某妖怪「超有名冒険譚の主人公が目の前にいるんやが」 作:ピコッピコ
宴である。
どんちゃんどんちゃん。
元祖本家が和解したことを記念した宴で、ガネラこと小鳥は端っっっっこで縮こまっていた。
物の見事に妖怪だらけである。
人間は二人だけ。
なんでケータとケイゾウはあんなにも自然体なんだ。
めちゃくちゃ強い奴ばっかなのに。
そして小鳥は震えていた。
恐怖から……だけではない。
禁断症状である。
お酒、飲みたい。
右見ても左見ても、酒を飲んだくれている妖怪しかいない。
子どもがいるからといって控えはしない。
見たことの無い──恐らく日本酒をグビグビ美味そうに呑んでいた。
小鳥はお酒がだーいすきである。
古代では飲み水が大変貴重であったが為に、飲料は大概お酒であった。
よって、古代では酒が好きでないと生きてはいけない。
強くもないと、大体死ぬ。
飲みたい……呑ませてくれ……
小心者であるので「呑みたぁい!!」などと主張することも出来ず。
時たま回されてきそうになる酒を、何故か、えんらえんらに阻まれていた。
「お子様は呑んじゃダメよ〜」
……ってな感じで。
人間だと思わせている弊害がここに来て効いてきていた。
まぁ、今おちょことかを持ったとしても、手が震えて落とすし……不幸中の幸いである。
ガシャンパリンジャバ!不敬!ザク(死)は避けたい。
そう考えていると
「お、小鳥……」
背後から声をかけられて、小鳥は振り返った。
ふよふよ浮いている浮遊猫が、そこにいる。
「あら、フユニャン。どうし」
「ちょっと来てくれないか……!」
「……いいけど」
中々迫真の声色と顔で言われたので、小鳥は素直に頷いた。
人気の無いところに移動すると、途端静かになる。
遠くで妖怪たちの喧騒が聞こえて、その中にケータとケイゾウの声を見つけて、思わず微笑む。
「ガネラ」
小鳥は目をパチパチと瞬かせて、口元を少し覆った。
目を三日月みたいに細める。
「なぁに」
「ヒュッッッ」
すっごい息を吸い込む音が聞こえた。
なに?
「ほ、本当にガネラ……なのか……」
「……私以外に
「いや!いない!絶対に居ない!」
「あらあら」
小鳥はちょっと引いた。
どうしたんだ、この妖怪。
フユニャンのアワアワした様子に、小鳥は分かり易く眉を下げる。
大方、ケータがバラしでもしたのだろう。
「正体を隠してくれ」とは頼んでいないからだ。
「何か、仰りたいことが?」
「あ、ああ、うん。ああ」
フユニャンは咳払いをして、言う。
「ありがとう、ガネラ。君のおかげで桜町に……ひいては世界に平和が戻った。」
「言い過ぎよ」
「いいや。謙遜はよしてくれ」
いや、謙遜じゃなくて本音なんだけど……
小鳥は困ったように微笑んだ。
迷ったらわろとけ
「キミはオレたちを導いてくれたし、守ってくれた。……恥ずかしい話だが、キミがいなかったらオレ達は、何も出来なかっただろう」
……………そう言われて、小鳥はジッとフユニャンの目を見ようとする。
だけど、下げられた目線とカチ合うことは無く、ただ悪戯に見つめただけになってしまった。
なんでそんな落ち込んでるんだ……
小鳥は困った。
真面目に何もしていないからだ。
この短い……妖怪の体感的には短い日々を過ごして、フユニャンの妖怪となりは少し分かってきている。
真面目なのだ。
この浮遊霊は、ヒーローに成りたい気持ちと友達や他人への誠実さを併せ持つ、紳士的な妖怪である。
「本当にそう思ってらっしゃるの?」
おっし、ちょっと慰めて差し上げよう
小鳥は気合を入れた。
なに、普通のことを言えば良い。
「貴方は、この騒動で何をしたのかしら」
まず、自分の行動を振り返らせる。
「ケータを呼び寄せた。オレだけではケイゾウを助けられない、世界を守れないから、助けを……」
「そう。それの、何が恥ずかしいのかしら」
そう言うと、フユニャンは目を丸くさせた。
小鳥は微笑む。あくまでも優雅に。
「助けを求めることの辛さを、貴方はよく知っていなくてはならないわ。だってほら、ヒーローになりたいのでしょう?」
「……ああ、ヒーローになりたい。みんなを守れる、戦える、ガッツ仮面のようなヒーローに。」
「誰かに殴られた時、騙された時、いかような時でも……存外、助けって求められないの。「たすけて」なんて言えないヒトばかりだわ。」
フユニャンは何かに気がついたような表情で、少し息を吸った。
「……それは……キミの経験談か?」
「そうかも……こう見えて、私すごくおばあちゃんだから」
「ああ、知ってる」
小鳥はちょっと傷ついた。
そんな事まで聞いてたんだ……
「貴方は、結果的に私の助けになったのよ? 目の前にいるヒトリの助けに。それの何が恥ずかしいの…?」
少しの沈黙が訪れる。
風で髪がたなびき、フユニャンのマントが揺れた。
「……勝てないな」
フユニャンの、その呟きを聞いた者はいない。
だが、小鳥はまるで聞き届けたように笑う。
フユニャンは真っ直ぐに小鳥を見た。
真っ白なドレスと黒い髪、そして澄んだ瞳を見た。
ああ、こんな姿だったのか。
長いこと憧れた妖怪。きっと、きっといつか一目見えたいとすら切望した。
いつの日か、ケイゾウに語ったことがある。
冒険譚とはどのような物か、そしてガネラとは、冒険とは何なのか……
──ソイツはヒーローなのか?
