「ここに居ますわ」

 

えんらえんらの言葉に、小鳥は自首する気持ちで言葉を出した。

 

えんらえんらと目が合う。

 

その瞬間、小鳥はドッと安堵したのだった。良かった〜!生きてる!

 

「貴方ねぇ……」

 

ジトーとした目で、えんらえんらは小鳥を見た。

いつも気怠げでジト目な眼差しをしているが、今回に限っては本当にジットリしている。

 

「大丈夫?」

「ええ、大丈夫よぉ……貴方のおかげで。」

 

どこか棘を含んだ言い方に、小鳥は苦笑しつつ階段を降りて、えんらえんらの元に向かった。

 

鉄パイプの散乱する床は動きづらい。

下敷きになっている妖怪は気絶しているようだった。

 

「この妖怪、私に何かしようとしていたみたいだわ〜……」

「銃とか言ってたね」

「いいえ〜。その事では無いの〜。もっと他に何か……とり憑こうとしていたような……」

 

え、怖。

 

小鳥は薄ら、ケイゾウに教えて貰っていた怪魔の存在を思い出しそうになっていた。

 

妖怪や人間にとり憑く、ブキミな存在である。

 

……が、あまりハッキリとは思い出せず、スッとそのまま海馬の奥に消えていく。

 

ネタばらしをすると、犯人は怪魔である。

また妖怪に取り憑いて、今度はえんらえんらに取り憑こうとしていたのだ。

 

ちなみに、本家の方のえんらえんらは、もう既に取り憑かれている。

元祖にも複数いる。

 

そんなこと、小鳥は全く知らないが。

 

「そのぉ〜……」

「あら」

「……ありがとう」

「あら〜」

 

殊勝なえんらえんらに、小鳥は微笑ましい気持ちになった。

少し顔が赤いような気がする。

 

「貴方、なんで私を助けたの?」

 

えんらえんらは、チラリと小鳥を見る。

キレイな服が台無しだ。見れば、手を切っている。

 

きっと窓ガラスで切ったのだろう。

 

「まぐれ……なんて言ったら味気ないわね」

「なぁにそれ」

 

クスクス笑われて、小鳥は笑みを浮かべる。

 

「運命ってそういうものよ。」

 

その笑みが悪戯が成功した子どもみたいで、えんらえんらは少し意外に思った。

 

お館様に喧嘩売った時は、なんて娘だと思ったものだが。

 

「灰被り(シンデレラ)の運命は王子様と踊って恋に落ちること、私の運命は貴方を助けること」

 

えんらえんらは目を見開いて、口を数度開けて閉めてを繰り返した。

 

みるみる内に顔が赤くなっていく。

 

「それって……わ、私の運命の人が貴方だって言いたいの?」

 

小鳥は鈴の鳴るように笑って、細まった眼差しを向けた。

 

「ふふ、かわいい言い方するのね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

────みたいなことがあった。

 

「…………小娘」

「はい」

「手を出したのか?」

「いえ全くそのつもりは」

「え〜?手ぇ出してくれないの〜?」

「えんっ……」

 

えんらえんら〜!

土蜘蛛めっちゃ動揺してるよ〜!?

 

えんらえんらに、小鳥がめちゃくちゃ頼み込んで、助けたことを黙ってもらったことによって

 

「……………」

「……………」

 

小鳥は、喧嘩売った相手の部下に手を出す奴みたいになっていた。

 

いやまあ、間違いでは無いのだが……

 

土蜘蛛と目が合う。

黄金色の眼に己が写って、小鳥は困ったような笑顔を浮かべた。

 

 





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