ケイゾウの問いかけに否定をした。
だけど、そういう要素があることは否めない。
──……好きなのか?
口ごもって、いいや!と答えた。
「ガネラ、受け取ってくれないか。俺のトモダチの証を」
友人になりたいんだ。
激情的な感情を感じる。ああ、読む度息が止まる。
小鳥は何も語らない。
だから、勝手に渡した。
小鳥は、近くに飛んできた光る物を掴む。
「──妖怪メダルだ。」
丸いメダルの真ん中に、フユニャンの姿が刻印されていた。
それを掲げると、何処からか光が反射して輝く。
イサマシ族であることを示す緑色。
「これを受け取るのは初めてだわ」
「……そうか」
全く他意の無いその言葉に、フユニャンは照れくさそうに頭をかいた。
…………メダル?って何……?
小鳥はメダルを知らなかった。
本当になにこれ……?
小鳥は、ケイゾウやケータ達と一緒に夜の道を歩いていた。
暗い空に星が浮かんでいる。
ここまで届きそうも無いくらい遠い光の下で、世間話をしながら歩く。
駅前に着いた。
小鳥が話しかけたことでビビって飛ばしてきた、うんがい三面鏡が震えながら待っている。
どうやら己に怯えているのだと、小鳥は魂で理解した。
「あら、心外だわ。何もしてないのに」
「いや妖怪姿で声掛けられたら誰だって失神しますよ」
「そんなことないでしょう」
「あるんだよなぁ……」
うんがい三面鏡に話しかけに行ったケータ達を待ちながら、小鳥はケイゾウに目を向けた。
「これでお別れね」
「……いつでも会いに来れるだろ」
「過去に干渉しないのが、物の道理というものよ……古い
いつまでも軽い調子の小鳥の言葉に、ケイゾウが目を伏せる。だけども、すぐに顔を上げた。
「手を出してくれないか」
小鳥は不思議そうに、けれど素直に手を差し出した。
何かが載せられる。
「──妖怪ウォッチだ」
ピンク色の懐中時計のような物。
ハート柄がかわいらしい。
小鳥が少し目を見開くのを、ケイゾウは照れくさそうに見つめた。
「これが欲しかったんだろ?」
「……誰から聞いたのかしら」
「ケータ達から妖怪ウォッチを欲しがってるって聞いた。それに、見る度に褒めてただろ」
「集ったつもりは無いの。本当に素晴らしい作品だから、心からそう思って、言っただけよ。」
「……家にあるヤツで作った試作品だけど、良ければやるよ」
少し重い。
これに紐なんかを着けて、首から下げるのが一番良いだろう。
「本当に、これの為だけに動いた訳じゃないのよ」
「知ってる。お前と関わってたら、何もわかんねぇけど、それくらいなら分かるようにはなるぜ」
「……そう」
小鳥が瞬きをする。
澄んだ瞳が消えて、点く。
「お前とはもう会うことはないかもしれない。」
「……」
「でも、それがある限り、俺らは…………その………………」
何を言おうとしているかは、何も考えなくても分かった。
小鳥は心底愉快そうに笑うと、初期型妖怪ウォッチを握りしめた。
「まぁ、私は長生きだもの。いつか会うわ」
「俺がおじいちゃんになるより早く会いに来いよ」
「人間の年齢ってよく分からないのよね」
「おいおい……」
ケータの声が聞こえた。
もう、行かなくてはならない。
「おじいちゃん、じゃあね!」
「また会いに来ますよ〜!ウイッス」
「次こそはチョコボーを用意するにゃんね」
ケータ達がうんがい三面鏡に吸い込まれていく。
最後に小鳥が飛び込む寸前、振り返って言った。
「私」
輝きに乗った小鳥の目線とかち合う。
メダルのような煌めきの瞳を渡す。
「本当はガネラと言うの。秘密にして頂戴ね!」
ケイゾウの目を見開いた顔に、悪戯っぽい笑みを返して、飛び込んだ。
目の前が真っ白になって、視界が開ける。
そこはケータの部屋の中だった。
「…………まぁ、何だかんだ言って、友人の好きそうな冒険になったわね」
「ガネラ何ブツブツ言って────アッ!」
「ガッ、ガネラさんその手に持ってるのって……」
ジバニャンとウィスパーの震える声に、小鳥はニヤッと笑った。
「お礼よ」
「……………やっぱりそれが目的だったんだ……」
ケータの何とも言えない目に、小鳥はフフと笑って見せた。